本文に移動

[寄稿]トランプ現象、韓国の進歩派は防げるのか

登録:2020-11-24 03:23 修正:2020-11-24 07:07

 幸いトランプは負けた。だがトランピズムはさらに強くなった。トランプの奇怪で憎たらしいキャラクターのせいで反トランプ陣営は結集したが、トランプに象徴される社会政治的な流れはさらに強固となった。従って、大統領選挙は終わったものの、進歩派が省察すべき課題は重く厚い。トランプ現象は進歩派の無能さの結果だ。進歩派が米国社会をどのように改革するかについての社会経済的ビジョンを失ったためにもたらされた現象だということだ。

 「今日の進歩左派には、産業の自動化が引き起こす大量失業問題を解決する、または技術の発展によって黒人か白人か、男性か女性かを問わず、すべての米国人が経験しうる所得格差問題を解決する戦略がない」。フランシス・フクヤマの診断だ。米国をはじめとする西欧の進歩派は、福祉国家の安定的構築などの社会経済的改革の達成後、経済低迷などの新たに提起された様々な時代的課題に対して、効果的な対応が取れなかった。思想的には新自由主義の激しい攻勢に直面した。その思想で武装した政治勢力は、政権獲得後、その思想の実践を強く推し進めた。そんな中、資本主義に対する民主的統制を強制する外部的力だった社会主義圏までもが没落する状況は、進歩派にとって深刻な危機として迫り、彼らはこの危機を思想的・政治的妥協で克服しようとした。クリントンとブレアが提唱した「第3の道」はそのような試みだった。

 サッチャーとレーガンの登場が進歩派の成功、すなわち福祉国家の安定に伴う反作用だったとすれば、トランプとブレグジットは進歩派の失敗によってもたらされた災厄だった。米国のクリントンやオバマ、英国のブレアやブラウンは10年前後も政権の座にあったものの、社会経済的な弱者の暮らしを改善することには失敗した。新自由主義の攻勢はとにかく強かったため、ある程度の妥協は避けられなかったのかもしれない。しかし、労働者などの社会経済的弱者の味方だという政党が政権を担っている時でさえ、暮らしはよくなるどころかより悪くなったという認識は、当事者たちを離反させる理由となった。そのことによって、進歩政党の支持基盤は低学歴・低所得の労働者から大卒者・中上層へと移った。ピケティの言う「バラモン左翼」となったのだ。進歩派がバラモン左翼の地位に満足する限り、「商人右翼」に勝つことはできない。

 1929年の大恐慌発生後に政権に就いたルーズベルトは「忘れ去られた人々(forgotten man)」という社会経済的弱者による政治的多数派連合を作ろうとした。政府の政策から忘れ去られた労働者、黒人、都市貧民を代弁することで、彼らを政治的に動員することに成功した。こうして構築された秩序がニューディール体制だ。新自由主義が勢力を伸ばして以降、政府の政策から見捨てられている勢力がある。フクヤマはこれを「見えざる人々(invisible man)」と言ったが、まさにこの「見えざる人々」こそトランプ現象の原動力だ。見えざる人々の痛みと怒りを素早く捕らえて政治化したのがトランプだ。したがってこの構造を変えない限り、トランピズムが消えることはないだろう。

 問題は韓国だ。韓国はトランピズムから安全でいられるのだろうか。韓国の進歩派はトランプ現象の登場を阻止できるほど有能だろうか。進歩政権が進める社会経済的改革はまだまだ道半ばだ。時にはもたつき、時には小事にしがみつく。世の中が良くなっているとの実感を普通の人々に抱かせるほどには、はっきりとした成果は出せていない。にもかかわらず法務部長官と検察総長との争いにしがみついてエネルギーを浪費し、焦点を見失っている。この部分についてのキム・ギソクの自省は痛烈だ。「現実政治はさておくとしても、価値を実現する将来ビジョンにおいて、進歩派は構造的な問題について、どれほど自らを革新しているのか」

 米国の進歩派の失敗や無能さを表すものの一つに「アイデンティティの政治(identity politics)」がある。アイデンティティの政治とは、黒人、移民、女性、ヒスパニック、性的少数者、難民、環境などの様々な疎外集団のアイデンティティを保障することに集中する政治だ。必要なことだし、いいことだ。しかしその結果、より多くの市民の理解を担保する社会経済的フレームが失われ、それが進歩派の慢性的な劣勢を招いたという指摘も聞き流してはならない。アイデンティティの政治とともに、より大きく世の中を変えようとしなければならない。そうしなければ、韓国の進歩派は韓国的なトランプ現象を防ぐことはできない。

 保守派は非社会経済的フレームで勝負しようとする。したがって進歩派は、厳しくても社会経済的な問題を避けたり、他のことに気を取られたりせずに、正面から取り組み、執拗にしがみつかなければならない。できる限り多くの人々をまとめあげるビジョンを作らなければならない。結局、カギは戦闘での勝利ではなく、戦争での勝利だ。

//ハンギョレ新聞社

イ・チョルヒ|知識デザイン研究所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/971100.html韓国語原文入力:2020-11-23 16:31
訳D.K

関連記事