「かなりの疑問があります」
韓国のバッテリー専門家である蔚山科学技術院エネルギー化学工学科のチョ・ジェピル教授は、本紙記者と話しながら、声を強めた。今月4日、米国のスタートアップ(新生企業)「SES」が次世代電気自動車バッテリーを紹介するオンラインイベントを行った直後だ。
SESはこの日、自ら開発したハイブリッド・リチウムメタルバッテリーの完成品と、性能実験の結果などを公開した。米国株式市場への上場を控えた同社は、現代自動車グループ、SK、米ゼネラルモーターズ(GM)などの大企業が投資し、早くから名をとどろかせていた。「一度に700キロ走行」「これまでの常識を変える」「夢のバッテリー商用化」といった見出しの報道も相次いだ。
大手バッテリーメーカーのサムスンSDI出身のチョ教授が問題視するのは、大きく二つだ。まず、SESのバッテリーテスト環境のずさんさだ。
■SESに興奮するには…
SES側はこの日、スマートフォンに入るくらいの小型電池のエネルギー密度が、40度から氷点下30度でも一定に維持されることを証明するグラフを示した。チョ教授は「リチウムメタル(金属)は融点が低く、温度が上がると爆発の可能性が高くなるため、60度以上での性能実験が必要だ」とし「バッテリーの安全性検証の際、電気自動車に入る大型電池を使わずに爆発の可能性が低いスマートフォン用バッテリーを使ったことも疑わしい」と指摘した。
チョ教授は、外部検証の信頼度にも疑問符を投げかけた。SES最高経営責任者(CEO)のチチャオ・フー氏はこの日「外部機関(サードパーティー)のテストに基づいたデータ」と何度も強調した。しかし、当の検証機関がどこなのかは公開しなかった。チョ教授は「韓国のバッテリー技術は世界最高水準なので、国内のバッテリー3社を第三者評価の主体として検証を受ければ済む話」だと語った。
国内の大手バッテリーメーカーの関係者も「バッテリーの陰極(-)にリチウム金属を入れるリチウムメタルバッテリーは、私たちもかつて検討したが、危険性が高いのであきらめた技術」だとし「研究陣も、SES側の発表だけを見ても実際に具現化が可能なのかはよく分からないと言っていた」と伝えた。
電気自動車市場の急成長を受け、主要部品であるバッテリーにも多額の資金が集中している。「次世代バッテリー開発会社」という看板を掲げた外国のスタートアップだけでなく、国内の上場企業も「関連株」というレッテルを貼れば株価が上がる。しかし、技術開発と商用化の可能性は未知数であるだけに、投資には注意しなければならないという警告も出ている。
SESにしても、この日のイベント内容を要約した報道資料には文末に「資料に含まれているすべての陳述は、経営陣の期待値についての様々な仮定に基づいたもの」だとし「未来を予測した陳述に依存しすぎないように」と書かれていた。企業側が提示した青写真をそのまま信じるなということだ。
■バッテリー新生企業への投資に警告音
バラ色の展望だけを信じて、実際の損失へとつながった事例もある。「夢のバッテリー」といわれる全固体電池の開発会社である米国のクアンタムスケープは、昨年末までは1株当たり100ドルを上回っていた株価が、現在は30ドル台と3分の1に落ち込んでいる。株価の下落によって収入を得る空売り専門投資家「スコルピオンキャピタル」が、4月に元社員のインタビューなどにもとづいて「クアンタムスケープはテラノス(シリコンバレー最大の詐欺を犯したバイオ企業)を超える詐欺企業」とする内容の報告書を出したからだ。同社は一時、時価総額が米国2位の自動車メーカーのフォードを上回ったが、技術力が疑われ、以前の株価を回復できずにいる。
米電気自動車メーカーのテスラ出身者が設立したバッテリーメーカー「ロミオパワー」も、会社の主要情報を隠して売上展望を膨らませたという理由で、今年上半期に集団訴訟を起こされた。
バッテリー業界は、証券街などの資本市場のバラ色の展望と大企業の先行投資だけを信じて新生企業に気軽に投資しては困ると指摘する。バッテリー分野は専門知識が必要で、企業と投資家との情報の非対称問題もあるだけに、非専門家の見解をやみくもに信用してはならないということだ。今は投資バブルがはじけている韓国のバイオ業種と似たような事例だ。
国内の大手バッテリー企業の関係者は、「電気自動車バッテリーへの投資熱が過熱し、最近はどのバッテリー会社に投資すればいいか教えてほしいという投資銀行(IB)からの連絡もかなり多く入る」と打ち明けた。匿名を求めた学界のある研究者は「独自のバッテリー技術力を持つ大企業も、トップダウン式の支配構造のせいで、徹底した検証なしに新生企業に気軽に投資するケースが少なくない」と指摘した。