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[寄稿]「黄禍論」の再浮上―黄色人種に対する恐怖

登録:2021-04-06 05:58 修正:2021-04-06 08:16
キム・ウジェ|知られていない科学者

 「ドイツと日本を早く統制できず、大きな代償を支払わなければならなかった。中国にだけは同じ失敗を犯してはならない」。米国の経済雑誌「フォーブス」の発行人だったスティーブ・フォーブス氏が語った言葉だ。米中の覇権競争はトランプ政権の前から始まっていた。トランプは、中国に対する敵対感を露骨に示したレベルの低い大統領だっただけだ。米国のエリートの大方は中国を牽制しなければならないという信念を共有している。ジョー・バイデン大統領も例外ではない。彼は大統領選挙の際の討論で、習近平主席を「やくざ」だと語った。

 中国に対する米国の牽制は様々な分野で拡散中だ。米国は華為技術(ファーウェイ)を始めとする企業だけでなく、ハルビン工科大学のような大学までブラックリストに載せ、これらが米国の技術を使えないよう制限している。この措置のため、ハルビン工科大学の学生と教職員は米国への入国が禁止されただけでなく、MATLABのような米国企業の教育ソフトウェアも使うことができない。米国の大学および研究所に在籍する中国の科学技術者はスパイの疑いを受けており、米国に留学に行く中国の博士学位保有者の数は急減した。中国との共同研究を行っていた米国の科学技術者らも、今は中国と交流することを敬遠する。米中覇権競争の重要な部分には科学技術がある。

 国家間の対立は社会のレベルでは人種差別として現れる。最近米国で起きた東洋系の女性に対する残酷なテロは、トランプ政権時代から米国政府が放置していた中国人に対する嫌悪が、米国社会全般にわたり統制されない形で定着したことを意味する。政府は市民社会に広がる人種差別を放置することで、国家間の競争において正当性を獲得する。もちろん、表面的には人種差別という反人権的な行動を擁護する政治家はいない。しかし、戦争や疫病のように社会が混乱する時、国家権力はいつでも人種差別を権力維持の手段に使える。ドイツのナチスや米国の移民法はすべて、国家が常に権力のために人種差別を正当化できることを示す事例だ。

 新型コロナウイルス感染症は、初めから中国に対する嫌悪から始まった。「武漢肺炎」という用語が使われ、トランプは露骨に「中国ウイルス」と言った。嫌悪はすぐ東洋人全体に対して広がった。米国は東洋人嫌悪が最も明確な西洋社会であるにすぎない。欧州でも東洋人嫌悪が表面化している。自由と人権の国フランスも同じだ。新型コロナウイルス感染症の期間にフランスで広がった人種嫌悪を追跡したパリ政治大学のキム・ジンリ氏は、論文『黄禍論の再浮上:新型コロナウイルス時代のフランス社会の東洋人嫌悪』を通じて、「モデルマイノリティー」、すなわち模範的な少数人種集団と認識されていた東洋人に対する肯定的なイメージが、コロナ禍と合わさり、「黄禍論」、すなわち「黄色人種が白人中心の西欧社会を脅かす時代が来るかもしれない」という恐怖が表面化したという。

 黄禍論は19世紀末、欧州で流行した黄色人種に征服されるかもしれないという欧州人の危機論だ。黄禍論という単語はドイツ皇帝のヴィルヘルム2世が初めて使ったが、彼はこの論理でロシア皇帝(ツァーリ)に黄色人種に対抗し欧州とキリスト教文化を守ろうと述べ、日本と戦争することを要求した。中国の青島を植民地にしたヴィルヘルム2世は「フン演説」を通じて黄色人種に対する嫌悪と恐怖を扇動し、日本はこれに対抗し「汎アジア主義」を掲げ反発した。ロシアが日露戦争に敗れると、ドイツはロシアを劣等な「フン族」「半アジア人」だとおとしめた。19世紀末の欧州は人種主義が混じりあう混乱した地だった。

 新型コロナとともに西洋で再び黄禍論が浮上している。黄禍論の再浮上は、中国が強大国に浮かび上がるのにともない予想されたものだ。さらに、新型コロナウイルスの発生地である中国は、最も先にコロナ禍から脱し、韓国、台湾、シンガポールなどのアジアの国々は最も模範的に防疫に成功した。19世紀末に欧州を覆った黄色(人種)への恐怖が再び始まった。悲劇を止めなければならない。肌の色で人を差別するのは幼稚なことだ。

//ハンギョレ新聞社

キム・ウジェ|知られていない科学者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/989667.html韓国語原文入力:2021-04-06 02:37
訳M.S

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