本文に移動

[寄稿]政治理念をめぐり激化する韓国社会の対立、どう見るべきか

登録:2021-03-03 09:18 修正:2021-03-03 10:15
シン・ジヌク 中央大学社会学科教授

 「左派政権」。文在寅(ムン・ジェイン)政権に反対する人たちはずっとこの名称を使ってきた。太極旗集会のチラシだけではない。野党政治家と保守マスコミも皆そうだ。防疫であれ、福祉であれ、政府の政策を「利敵行為」や「共産主義」、「社会主義的発想」などと非難する政治攻勢が激化している。しかし、これはそれぞれの政治理念に基づくものではなく、互いにイデオロギーのレッテルを貼るものに過ぎない。いま、韓国社会で市民たちの政治理念対立は、それよりずっと深く、真剣な問題だ。

 政治理念をめぐる対立は2000年台に入ってから、さらに深刻化してきた。韓国国内の19の全国紙において「政治理念対立」を取り上げた記事は1990年代には186件に過ぎなかったが、2000年から2020年まで2210件に達した。その転換点は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が発足した2003年だ。保守一色の政界に改革派が登場したのが対立の始まりであり、これはやむを得ないものだった。

 今日、市民たちも政治理念の対立を深刻に捉えている。ハンギョレ経済社会研究院が2019年に実施した世論調査では、韓国社会で対立が最も深刻な分野として、回答者の43.9%が階層間の対立を、29.0%が政治理念をめぐる対立を挙げた。世代間対立(6.1%)や南北間対立(5.6%)よりはるかに高い割合だ。

 実は、韓国現代史で政治理念をめぐる対立は常に存在していた。(日本の植民地からの)解放政局と反独裁闘争の時代を、政治理念の対立を除いて論じられるだろうか。政治理念をめぐる現在の対立において特徴的なのは、その存在そのものではなく、対立が一般化し、日常化し、政治化している点にある。つまり、今や誰にとっても、どこに行っても、「政治理念」が熾烈な争いの元となり、政治を規定する力になっている。

 まず、政治理念をめぐる対立は多くの平凡な市民の問題として一般化した。独裁時代、支配階級は国民が自分の政治理念を形成し追求することを禁止した。政治理念をめぐる対決は、政権と少数の抵抗勢力に限られていた。ところが、今は多くの人が韓国社会の問題と代案について自分なりの観点を確立し、これを熱烈に唱えている。

 最近、様々な研究において、市民は自らを革新や保守とする主観的理念、そして対北朝鮮、経済、福祉、ジェンダーなど争点に対する立場など、様々な面で過去より一貫したスタンスを示している。革新派は企業と金持ちの支配を批判し、労働保護と分配の正義を重視する一方、保守派は民主化運動勢力や改革的市民団体、労組を批判し、企業活動の自由と個人の成果を重視する。

 二つ目に、革新と保守の対立は日常空間に深く浸透している。政治理念のせいで親子が言い争いになり、恋人が別れ、長年の友情が壊れる。お正月やお盆の際、「保守と革新」の話になると、必ずといっていいほど語気を荒げ、腹を立てることが多い。コミュニケーションの限界を痛感し、理解の壁にぶつかるのだ。

 なぜだろうか。政治理念は単なる抽象的な理論ではなく、「良い暮らし」と「良い社会」に対する想像であり、信頼であるからだ。マックス・ウェーバーは現代社会でそれぞれ違う価値を追い求める人々の対立がまるで「神々の戦争」のように激化すると述べた。私たちは、その価値が否定されたときに憤り、それを守るために戦う。言い換えれば、政治理念をめぐる対立は、つまり信念の闘争である。それは簡単に取り繕えるものではない。

 三つ目に、政治理念をめぐる市民の対立は、政治の有権者基盤と世論環境を強く規定している。政治理念の対立が政治の亀裂の軸として登場したのは、最近の現象だ。民主化直後には安全保障問題が、その次は出身地域が、その次は世代が選挙の勝敗を分ける主要な要因となった。ところが今、政治理念が新たな力として浮上している。

 一例として、ペ・ジンソク教授の最近の研究を見ると、政治理念のスタンスは政党支持に大きな影響を及ぼしており、2代政党の支持層はかなり鮮明なスタンスを示している。筆者がキム・ヒガン教授やパク・ソンギョン教授と共に行った研究では、このようなスタンスは国に対する認識とも関連がある。政治的スタンスにおいて革新志向であるほど、労働保護や不平等の緩和、介護や健康のための国の役割を支持する傾向がはっきり表れている。

 このように現代社会の中心的な亀裂である政治理念の対立が、現在の韓国社会に拡大、深刻化している。この現実をどう受け止めればいいのか。政治理念そのものを危険視したり、イデオロギー対立は悪いという通念から脱却しなければならない。様々な政治理念が存在しない社会は精神が死んだ社会であり、政治理念をめぐる対立のない社会は全体主義社会だ。

 いまの韓国社会の問題は、政治理念をめぐる対立が激しいのではなく、まともな政治理念の対決がないことにある。政敵同士がイデオロギーのレッテルを張って攻防を広げるのではなく、社会底辺の信念の闘争を政治に昇華させること、資本主義と民主主義、性平等と持続可能性という時代のテーマをめぐって代案を競うこと、それが本当の政治理念の対決ではないだろうか。

//ハンギョレ新聞社

シン・ジヌク|中央大学社会学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/985059.html韓国語原文入力:2021-03-03 02:44
訳H.J

関連記事