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[記者手帳]サムスンのイ・ゴンヒ会長死去後の「相続税廃止」はなぜ論外なのか

登録:2020-10-31 08:58 修正:2020-11-04 18:04
[土曜版]親切な記者たち
サムスンのイ・ゴンヒ会長と夫人のホン・ラヒ氏、イ・ジェヨン氏(現サムスン電子副会長)・イ・ブジン氏(現ホテル新羅社長)が2010年12月1日午後、「誇らしいサムスン人賞」授賞式に参加するためソウル瑞草洞のサムスン本館に入っている=キム・ジンス記者//ハンギョレ新聞社

 「現行法の問題点を一言で要約すれば、法令が一体何を言っているのかわからないほど長く複雑でありながら、相変わらず変則贈与を通じた贈与税回避をほとんど防ぐことができないという点だ」

 ソウル大学法学研究所が2003年に発表した「相続税および贈与税の完全包括主義導入案に対する研究」という論文に収められた内容です。相続・贈与税法はその後も引き続き修正され、今も一般人には暗号と同レベルです。

 改めて相続・贈与税法を持ち出した理由は、サムスン電子のイ・ゴンヒ会長の死去のためです。予算と税法を主に扱う企画財政部に出入りする私には、国内最大の富豪であり最大手のサムスン電子を経営したイ会長の財産相続も強い関心にならざるをえません。そこで相続を調べてみると、過去のサムスンのオーナー一族の便法(法の抜け穴をつくこと)・変則贈与の歴史にさらに注目が向かいました。相続・贈与税法が複雑な根底には、財閥が莫大な富を子供に法の抜け穴をついて渡し、政府は“後の祭り”で穴を埋めてきた過去がありました。その歴史にサムスンのオーナー一族も大きな席を占めていました。

 多くの事例の中から一部だけを取り出すと、サムスン電子のイ・ジェヨン副会長の非上場株式と転換社債(CB)を利用した便法贈与が挙げられます。1994~95年、イ・ジェヨン副会長は、イ・ゴンヒ会長から約60億ウォン(約5億5000万円)を贈与された後、16億ウォン(約1億5000万円)の贈与税を払い、残った現金で非上場株式を買いました。1995年に非上場会社であるエスワンの株式12万1800株を23億ウォン(約2億1000万円)で、サムスンエンジニアリングの株式47万株を19億ウォン(約1億7000万円)で買いました。翌年に両社は上場し、株価は跳ね上がりました。続いてイ副会長は両社の株式を売り、それぞれ357億ウォン(約33億円)、230億ウォン(約21億円)の差益を得ました。1996年には第一企画の私募転換社債18億ウォン(約1億7000万円)分を1株当り1万ウォン(約900円)で株式に転換できる条件で買い取りました。2年後の1998年初めに転換社債を株式に換えた後、上場するとすぐに売り、130億ウォン(約12億円)の差益を得ました。当時の第一企画の株価は上場後13日連続でストップ高になるなど、高空飛行をしたりしました。イ副会長が3社の株式の売却で得た収益だけで700億ウォン(約65億円)を超えます。種子の40億ウォン(約3億7000万円)がわずか3年で20倍近くまで大きくなりました。一方、税金は株式取引税(0.3%)の3億ウォン(約2800万円)も満たない金額だけでした。

 このような変則贈与に政府も法改正に乗り出しました。1996年12月、相続税法を相続・贈与税法に全面改正し、課税対象である贈与税について、課税する間接贈与の範囲を大幅に広げました。イ副会長が用いた転換社債を通じた間接贈与も課税条文に追加しました。当時、参与連帯は「バスはすでに行ってしまった後」だと表現しました。

 改正された相続・贈与税法は、特殊関係人から取得した場合のみ贈与税の課税対象に追加し、法人が発行した転換社債を買い取る場合は逃れることができました。イ・ジェヨン副会長は、サムスン電子から1997年に額面利率7%の私募転換社債450億ウォン(約41億円)分を買い取りました。転換社債の価格は5万ウォン(約4600円)で、当時のサムスン電子の株価(5万6700ウォン、約5200円)だけでなく、同年に海外で発行した転換社債(転換価格12万3635ウォン、約11000円・額面利率0%)と比較すると、途方もなく低い価格です。安値でサムスン電子の株式を保有できるようになったことでも足りず、利子まで得たわけです。2001年には法人が発行した転換社債を買い取る場合も贈与とみなす条文が追加されます。これで相続・贈与税法は再び乱雑になりました。

 その後の廬武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代、「贈与税包括主義」が導入されました。法律に明確に定められた類型ではなくても、「富の無償移転」がある場合、積極的に課税するためにでした。裁判所が租税法律主義を強調し、法令に明確に示された場合でなければ便法・変則贈与にも課税しなかった事情を反映したものです。 2003年末、贈与を包括的概念に定義し、付加無償移転した場合は贈与に該当し、これに対する課税ができるようにしました。しかし、贈与税包括主義の導入でも法廷で租税法律主義と戦わなけれならず、包括主義がひざまずくと、これを補うための法改正が続き、暗号レベルの相続・贈与税法に至っています。

 相続・贈与税法改訂の歴史は、サムスンのオーナー一族の誤った富の移転の方式だけを示しません。最近のイ・ゴンヒ会長の死去後、一部で主張される「相続税廃止」がいかに全くの論外であるかもともに示しています。贈与税は相続税とあわせて一揃いになります。相続税だけが存在するのなら、生前に富を譲り渡せばいいからです。これまで税金を十分に払わず法の抜け穴を使い莫大な富を移したのに、相続は最初から税金を全く払わず、その所得に全く寄与したことのない人に莫大な富を渡そうという主張であるからです。

 特に「国家は国民経済の成長および安定と適正な所得の分配を維持し、市場の支配と経済力の濫用を防止し、経済主体間の調和を通じた経済の民主化のために、経済に関する規制と調整ができる」とした憲法(119条2項)にも反します。適正な所得の分配はもちろん、富の永遠の世襲と集中を緩和し経済的均等を図るためには、所得税とともに相続税と贈与税も必須の構成要素であるからです。

//ハンギョレ新聞社

イ・ジョンフン経済部記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/economy/marketing/967975.html韓国語原文入力:2020-10-31 02:30
訳M.S

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