「アジア系に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)は新型コロナ以前にもかなり多くありました。新型コロナを機に集計された件数が増えただけです。アジア系へのヘイトクライムは明らかになった数値より実際ははるかに多いはずです。 アジア系に対する犯罪は単純窃盗や強盗事件として処理されることが多いのです」
在米韓国系市民の政治的権利向上を目指す非党派団体「韓米連合会(KAC)」アトランタ支会長のサラ・パク氏は先月16日、韓国系市民4人を含むアジア系女性6人が犠牲になったアトランタ銃撃事件以後、対外活動で忙しい日々を送っている。
先月20日、ジョージア州庁舎前で3千人余りが参加して開かれたアジア系へのヘイトクライム糾弾集会で、韓国系団体代表として演説し、26日には4千人余りがオンラインで参加したなかアトランタ韓人会館で行われた銃撃被害者追悼式も、米国全域の韓国系活動家たちと共に取り仕切った。
人口約100万人のジョージア州グイネット郡の地域連携担当官を務めるパク氏は、銃撃事件後のアジア系の世論動向を地域政治家と行政責任者に伝え、郡レベルの対策づくりにも力を入れている。今年初めに支会長に就任したパク氏は13歳だった1998年、家族と共にアトランタに移住した。先月29日、電話でパク氏にインタビューを行った。
パク氏は20日の演説で「移民者に対する差別と暴力はかなり前から存在していた」と指摘し、この問題の解決策は「対立ではなく連帯」だと強調した。オンラインでの追悼式でも、アジア系へのヘイトクライムが米国の社会問題だという点を明確に認識し、人種差別に反対する声をあげていこうと呼び掛けた。
「アジア系移民の歴史は100年を超えたが、まだアジア系は米国社会で主体になれません。会社でも年俸は上がっても、代表や重役を任される機会はごく限られています。文化芸術界でも同じです。決定権がありません。肌の色のため、制度的差別を受けているのです」。パク氏が人種と宗教を超えた連帯を強調したのもそのためだ。「暴力を使ったり憎んだりするのは、肌の色が違うからです。相手のことが分からない分、憎しみが大きくなります。連帯で理解の幅を広げることが重要です」
パク氏は米国社会の人種差別に対抗するためには、アジア系の変化も必要だと語った。「アジア系はこれまで人種差別のような社会問題に声をあげず、献身的に働く優秀なコミュニティーとして米国で評価されてきました。差別を受けながらも、何事もなかったかのように黙々と仕事ばかりしてきました。その間、社会や情報の脆弱階層である私たちの隣人は危険にさらされてきました。今回の事件が起きたのは、ソウル江南のテヘラン路のような都心です。韓国系市民たちが住居を構え、働く場所です。今回の事件で、韓国系市民たちはいつでも自分にもこうしたことが起こり得ると実感したはずです」
さらに「韓国系市民の親はこれまで子どもに、『何事にも一生懸命に取り組んで、米国社会の狭き門を突破せよ』と言ってきたが、これからは『人種差別を受けたときは直ちに知らせろ』と教えなければならない」と強調した。「“狭き門”というものこそが、肌の色による差別の存在を物語っています。東洋人はいくら優秀でも一人か二人程度受け入れれば良いという差別的な考え方が、米国社会に蔓延しています。『狭き門を突破せよ』というのは、黒人の親が子どもに『警察から質問されたら、声を低くして頭を下げろ』と教えるのと同じようなことです」
「差別を問題視する時に受ける不利益に対する懸念が大きいのではないか」と言うと、パク氏はこう答えた。「声をあげなければ、最初から存在しなかったことになってしまいます。私たちが黒人コミュニティーのことをよく知らないように、世の中は私たちに何が必要なのかわかりません。広く知らせなければ、問題を解決できません。そのように(差別の)データが集まってこそ、問題解決に向けた政府の財源も策定されます」
アジア系6人が死亡した銃撃事件後
4千人が参加するオンライン追悼祭を取り仕切り
ジョージア州庁舎前での糾弾集会で演説
郡公務員として対策作りも
「ヘイトクライムの現状を正確に把握し
アジア系専担の連邦機関を新設すべき」
今回の事件がヘイトクライムなのかどうかをめぐり議論があるようだと言うと、パク氏はきっぱり答えた。「アジア人女性を性的対象と見て犯した明白なヘイトクラムです。アジア系が働いて運営している店を訪ねて銃を乱射しました。人種差別の憎しみに基づいた犯罪です」。さらに「ヘイトクライムではないという結論が出れば、米国社会で大騒ぎが起きるだろう」としながらも、その可能性は大きくないと見込んだ。「ジョー・バイデン大統領や州上院・下院議員もヘイトクライムという考えを持っています。事件発生から3日後、大統領がアトランタを訪れ、アジア太平洋系議員たちも直接被害者遺族に会いました。現在、国土安全保障省をはじめとする米政府や政界は、捜査当局の結果を待たずに素早く動いています。問題解決のための制度的議論も行われています」
パク氏はアジア系に対する差別を防ぐため、制度の変化を特に強調した。「大統領など行政府の高官や政治家たちが今回の事件を深刻な問題として受け止め、アジア系の怒りに共感してくれるのはありがたいことですが、それだけでは不十分です。重要なのは制度の変化です。まず、アジア系に対するヘイトクライムのデータをきちんと収集しなければならず、これをもとに公権力を執行する警察などに対する徹底した教育が行われなければなりません。アジア系のための政策サービスを提供する政府機関も新設すべきです。そこでアジア系をめぐる様々な問題を体系的に扱い、制度の変化を導いていかなければなりません」
パク氏が10年余りにわたって活動してきた韓米連合会は、韓国系1.5世や2世が主軸の次世代組織で、韓国系市民たちが投票や人口センサス、政策の公聴会への参加などで市民的権利を享受できるよう支援している。アトランタ支会のメンバーは約400人。パク氏はジョージア州立大学政治学科を卒業してしばらく通訳の仕事をし、グイネット郡観光庁で5年間働いた後、3年前から郡の任命職公務員として在職している。2013年に結婚した韓国系2世の夫もグイネット郡都市計画委員を務めている。
「私は教会などどこに行っても、疎外された人を見過ごすことができませんでした。皆が一緒に楽しまなければならないと思ったからです。それで周りの人たちに気を配っているうちに、教会や学校でリーダーを任されるようになりました」。韓国系市民のための活動に積極的に乗り出したきっかけを、パク氏はこう説明した。
移民にきた初期には「愛国心に満ち溢れて」日本軍「慰安婦」問題や南北統一など祖国が直面した現実に大きな関心を持っていたが、高校生になってから、徐々に米国の社会問題に目を向けるようになった。「高校生の時、友人に2002年の(ソルトレークシティ)冬季五輪のショートトラック競技で、米国のアントン・オーノ選手が金メダルを獲得したことについて、(韓国人選手を失格とした)ひいき判定によるものだと話しましたが、関心を持ってもらえませんでした。その時から米国で韓国に目を向けて暮らしていくのが効率的なのか疑問を抱きました」。「真面目な米国人」として育った韓国系2世の夫に会ったことも影響を及ぼしたという。「今後、韓国系3世として生きていく私の子ども(6歳の娘)のためにも、米国で韓国系市民の政治的、市民的権益を向上させていくのが重要だと思いました」
今後の計画を尋ねると、パク氏は「できるだけ長く公務員でいたい」と答えた。「政治家もいいですが、韓国系の中から高級公務員が出る方がより重要です。税金をどう使うかを決め、行政サービスの責任も持っているのは、まさに彼らですから」