福島第一原発に保管中の130万トン以上の放射性汚染水が今年夏から海洋放出される場合、韓国と日本いずれも水産物の消費が急激に減り、両国の水産業界は直撃弾を受けることになると予想される。日本は「処理水は安全だ」と主張しながらも、それによって漁業者に発生する全方位的な被害に備え「800億円+α」規模の支援対策を用意したが、韓国政府は消極的な対応にとどまっていることが明らかになった。汚染水の海洋放出によって韓国の漁業者も「直接の被害」を受けることになるだけに、韓国内の被害規模を合理的に算定し、日本に損害賠償を請求するのかを検討しなければならないとみられる。
6日の日本の経済産業省と東京電力の資料によると、日本政府は、汚染水の海洋放出で発生する被害に対して、基金や賠償などの2つの軸で支援を計画している。海洋放出を決めた2021年4月から対策を用意してきた経済産業省は、同年11月に300億円、昨年11月に500億円など、漁業者の被害対策のために合計800億円の基金を確保した。
そのうち300億円は、汚染水放出後の「風評被害」(評判被害・消費者不安による消費減退などの被害)によって消費が減る場合、漁業者から魚を買い取り冷凍保存する経費や販路開拓などに利用される。残りの500億円は、日本の水産業の持続可能性のために、新たな漁場の開拓、燃料費支援、後継者養成などに投資される。日本政府は汚染水の海洋放出に強く反対する漁業者の不満を抑えるため、「超大型基金」の設立に取り組んだということだ。西村康稔経済産業相はこれについて、「ALPS処理水の海洋放出が漁業者の妨げとなることがあってはならない。漁業者が将来も安心して操業できるよう支援する」と述べた。それでも、福島県漁連を含む全国漁業協同組合連合会などは、汚染水の海洋放出に反対している。
漁業・農業・水産加工業・水産卸売業・観光業など、汚染水の海洋放出によって地域民が受ける個別被害に対しては、東京電力が直接賠償に乗りだす。経済産業省は、賠償が適切に行われるよう、東京電力を管理監督することになる。
これについて東京電力は、すでに賠償の対象や基準などを決めている。被害が大きいと予想される福島県をはじめとする近隣地域、農水産・観光業などが主に賠償を受けるとみられるが、原則的には特別な制限を設けないことにした。東京電力の弓岡哲哉・福島原子力補償相談室長は、昨年12月に開かれた賠償関連の説明会で、地域・業種・期間を限定せず被害が発生すれば賠償し、30~40年かけても最後のひとりまできめ細やかに対応する方針だと述べた。
賠償を受けるには、農水産業の場合、汚染水の海洋放出前から事業を行い、農水産物の価格下落または売上減少などの損害が発生しなければならない。輸出減も被害に含まれる。東京電力が昨年12月に公開した26ページの資料「多核種除去設備等処理水の放出に伴い風評被害が発生した場合の賠償基準について」によると、汚染水の海洋放出による価格下落が予想されるため、「放出前の価格(基準価格)」から「放出後の価格」を引いた後、「放出後の水揚量」または「放出後の販売数量」をかける被害額算定の公式まで提示している。それでも「風評被害は被害額の算出が難しい」という声があり、東京電力は地域・業種などを考慮して柔軟に対応する計画だ。最短でも30年以上は海洋放出が続くとみられており、賠償費用はかなりの額にならざるをえない。
1人あたりの水産物の消費量が世界1位である韓国も、汚染水の海洋放出に対する消費者の懸念が非常に強いため、巨額の被害が予想される。済州(チェジュ)研究院が昨年11月に出した「福島原発汚染水の海洋放出の決定にともなう被害の調査研究」によると、1000人を対象に実施したアンケート調査で、回答者の83.4%が、汚染水が海洋放出されれば水産物の消費を減らすと答えた。消費減少幅は44.6~48.8%で、これを年間被害額に換算すると3兆7200億ウォン(約4000億円)に達する。消費者市民の会が2021年4月に500人を対象に行った調査でも、回答者の91.2%が水産物の消費を減らすと答えた。
水産業界から連日悲鳴が出ているにもかかわらず、韓国政府の対策はきわめて中途半端だ。野党「共に民主党」のウィ・ソンゴン議員(農林畜産食品海洋水産委員会)が海洋水産部から渡された資料によると、汚染水の海洋放出に備え、政府備蓄事業(1080億ウォン→1750億ウォン、約120億円→約190億円)▽水産物の購入支援(658億ウォン→958億ウォン、約70億円→約100億円)▽水産業の価値および消費促進の向上(610億ウォン→640億ウォン、約65億円→約70億円)など、既存の事業に予算を少し増やす対応にとどまっていることが確認された。水産物の消費萎縮を防ぐこの3つの事業の予算は、昨年に比べ今年は1000億ウォン(約110億円)の増。売上減少など漁業者が直接受ける被害に対しては、緊急経営安定資金の融資支援や水産金融資金の利子保全などを検討している。日本の汚染水放出によって自国の漁業者が大きな被害を受けることになったにもかかわらず、日本に賠償を要求するという動きはまったく見出せない。海洋水産部は「汚染水放出による漁業者の被害を最小化するためには、徹底した水産物の安全管理を通じ、国民の信頼を得ることが最優先」だとする原則的な立場だけを繰り返している状況だ。
ウィ・ソンゴン議員は「汚染水が放出されれば、水産業界は生存が危険なほど大きな被害を受けるとみられるが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は既存の事業(予算)を少し増やす程度にとどめている。これは事実上、無対策も同然だ」と指摘した。さらに、「日本の汚染水放出による被害は、自国にとどまらず周辺国に直接の影響を与える。尹政権は韓国の漁業者の被害について、日本に賠償を要求すべきだ」と強調した。