約半年前、多くの人々に衝撃を与えた事件があった。2月26日、全羅南道羅州市のあるレンガ工場で、韓国人の職員らが31歳のスリランカ出身の移住労働者をビニールラップでレンガと共にフォークリフトに縛りつけ持ち上げるなど、5分間にわたり過酷行為を行った。その映像が広まると、李在明(イ・ジェミョン)大統領をはじめとする多くの人々が怒り、当該業者に対する調査が始まった。加害者は立件され、賃金未払いなど外国人労働者に様々な不当行為を犯してきたこの業者に対して過料が課された。では、この事件はすべて解決したのだろうか。
決してそうではない。被害者を援助した市民団体によって最終的に明らかになったのは、昨年入国したこのスリランカ人労働者は暴言などで継続的に苦しめられてきたということだ。ところが、職場の移動を制限する雇用許可制(E-9)ビザで入国したため、職場を移すこともできず、結局ひどい暴行を受けることになったのだ。また、3~4年の勤労後に「誠実勤労者」の資格を得て最長10年まで韓国にいるためには、企業主の申請が必要なので、雇用許可制で入国してきた外国人はどんなに人権侵害に遭っても未来の不利益を意識して大概は我慢する。このケースも同じだった。最終的には、暴行を受けた後この労働者はついに職場移動の機会を得たが、強制出国させられないためには無条件で3カ月以内に同じ圏域、すなわち全羅道・済州道圏内だけで新しい働き口を得なければならなかった。本人は蔚山に知人がいるためそちらに行くことを望んだが、結局本人の意思と関係なく光州に行くことになった。
以上の通り、この暴行事件は雇用許可制という悪法の脈絡の中で起きたものだ。この悪法が、人権侵害が常に発生しうる土壌を作り、被害者を絶えず締め付ける「頸木(くびき)」として機能している。21年前に雇用許可制が初めて実施された時、その名分は3つだった。急増する外国人未登録労働者の数を減らし、外国人労働者の人権を保護し、中小企業の人材難を解消するということだった。しかし、雇用許可制はこの3つの課題のうち、どれ一つも解決できずにいる。
未登録労働者の数は今も約40万人、すなわち外国人労働者全体のほぼ3分の1と推定される。外国人労働者の入国を制限し、事業主との主従関係を強要し、職場移動のような基本的労働権を許さない雇用許可制は、構造的に未登録労働者を量産する。今回の暴行事件が如実に示すように、雇用許可制の枠組みの中でも外国人労働者の人権保護はない。2020年12月、野菜農場で働き、暖房もないコンテナのような宿舎で過ごしたカンボジア人労働者のソクヘンさん(31歳)が寒波で凍死したことは、アムネスティ・インターナショナルの表現どおり「現代版奴隷」に他ならない外国人労働者人権侵害の惨状をそのまま表わしている。労災死亡率を見ても、外国人労働者のケースは韓国人の2.4倍にもなるということだ。そして特に製造業の中小企業の人材難は解消されたことがない。2年前のある調査によると、65%が求人難を訴えた。それでは、導入当時に盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府が掲げた目標を一つも達成できなかった完全な失敗作であるこの雇用許可制を、ほとんどの欧州国家が採択している労働許可制に変更できずにいる理由は何だろうか。
羅州暴行事件の被害者が所持していたE-9ビザで入国した人たちは、韓国全体の合法的な外国人就業人口の約3分の1に該当する。その他に在外同胞(F-4)・訪問就業(H-2)ビザで入国して居住する人々がまた3分の1程度になる。「韓国血統」に分類されるこのビザの所持者は、雇用許可制に縛られた外国人労働者よりはるかに自由な身分だ。依然として血統を重視する社会でF-4ビザを所持する在外同胞たちは、このビザを更新したり永住権を申請するなど、事実上は永久居住が可能だ。雇用許可制で入国した人々とは異なり、彼らは職場を自由に移し、家族を同伴して入国できる自由を付与される。
しかし、そうした彼らでさえも、さまざまな差別的制限から抜け出すことはできない。在外同胞ビザの場合、就職は自由だとしても、人口減少地域など特定地域でなければ、ほとんどの単純労務職種への就職は許されない。そして、たとえ本人たちの就職は自由だとしても、F-3-19ビザを所持する在外同胞滞在者の同伴家族は、原則上就職が禁止されている。就職するためには、厳しい滞在資格の変更過程を経なければならない。ビザの問題だけだろうか。日常的な行政問題においても在外同胞や訪問就業者は引き続き差別的措置に直面する。一例として、最近李在明政権の「消費クーポン」支給政策を挙げることができる。支給対象者には永住権者や「韓国国民との家族を構成する」結婚移住民までは含まれても、在外同胞は除外された。地域経済の再生がこの消費クーポン支給の目的ならば、在外同胞が地域経済で大きな役割をするソウルの大林洞(テリムドン)や光州の月谷洞(ウォルゴクトン)では、韓国人と同じように税金を払い消費活動をする人々にも消費クーポンを配ることが地域商人たちにも大きな利益になっただろう。にもかかわらず、韓国の行政システムは外国人の人権や地域経済の活性化以上に、この場合には外部者差別の「原則」をさらに優先した。
前述したように、韓国の現在の「外国人管理」システムは根本から間違っている。その一次的目的は、人口消滅時代に避けられない多文化社会の造成と移住民の統合ではなく、それこそひたすら「管理」に過ぎない。雇用許可制で入国した非韓国系外国人労働者は、ほとんど現代版奴隷のように、数年使ってまた追い出してもいい使い捨ての「人材」として管理されるかと思えば、在外同胞だとしても同じ韓国人として合流できる同等な社会構成員ではなく、各種の厳しい規制の対象である「外国人」と変わらない扱いを受ける。このシステムは非韓国系外国人労働者の定着を意図的に阻む。それだけでなく、在外同胞の定着も容認はするが、社会統合を許容してはいない。こんなことをしていれば、韓国を血統と関係なく人材が集まる未来志向的な多文化先進国にすることはできないだろう。雇用許可制を労働許可制に変え、在外同胞関連の各種規制を撤廃し、永住権と国籍取得手続きを簡素化しなければならない。そうしてこそ、差別が消え社会統合が容易になるだろう。