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[寄稿] 米英豪の新たな安保枠組み「オーカス」が落とした4つの影

登録:2021-10-11 07:52 修正:2021-10-11 08:36
ムン・ジョンインㅣ世宗研究所理事長 

米国主導のオーカスは地政学の帰還を通じて新冷戦の始まりを具体化する不吉な信号弾と言わざるを得ない。国内政治と反中感情を計算する米国の短期的利益には役立つかもしれないが、アジア太平洋地域の全体秩序から見て、長期的には反対の結果を生み出す可能性も十分ある。
米国のジョー・バイデン大統領が先月15日、ホワイトハウスで米国、英国、オーストラリアの新たな安全保障枠組み「オーカス(AUKUS)」の創設を知らせる記者会見を英・豪首脳がオンラインで出席した中で行っている=ワシントン/EPA・聯合ニュース

 9月15日、米国・英国・オーストラリアの首脳がオンラインで首脳会談を行い、「オーカス(AUKUS)」という新しい形の安全保障枠組みの結成に合意した。すでに長い間同盟関係を維持してきたこれらの国が、改めて新しい軍事技術パートナーシップを構築したことは興味深い。言わば同盟の進化だ。

 この合意を受け、米国と英国はオーストラリアに8隻以上の原子力潜水艦の建設に必要な技術と核物質を提供し、長距離誘導ミサイルを含む各種ミサイルや人工知能、量子コンピューティング、サイバー分野での技術協力と共有を通じて、互いの戦力運用の互換性を高めることにした。多くの人々が指摘するように、これはオーストラリアの防衛力の増進であると同時に、中国の海軍力の増強の牽制に重きを置いている。オーストラリアは原子力潜水艦を獲得したことで、防御を越えて将来、南シナ海や東南アジア、さらに北東アジアでも、米国の空母戦団を保護し、中国の原子力潜水艦に対応する軍事活動に参加できるようになった。欧州国家である英国がインド太平洋地域に対する軍事的関与を公式化したという事実も注目する必要がある。

 オーカスの結成が、米国のインド太平洋戦略には大きな好材料であることは明らかだが、米国の同盟体制と地域の安保秩序にとっては4つの深刻な懸念をもたらしている。第一に、米国の同盟体制の序列化の問題だ。オーストラリア政府と77兆ウォン(約7兆2千億円)に達するディーゼル潜水艦の調達を進めたが、 今回の合意で契約直前に破棄されたフランス政府の事例は、このような差別性を如実に示している。米国同盟のピラミッドに例えるなら、英国とオーストラリアが最上部で、ファイブ・アイズ(機密情報共有枠組み)に参加しているカナダとニュージーランドはその下、フランスやドイツ、日本、韓国など非アングロサクソン同盟国は最下部ではないかと皮肉られるほどだ。オーカスの合意がもたらしたこのような不満や反感は、米国中心の同盟体制にかなりの亀裂をもたらしかねない。

 第二に、韓国にとっても、米政府のダブルスタンダードについては複雑な思いを抱かざるを得ない。文在寅(ムン・ジェイン)政権は就任当初から、米政府に原子力潜水艦の獲得に関する技術や核物質の支援を要請してきたが、トランプ政権は韓米原子力協力協定により、原子力の軍事利用を許可できないとの理由で、これを拒否した。しかし、今回の合意でオーストラリアはこれらの原則から除外された。米政府は、核拡散防止に関してオーストラリアが透明性を徹底して維持してきたために可能なことだとしながらも、今後そのような例外措置はないという点を明確にした。韓国政府としては、米国の二律背反的な行動に当惑しただろう。韓国の国民も同じだと思われる。

 第三に、マクロ的には今回の措置によりアジア太平洋地域での軍拡競争の可能性が高まり、核拡散防止体制にも疑問が提起されている。もちろん、原子力潜水艦と核兵器搭載潜水艦はその意味が全く異なっており、今回オーストラリアが獲得することにしたのは前者だ。しかし、こうした流れは韓国や日本などによる原子力潜水艦の獲得に向けた動きを大きく煽る可能性がある。特に、フランス政府は米国の今回の決定に対する反発として、韓国と原子力潜水艦に関する協力を積極的に推進するだろうし、すでに原子力潜水艦の建設を国防中期計画に盛り込んでいる韓国政府としてはこれに応じる可能性が高い。これらの動きが日本の行動にも影響を及ぼすことは明らかだ。中国やロシア、北朝鮮もこれに敏感に反応し、北東アジアの軍拡競争がいっそう激化する恐れがある。各国がこの流れに積極的に乗じることになれば、この地域の核拡散防止体制も大きく揺れるだろう。

 最後に、オーカスの結成は、多くの脈絡で地域の安全保障秩序にかなりの変化をもたらすだろう。オバマ政権のアジア・リバランス(再均衡)政策やトランプ政権のインド太平洋戦略とクアッドに続き、オーカスは中国の浮上に対するバイデン政権の勢力バランスまたは脅威バランスに向けた布石といえる。これは、中国との新冷戦に進む経路を遮断するよりも、むしろ促進している。対外的には国際的自由主義を標榜するバイデン政権も、現実主義的な計算法に囚われていることを如実に表している。

 こうしてみると、米国主導のオーカスは地政学の帰還を通じて新冷戦の始まりを具体化する不吉な信号弾と言わざるを得ない。果たしてこのような流れを望ましい戦略的布石と言えるだろうか。国内政治と反中感情を計算する米国の短期的利益には役立つかもしれないが、アジア太平洋地域の全体秩序から見て、長期的には反対の結果を生み出す可能性も十分ある。このような背景から、代案的秩序を生み出すよりも、力の論理に傾いている今の米国政府の発想の転換が必要と思われる。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンインㅣ世宗研究所理事長(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1014585.html韓国語原文入力:2021-10-10 19:02
訳H.J

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