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[寄稿]カブールの教訓は別にある

登録:2021-09-06 08:46 修正:2021-09-06 09:59
ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長 

カブールからの撤退過程でバイデン大統領と米国が残したメッセージは明らかだ。自分の足で立とうとしない者には、誰も手を差し伸べてはくれないものだ。トリップ・ワイヤ(trip-wire)のような過去の論理にとらわれていては、米軍に頼りっきりだったアフガニスタン政府の過ちを繰り返すことになりかねない。
アフガニスタンのあるイスラム武装団体の隊員たちがタリバンの旗を振りながらタリバンのアフガン掌握を祝っている=イドリーブ/AP・聯合ニュース

 8月15日、カブールが陥落した。世界中が衝撃に陥ったが、我々にとってはさらにそうだった。朝鮮戦争当時の漢江(ハンガン)鉄橋の爆破と、1975年4月30日のサイゴン陥落の混乱と悲劇が脳裏に焼き付いている人々にとって、「仁川空港がカブール空港のようにならないとも限らない」という政治家の発言は、過去の記憶をまるでデジャブのように生々しく蘇らせただろう。

 外国のメディアも(韓国がアフガニスタンの二の舞になりかねないという主張の拡散に)一役買った。「韓国がこのように持続的な攻撃を受ける状況だったなら、米国の助けなしには、すぐに崩壊したことだろう」というワシントン・ポストのコラムニスト、マーク・ティッセン氏のツイッターへの書き込みが、複数の韓国メディアの紙面を飾った。海外メディアで朝鮮半島問題を長く扱ってきた特派員のシム・ジェフン氏とドン・カーク氏も「台湾、日本とは違い、平和とデタントという空虚なスローガンを乱発し、韓米同盟を阻害し、韓米軍事演習を縮小する文在寅(ムン・ジェイン)政権下で、韓国の安保は危うくなる恐れがある」と述べた。

 米軍の撤退とタリバンによるカブール征圧後、韓国の安保と関連して様々なメディアで言及された内容は大きく分けて3つだ。いわば「バタフライ効果」と言える。一つ目は、韓国軍に対する懸念だ。「現政権は韓国軍を敵のない軍隊、目的のない軍隊、訓練しない軍隊にした」というユン・ソクヨル大統領予備選挙候補(国民の力)の発言が代表的な例だ。アフガニスタン事態を踏まえ、韓国の状況を批判的に捉えた発言といえる。二つ目は、平和協定無用論だ。カブール陥落の根本的な原因が2020年2月に締結された米国とタリバンのドーハ平和協約にあると指摘し、終戦宣言と平和協定を進めてきた文在寅政権の朝鮮半島平和構想がアフガニスタンのような災いを招きかねないと批判する。三つ目は、在韓米軍と同盟問題だ。在韓米軍なしでは韓国の安全保障を守れないのが現実だが、米国は自らの国益次第でいつでも米軍を撤退できる。したがって、米国を引き留めるためにも、同盟国としての役割をきちんと果たすべきという注文だ。

 しかし、このような懸念、批判、注文は多分に荒唐無稽に聞こえる。まず、韓国軍をアフガニスタン軍と比較することは侮辱に近い。アフガニスタン兵力の90%以上が非識字者で、30万兵力のうち6万人が実際に存在しない幽霊軍隊だった。各種族と部族から充員され、異質の寄せ集めで構成されたという根本的な限界に加え、ずさん極まりない指揮統制体系が重なり、米国の軍需兵站はもちろん、空中および偵察監視支援なしには作動しない名ばかりの軍隊でもあった。世界トップの戦闘力と積み重ねた戦力投資費を誇る、70年の伝統を持つ韓国軍は、そもそもアフガニスタン軍の比較の対象にならない。最近、軍内の性的暴力問題などいくつかの事例を挙げ、韓国軍の安保意識や戦闘力、綱紀を貶めることはさらに納得がいかない。

 ドーハ平和協約が問題だらけなのは事実だ。米国と北ベトナム(ベトナム民主共和国)の1973年パリ平和協定もそうだった。交渉過程で、トランプ政権はアフガニスタン政府を事実上排除し、タリバンと無理な交渉を進め、アフガニスタンの政治的安定が確保されていない状態で米軍兵力の削減と撤退に合意した。当時の交渉の最大の敗着だった。しかし、これを文在寅政権の平和構想と結びつけるのは無理な話だ。終戦宣言が米軍の撤退と同盟の崩壊につながるかのように主張する人もいるが、韓米両国政府は終戦宣言が朝鮮半島の緊張を緩和し、北朝鮮の非核化を推し進める象徴的ジェスチャーであり、手段という点を明確にしてきた。終戦宣言が韓米同盟や在韓米軍の地位とは関係がないという事実も同様だ。停戦協定を平和協定に切り替えるのは、北朝鮮の非核化に連動している。また、韓国政府が平和交渉を主導する意志と力を備えていることから、韓国とアフガンとは大きく異なる。

 韓米同盟と在韓米軍の重要性は誰も否定できない。日増しに強化される北朝鮮の核能力の抑止態勢を構築するためには欠かせないものだ。しかし、アフガニスタンの悲劇が韓国に投げかける教訓は、同盟と米軍を常数と見なす惰性から抜け出し、戦時作戦統制権の早期移管を通じて、韓国の防衛は韓国軍が主導し、米軍が支援する体制を構築しなければならないという点だ。カブールからの撤退過程でバイデン大統領と米国が残したメッセージは明らかだ。自分の足で立とうとしない者には、誰も手を差し伸べてはくれないものだ。トリップ・ワイヤー(trip-wire)のような過去の論理にとらわれていては、米軍に頼りっきりだったアフガニスタン政府の過ちを繰り返すことになりかねない。

 このように、カブールの教訓は別にある。自分の意志と能力を自ら過小評価し、相手の誤った判断を招いたり、政派的利益のために客観的な現実を歪曲して国益を害してはならないという点だ。そして同盟を守るためにも、まずは自強に励むことだ。それが常識だ。目先の利益のために常識から目をそらす人たちがいることこそが問題だ。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長(japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1010477.html韓国語原文入力:2021-09-0518:44
訳H.J