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[特派員コラム]アトランタ銃撃とアジア人ヘイト

登録:2021-03-26 03:15 修正:2021-03-26 10:50

 私が住んでいる米バージニア州フェアファックス郡の教育庁から案内メールが届き、驚いた。家の近くのある中学校で、ある生徒が放課後に1人でいたところ、4人が近づいて来て唾を吐き、アジア系人種差別主義的な悪口を言ったというのだ。今月16日にジョージア州アトランタで4人の在米韓国人など、アジア系女性6人を含む8人の死者を出した銃撃事件があったばかりの物騒な状況で接したニュースだけに、より心がかき乱された。

 米国社会における少数人種に対する嫌悪と差別は、建国時代にまでさかのぼるほど根が深い。米大陸に定着した時から始まった先住民・黒人奴隷制は言うまでもなく、19世紀に中国人の入国を禁止した中国人排斥法、第2次大戦時の日系米国人の強制収容など、アジア系に対する差別も長い歴史を持っている。昨年のコロナ渦のさなかのドナルド・トランプ大統領(当時)による「中国ウイルス」という嘲りは、こうした歴史的基礎の上においてアジア系嫌悪の雰囲気を強める油となった。

 アジア系に対するヘイト事例の通報を受け付けている「ストップ・AAPI(アジア・太平洋系)ヘイト」は、集計の結果、昨年3月から先月までの通報件数は3795件にのぼると発表した。カリフォルニア州のある市民は、商店である男性高齢者に顔をしかめられながら、「我々はお前の国の会社をリストから削除し、学生も帰らせたのに、お前はここでショッピングをしているんだな。お前の市民権を取り上げてやる」と言われたと通報してきた。バージニア州のある女性は、地下鉄の駅である男性に背中を叩かれた。それから男性は咳ばらいをし、中国に言及しながら彼女を罵ったという。

 アトランタでの銃撃は、このように米国でアジア系嫌悪に対する懸念が高まっている中で起きた。捜査当局は、今回の事件がアジア系に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)であることの端緒を確保できずにいるというが、犠牲者の大半がアジア系女性である今回の事件は、米国社会のアジア系差別の雰囲気と切り離すことはできない。米国内のアジア系は今回の出来事を、アジア系嫌悪・差別の深刻さについての認識を深め、これをなくすための推進力にしようとの声をあげている。アトランタ銃撃事件を糾弾する集会にはアジア系、黒人、白人など、多様な人種が参加している。

 トランプ時代とは異なり、ジョー・バイデン時代には何かが変わるかもしれないという期待もある。就任直後、人種間の不平等の解消のための行政命令に署名したバイデン大統領は、今回の事件に対し「アジア系米国人の懸念は承知している」と共感を示し、憎悪を終わらせなければならないと述べた。先日ワシントンの集会で出会った黒人男性は「昨年の『黒人の命も大切』デモの時は、警察が攻撃的に鎮圧するのではないかと心配で現場には行かなかった」とし「今は違う。政府が変わったのは重要な違いだ」と述べた。米連邦議会に4人の韓国系下院議員などアジア系上下院議員が20人近くに増えたのも、希望の持てる側面だ。

 今回の事件が、昨年のジョージ・フロイド死亡事件のような大規模な人種差別反対運動へと拡大するかどうかは分からない。銃撃犯の犯行動機が人種差別主義だとは、今の時点では見なせないという当局の説明が、アジア系の集団行動を躊躇させている大きな要因だろう。米国の人口の約6%を占めるアジア系が、それぞれの言語と文化の違いを越えて一つにまとまることも容易ではない。

 それでも、今が「アジア系に対するヘイトをやめろ」という声を大きくすべき時であることは間違いない。米国内のアジア系が手を取り合い、ひいてはヒスパニック、黒人、白人とも連帯して、差別と嫌悪は許されないということを示せるかどうかが試されてもいる。今は自分に差し迫った問題ではないとしても、次の世代は顔に唾を吐きかけられるかも知れない。

//ハンギョレ新聞社

ファン・ジュンボム|ワシントン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/988261.html韓国語原文入力:2021-03-25 18:31
訳D.K

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