「日本の半導体産業にとって、今が『最大かつ最後のチャンス』だと考えている」
日本の半導体産業の政策を担当している経済産業省のデバイス・半導体戦略室長である荻野洋平氏は3日、東京都千代田区にある経産省の事務室で本紙の取材に応じ、現在の日本が直面している現実を率直に説明した。荻野氏は「半導体技術は構造的な転換期を迎えており、日本にとって大きなチャンス」だとしながらも「日本が強者だった30~40年前の優秀な人材が引退を控えているため、最後のチャンスでもある」と述べた。さらに、「今回推進されている日本の半導体戦略は、単に企業競争力を強化するレベルのものではなく、『経済安全保障』の観点で半導体が日本で生産されるようにするものだ。そのためにどのような環境を作っていくのかが最も重要だ」と強調した。
―経産省は、2021年6月に「半導体・デジタル産業戦略」を発表した後、半導体産業の復活のために積極的に動いている。
「2020年頃から、エネルギーや食糧など全世界的に経済安全保障に対する議論が活発になり始めた。半導体についても、日本に十分に供給されなければならないという『経済安全保障』の観点から、非常に重く扱われた。今回の戦略は、単に日本の半導体企業の競争力を強化するレベルのものではない。日本で半導体が供給(生産)可能になるよう、どのような方法で協力するのか、どのような環境を作りだすのかが最も重要だと考えている」
―日本は米国(IBM)・台湾(TSMC)・欧州(IMEC)など、半導体強国と協力を強化している。
「半導体のサプライチェーンの構築は、日本単独ではできない。どの国も同じだが、いかに他国と協力するかが非常に重要になるだろう。互いに強さと弱みがあるだけに、補完していくことが必要だ。まだ具体的な計画があるわけではないが、韓国との協力も十分に可能だ。価値観を共有する同盟国や友好国が一緒にやっていくしかない。サプライチェーンを結びつけるためには、情報共有や人材育成だけでなく、日本と韓国が可能な具体的なプロジェクトがあれば、十分に協力対象になりうる」
―半導体をめぐる米中対立は、両国に対する依存度が高い韓国と日本にとって大きな課題だ。
「米中が分断されることが危機なのは事実だ。他方で、このチャンスを通じてサプライチェーンを強化しなければならないという課題ができた。それが日本では、自国内で半導体を生産できる環境を作るようにする方向に作動している。危機でありチャンスであるこの状況にうまく対処していかなければならない」
―熊本県に建設されている台湾のTSMC工場では、2024年12月から12~28ナノのロジック半導体が生産される。TSMCの技術力に比べると性能が低い。
「12~28ナノは今の日本で最も必要な半導体だ。日本にはスマートフォンや高性能コンピューティング(HPC)関連の大企業がない。カメラ(ソニー)や自動車(トヨタ)などに必要な半導体だ。日本では40ナノが自国内で生産される最先端の半導体だったが、TSMCの誘致によって12ナノまで供給可能になった」
―日本の大企業8社が共同で設立した「ラピダス」が、最先端(2ナノ)の半導体市場に挑戦状を出した。ファウンドリ(半導体委託生産)分野は、TSMCやサムスン電子に続き、最近はインテルも加わり、競争が激しい。
「ラピダスが競争力を持つには、果敢な投資と優秀な人材、販売先の確保が必要だ。容易ではないと思うが、政府はこれまでとは違うレベルのアプローチをしようとしている。いわゆる“挑戦”がある所に大胆に支援をしつつ、ムードを変えていくつもりだ。1980年代と比較すると半導体産業が弱くなったことは事実だが、40年以上の歴史を通して、知識と技術が蓄積されているのは強みだ。半導体の素材・装置・部品などで世界的に上位の企業が支えているというのも大きな力だ。人材確保は半導体の現場に残っている50~60代を最大限活用し、新たな人材を育てていこうとしている」
―半導体戦略を通じて日本政府が最終的に追求する目標はなにか。
「最も重要な目標は、日本全域に半導体を生産できる基盤を作ることだ。それを通じて、半導体産業も自然に大きくなるとみている。現在の日本の半導体の売上は4兆円だが、10年後には2倍以上に拡大するなどの成果が出ることを期待している。日本の半導体産業にとって、今が『最大かつ最後のチャンス』だ。半導体技術は、『ムーアの法則』(半導体の集積回路の性能が2年で2倍に向上すること)のままに進むのではなく、他の方法を模索しなければならない構造的な転換期に突入したと考えている。ロジック分野の後発走者である日本にとって大きなチャンスだ。最後といったのは人材の問題だ。日本が半導体強者だった40年ほど前に半導体産業に従事した優秀な専門家たちが引退を控えている。これらの人々を今活用しなければ、蓄積された歴史が消えてしまう」