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[寄稿]朝鮮戦争――存在しない戦争、代を重ねる戦争

登録:2021-09-27 07:51 修正:2021-09-27 08:35
米国の公論には朝鮮戦争は存在しない。存在しない戦争なので、終戦宣言をする必要もない。このように米国は沈黙の中で世界の秩序を維持している。文在寅大統領はバイデン大統領の国連総会演説の2日後の23日に再び終戦宣言の話題を持ちだした。その演説は朝鮮戦争を米国の沈黙の中から取りだすことができるのだろうか。 
 
ソ・ジェジョン|国際基督教大学政治学・国際関係学デパートメント教授

 「米国は20年に及ぶ戦争を終えました。私たちは“歴史の”1ページをめくりました」

 米国のジョー・バイデン大統領が宣言した。「戦争は終わった」。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が願った終戦宣言だろうか。

 21日にバイデン大統領が国連総会で厳粛に宣言したのは、アフガン戦争の終息だった。アフガニスタンからの米軍の撤退が完了したので、米国はもはや戦争をしていないということだ。

 バイデン政権は、すでに国家安全保障戦略で「永久戦争」を終息させると公言してきた。しかし、米国の「最も長い戦争」とは、20年に渡るアフガン戦争のことであり、その戦争を終わらせるということだった。70年を超える朝鮮戦争は、最も長い戦争の名簿には載せられなかった。永久戦争を終息させると述べたが、朝鮮戦争の終息は国家安保戦略のどこにも言及されなかった。バイデン大統領の念頭に朝鮮戦争はない。彼の国家安保戦略にも朝鮮戦争はない。初めから言及されない戦争だから、終わらせなければならないという決意がないのは自然なことかもしれない。

 その翌日、ニューヨーク・タイムズのマーク・マゼッティ記者が鋭く指摘した。単にアフガニスタンから撤退しただけであり、戦争を終わらせたのではないのだと。まさにその前日、米軍はシリアでドローンを用いてミサイルを発射した。アルカイダを狙ったものだった。その3週前には、ソマリアで軍事組織のアル・シャバブを狙い爆撃を浴びせた。今もなおイラクには2500人の米軍が駐留しており、シリアには900人が残っている。中東で作戦中の米軍は4万人以上だ。アフガニスタンでも必要となればいつでも軍事力を行使できるということを、バイデン大統領自身も公言している。

 マゼッティが正しい。米国は今もなお戦争中だ。しかし、彼も間違っている。米軍が戦争を遂行している複数の国に言及したが、彼の念頭にも朝鮮戦争はなかった。1950年から北朝鮮と戦争をしていて、その戦争の一環として韓国に米軍が駐留していて、少し前にも韓国軍と米軍は合同演習を実施したが、マゼッティの戦争リストには朝鮮戦争はなかった。

 彼の間違いだけではない。米国の国外への軍事介入に批判的なアンドリュー・ベースビッチも同じだ。米陸軍士官学校のウェストポイントを卒業し忠実な将校として服務した彼は、ブッシュ政権のイラク侵攻に批判の声を上げた。以後、多くの著述を通じて米国が第二次世界大戦後に各地で軍事介入をしたと指摘し、それを「永久戦争」と表現した。米国を永久戦争に推し進める「ワシントン規則」があると指摘しながらも、その「規則」を誕生させることに決定的な寄与をした朝鮮戦争は、彼の関心外だ。

 第二次世界大戦直後に自然落下した米国の国防予算が再び急上昇したのは、朝鮮戦争のためだった。朝鮮戦争の際に増えた国防予算は、今もなおその水準を保っている。将来が不透明だった北大西洋条約機構(NATO)も、朝鮮戦争を機に確固たる軍事同盟となり、被占領国だった日本は、朝鮮戦争の勃発直後に独立を得て、米国と同盟を結んだ。ジョン・アイケンベリーは、米国が樹立した戦後秩序を「自由主義国際秩序」と呼ぶが、ジョン・ミアシャイマーが指摘したとおり、これは力に基づく現実主義的国際秩序というのがより適切だろう。その国防予算と軍事力と軍事同盟と国際秩序は、今もなお続いている。しかし、自由主義者のアイケンベリーも、新現実主義者のミアシャイマーも、その出発点が朝鮮戦争だという史実には触れない。朝鮮戦争が続いているという現実は誰も言わない。

 つまり、米国の公論には朝鮮戦争は存在しない。存在しない戦争なので、終戦宣言をする必要もない。このように米国は沈黙の中で世界の秩序を維持している。米国のマーク・ランバート国務副次官補がそのような本音をこっそりと示した。彼は24日の韓米研究所主催のリモート対談で、終戦宣言について「どのような形であっても在韓米軍の駐留や韓米同盟を危険にさらしかねない間違った印象を北朝鮮に与えてはならないということが、米国の判断」だと述べた。

 文在寅大統領はバイデン大統領の国連演説の2日後の23日に、再び終戦宣言の話題を持ちだした。その演説は、朝鮮戦争を米国の沈黙の中から取りだすことができるだろうか。偶然にも、同じ日にキム・ソクチュ一等兵が71年ぶりに故郷に帰った。朝鮮戦争当時、長津湖(チャンジンホ)の戦いで戦死した彼は遺骨となって帰還した。看護将校になったひ孫のキム・ヘス少尉の懐に抱かれて。朝鮮半島ではこのように、代を重ねて戦争が続いている。

//ハンギョレ新聞社

ソ・ジェジョン|国際基督教大学政治学・国際関係学デパートメント教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1012770.html韓国語原文入力:2021-09-27 02:33
訳M.S

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