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韓国系ファミリーオフィス「アルケゴス」の巨額投げ売り、ウォール街を揺るがす

登録:2021-03-31 01:37 修正:2021-03-31 08:16
26日に300億ドルの投げ売り…アルケゴスの波紋にウォール街も打撃 
米国と香港のブラックリストに載ったビル・フアン、「ファミリーオフィス」で規制回避 
ウォール街の大手銀行の「損失回避」競争で被害が拡大
ビル・フアン=FULLER studioのユーチューブ動画よりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 米国の韓国系ファンドマネジャーが運営していたヘッジファンドの投資失敗が、ウォール街の巨大投資銀行の深刻な損失につながり、波紋が広がっている。

 クレディ・スイス・グループと野村ホールディングスは29日(現地時間)、ヘッジファンド「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」のマージンコール(追加取引保証金の要求)事態による危機を認めた。スイスの2大銀行クレディ・スイスは同日、今回の事態が今後四半期の業績に「非常に顕著に」影響を与える可能性があると発表した。日本の野村も、このヘッジファンド事態で20億ドルの損失を被りかねないと明らかにした。クレディ・スイスの株価は14%、野村は16%暴落した。ウォール街の銀行最大手、JPモルガンやゴールドマン・サックスだけでなく、UBS AG、ドイツ銀行などウォール街の銀行10行余りがアルケゴスに約500億ドルもの取引があると、フィナンシャル・タイムズは報じた。

 アルケゴスは26日、バイアコムCBSなど計300億ドル規模の株を大量に売却した。アルケゴスが投資した資産の損失が取引証拠金を超過したことを受け、取引銀行がマージンコールを発動し、大規模なブロック取引が行われた。ブロック取引の対象になった株式は、バイアコムCBSの他にもディスカバリーなど米国メディア株やテンセントと百度(バイドゥ)など中国技術株、英国オンライン・ショッピングモールのファーフェッチなどだ。この事態を受け、バイアコムCBSとディスカバリーの株式は26日、それぞれ27%暴落した。ブロック取引のニュースが流れたことを受け、投資家らはアルケゴスと関連した投資銀行の株も大量に投売りした。

 韓国の高校を卒業したビル・フアン(韓国名ファン・ソングク)は、米国のカーネギーメロン大学で経営学修士(MBA)を取得したという。その後、ヘッジファンド「タイガー・アジア・マネジメント」を運用し、2012年、インサイダー取引の容疑で裁判を受けたが、和解が成立し、2014年、香港証券市場から追放された。

 米国と香港の株式市場でブラックリストに載っていたビル・フアンが再びウォール街の大手銀行のパートナーとして復帰できたのは、アルケゴスがファミリーオフィスとして運営され、規制を免れたためだ。ウォールストリート・ジャーナルの報道によると、アルケゴスはビル・フアンの家族財産を運営する個人ファンドの形を取っているが、規模は100億ドルに達するという。ウォール街の大手銀行らは、アルケゴスの取引規模を拡大するレバレッジを提供する一方、損失を防止する合意をしたと、ブルームバーグが報じた。ウォール街の大手銀行の支援を受けたアルケゴスは、複雑かつ不透明な金融派生商品への投資を通じて、関連会社の株式を実質的に所有していないにもかかわらず、法的には巨額の投資家となった。アルケゴスのこうした投資手法により、バイアコムCBSの株は今年に入り170%も高騰したが、結局暴落し、今回の事態につながった。

 アルケゴスは今月25日、取引銀行にデレバレッジ戦略をめぐる話し合いを要請した。関連銀行は緊急会合を開き、急激なポジションの解消を自制する提案を出したが、合意には至らなかった。翌日、銀行らがアルケゴスの保有株式を差し押さえ始め、このうち、ゴールドマン・サックスやJPモルガンが先頭に立って、アルケゴスと関連した取引を巻き戻した。先手を打った両銀行は、この事態を受け、今年第1四半期の業績に影響はないだろうと明らかにした。一方、大量売り攻勢に参加しなかったクレディ・スイスと野村は29日、損失を認めた。取引銀行が秩序ある巻き戻しを進めたなら、影響は減っていたかもしれないという指摘が出るのも、そのためだ。

 1990年代末の「ロングターム・キャピタル・マネジメント」のヘッジファンドの破産が招いた株式市場の混乱に準ずる事態を懸念する専門家もいる。当時、ウォール街で最も好調だったロングターム・キャピタルの複雑な金融派生商品への投資が、結局はマルチ商法詐欺に過ぎないことが分かり、米政府が介入する救済金融事態を招いた。また、アルケゴスのように特定のファミリーが設立し、個人的な投資だけを担当する「ファミリーオフィス」は現在、世界で1万以上存在すると、ロイターが報じた。彼らが運用する資産は、2019年基準で6兆ドルと、プライベートファンドやベンチャーキャピタルの資産の合計よりさらに規模が大きい。今回の事態で、規制の対象外になっている「ファミリーオフィス」が証券市場全体を揺さぶりかねないという懸念から、「規制強化」の声が高まる可能性もある。

チョン・ウィギル、シン・ギソプ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/international/globaleconomy/988818.html韓国語原文入力:2021-03-30 16:21
訳H.J

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