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[コラム]コロナ財政を最も「ケチった」国、韓国

登録:2021-03-10 02:40 修正:2021-03-10 08:26
//ハンギョレ新聞社

 日帝強占期(日本の植民地時代)の短編小説には、とりわけ反語的なタイトルが多い。『運の良い日』のキム・チョムジがそうだし、『ファスブン(金のなる木)』の主人公ファスブンがそうだ。人力車夫のキム・チョムジは稼ぎのよかったある日、病んだ妻の冷たい死体を目にすることになり、金持ちになれるようにとつけられた名を持つ主人公ファスブンは、引き裂かれる貧困の中で凍え死ぬ運命で終わる。日帝統治下の窮乏と苦しみを、希望の混じったタイトルで風刺しているのだ。

 先日、ホン・ナムギ企画財政部長官が「財政はファスブン(金のなる木)ではない」と悲壮な所信を表明した時、小説『ファスブン』に込められた逆説と時代相が思い浮かんだ。国の財政は、思う存分使っても減らない説話の中の宝箱ではないという主張であろうが、コロナによる国民生活の窮乏と苦しみに対して、国の財政がきちんと役割を果たせるようにするという誓いこそまずあるべきだと考えるからだ。

 韓国は、コロナ禍で国家財政を最も「ケチった」国だ。経済協力開発機構(OECD)と国際通貨基金(IMF)の統計を見れば、すぐに分かる。昨年の国内総生産(GDP)に対するコロナ財政支出は3.4%だ。米国、英国、日本、ドイツはみな10%を大きく上回る。支出規模が小さいため、財政赤字と国家債務の増加率も主要国の中で最も低い方に属する。過去最大の「スーパー予算」とされる今年も、さほど変化はないようだ。補正予算を合わせた昨年の予算より、ごくわずかに増加したに過ぎない。表向きには果敢な拡張財政だと言うものの、実際には依然として財政支出が生ぬるいということだ。

 ドイツは、今年の予算の40%を借金でまかなう。コロナ対応予算を大幅に増やしたものの、税収が不足しているためだ。このため連邦下院は、憲法に明示された「負債制動装置」を暫定猶予することを決議した。韓国の財政当局と一部の学者が激賞する財政規律を一時的に廃止したのだ。韓国は正反対の道を歩んだ。ドイツをはじめとするユーロ圏諸国が相次いで財政規律を留保しつつあった昨年10月、韓国は財政規律を初めて導入した。危機の過ぎ去った後には、迅速な財政正常化が必要だという理由からだ。

 コロナ被害への支援策を打ち出すたびに「選別基準」をめぐり公平性批判が繰り返されることについても、財政当局の責任が最も大きい。コロナ損失補償制の導入が代表的な例だ。与党は今月中に小商工人法に法的根拠を明示し、その後に具体的な支給基準を確定し、7月から施行するとしているが、果たして実効性があるかは疑問だ。防疫当局は今月中に集合禁止などの「強制防疫」から「自律防疫」中心へと転換する計画を発表している。補償対象もないのに、誰に支給するというのか。法が実際に施行されるかどうかも不透明だ。企財部は、損失補償のための所得把握システムの構築に、さらに長い時間がかかる可能性があると公然と述べる。見え透いた遅延戦術であり、「ベッドサッカー(時間稼ぎのための遅延行為)」の疑いがある。英国やドイツでは国税庁が月ごとに所得を把握し、税金番号さえあれば申請から数日後に支援金が受け取れる。

 諸外国でも「財政万能主義」に対する懸念と批判は提起されている。主に納税者団体が政府支援の有効性を問い、訴訟を起こしてもいる。いわゆる「ゾンビ企業」の構造調整が遅れることに対する懸念が出ており、支援基準の公平性とモラルハザードに対する批判も起こっている。そのため政治を制御する官僚の役割が必要であり、立法過程で均衡点を見出すことが重要だ。

 ところが韓国は、事実上「財政無用論」が公論を主導する。現金性支援と公共雇用は非効率的なばらまきだとして反対し、国債負担が大きすぎると言いつつ、増税は「現金をばらまいたのに税金を上げるのか」と非難する。国債を増やすのも増税もだめだというのは、結局、国はじっとしていろというのと同じだ。福祉であれ雇用であれ、税金でやるのは非効率だ浪費だといって貶め、モラルハザードと公平性を執拗に、針小棒大に言いなす。結局、国の有用性に対する実感が大きくなることを極度に警戒する「大きな政府」に対する反対だ。

 「政治は効率と生産性の領域ではない。生産性に役立たない要素を無駄と考えることはできない。それが韓国社会と構成員と国民なら、彼らを支え、包容するのが政治だ」。今月末に任期を終える大韓商工会議所のパク・ヨンマン会長のラジオインタビューの一部だ。政界のラブコールはないのかとの問いに対し、彼は「生涯を事業にささげて来て効率性、生産性、収益性の枠に閉じ込められている私のような人間が政治をやるのは危険だ」と答え、上のように述べた。我々の周辺にはパク会長よりもずっと危険な政治家やジャーナリスト、学者が多い。

//ハンギョレ新聞社

キム・フェスン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/986094.html韓国語原文入力:2021-03-09 18:55
訳D.K

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