アフガニスタンからの米軍のあわただしい撤退が完了した先月31日(現地時間)、バイデン大統領は「アフガンに関する決定は単にアフガンのみに関するものではない」とし「これは他の国々を再構築しようとする主要な軍事作戦の時代の終結に関するものだ」と述べた。
バイデン大統領のこの日の国民向け演説について、「ニューヨーク・タイムズ」、「フィナンシャル・タイムズ」などの主要メディアは「バイデン・ドクトリン」の浮上だと解釈した。バイデン・ドクトリンの出発点は、中東などで無制限な紛争の泥沼に陥らないようにするなど、全世界的な軍事介入を縮小・自制するというものだ。これは、内外の非難を押し切って8月末に終了したアフガン撤退を通じて、劇的に明らかになった。同時に国家安全保障の焦点を中国、ロシアなどの「戦略的ライバル」との対決に絞るとともに、気候変動などの新たな挑戦に対処することを最も重要な国益とするとの内容が含まれている。
バイデン・ドクトリンの核心は、実はオバマ政権以来10年以上にわたって米国が追求してきたものだ。オバマ政権は「アジアへの帰還(Pivot to Asia)」政策を打ち出し、トランプ前大統領は「アメリカ・ファースト」を掲げて中東からの撤退を強く主張した。今回の撤退の土台となったタリバンとの「ドーハ和平交渉」を妥結したのも前任のトランプ大統領だった。「中国の浮上」が本格化した2010年代初めから、米国は中東から脱し、中国との対決に集中しようとしていた。にもかかわらず、大統領の名を冠したドクトリンで包装し直しているのだ。米国が直面している現実を見れば、この課題は決して生易しいものではないからだ。
まず、アフガン戦争などを招いた「テロとの戦い」の相手であるテロ勢力は依然として健在だ。バイデン大統領はアフガン撤退の完了後、「私はこの永遠の戦争をこれ以上引き延ばさない」と述べたが、その瞬間にも米国はサハラ砂漠の奥地でテロ勢力を追跡する秘密基地を拡張していると「ニューヨーク・タイムズ」は伝えた。リビアのアルカイダやイスラム国(IS)だけでなく、ナイジェリア、チャド、マリのイスラム主義武装勢力を監視、攻撃するドローンがこの基地で運用される。同紙の指摘によると、米軍のアフリカ司令部は、アルカイダと提携するソマリアの武装勢力アル・シャバブにドローン攻撃を再開する一方、ソマリアに特殊軍訓練官を再派遣することを考慮中だ。
ブラウン大学の戦争費用プロジェクトの集計によると、米国は2018~2020年に85カ国でテロに介入した。米国はイラク、ケニア、マリ、ナイジェリア、ソマリア、シリア、イエメンと、軍撤退を完了したアフガンなどを含む12カ国で直接・間接的に戦闘に介入した。カメルーン、リビア、ニジェール、チュニジアでは特殊作戦を展開する合法的権限すら持っている。アフガン、イラク、リビア、パキスタン、ソマリア、シリア、イエメンの7カ国では空爆やドローン攻撃を行っている。米軍は41カ国で対テロ訓練を実施してきたほか、80カ国で軍および警察と国境守備隊を訓練してきた。イラク戦争が一段落した2008年以降もカタール、バーレーン、イラク、トルコ、アラブ首長国連邦、サウジアラビアに軍事基地を置いており、これらの国々に加えてヨルダン、クウェート、シリアに合わせて6万~8万人の米軍を駐留させている。全世界に駐留中の米軍は約20万人にのぼる。伝統的な大規模駐留国である日本、ドイツ、韓国を除けば、海外駐留戦力の70%近くが依然として中東に集中している。
米国は、このような軍事的介入を継続することも、手を引くこともできないというジレンマに陥っている。テロに対応するために米国が介入した国々の現地政府は、米国への依存度が高まっている。アフガンは、米国のこのようなジレンマを典型的に示す事例だった。イラク戦の泥沼から脱出しようとして軍事力を撤退に近いほどにまで縮小してからは、ISが浮上した。
9・11テロ以降、米国の対外戦略において軍事力使用の比重が増したことも、中国との競争への効果的な対処を阻んでいる。9・11テロが起きた2001年の米国の国防費は2930億ドルだった。中国や欧州諸国などの2~16位の国の国防費を合わせたものより多かった。現在、米国の国防費は7000億ドル(2022年の要求額は7150億ドル、約836兆5500億ウォン)に達し、米国以外の全世界の国々の国防費を合わせたものとほぼ同じだ。外交に責任を負う国務省の予算は585億ドルで、国防総省予算の8%にすぎない。9・11テロ以降、国防総省は増える予算と拡大する軍事介入に合わせ、国防総省および軍の機構と役割を果てしなく拡大してきた。国防総省が米国の対外政策を主導しているのだ。
国防総省と軍は、「ワシントンポスト」が報じた「アフガンペーパー」からも分かるように、アフガンの戦況をごまかし、その泥沼にはまらせながらも、最後まで撤退に反対した。浮上する中国への対処でも、米国は対決的観点、特に軍事的対決の観点に集中している。オバマ政権時代に始まった東シナ海と南シナ海の「航行の自由」作戦を皮切りとした攻勢的なインド太平洋戦略の展開などがそれだ。最近では中国の台湾侵攻も想定し、日米同盟の強化による軍事的対応策を練っている。
アフガン撤退とバイデン・ドクトリンは、1970年代のベトナム撤退とニクソン・ドクトリンに例えられる。米国の過度な軍事力展開と介入を縮小し、他の主敵に対抗しようという戦略だ。ニクソン・ドクトリンは当時のソ連という主敵に対抗するために、中国という戦略的協力者を求めるものだった。バイデン・ドクトリンは、9・11後の20年の間に強大なライバルとして浮上した中国に対抗するために、無事に中東から脱出できるだろうか。また、米中戦略競争という運命をかけた勝負において、自分たちを勝利へと導く戦略的協力者を見出すことができるのだろうか。