16日に訪れた中国遼寧省瀋陽ロッテワールドの工事現場ではトントンという音が絶えなかった。高くそびえたクレーンも各種資材を運ぶために忙しく動いていた。ここは瀋陽市当局が行政手続きの不備を問題視して、昨年12月1日から工事が中断されていたところだ。ロッテが星州(ソンジュ)ゴルフ場を高高度防衛ミサイル(THAAD)配備の敷地として提供した後だった。
現場の慌しい動きが再開されたのは、8月中旬からだ。7月に降った大雨で近くの工事現場に事故が起きたことを受け、当局はロッテ側に現場の安全措置の名目で補完工事を要求した。安全措置の範囲は明確ではないが、ロッテは独自の判断で最善を尽くして処置をしている。
ロッテが合わせて3兆ウォン(約2960億円)を投資して敷地16万平方メートル、延べ面積145万平方メートルに百貨店、劇場、マンション、遊園地、ホテル、事務室、ショッピングモールなどを建設する同事業は、ロッテの中国内の最大プロジェクトだ。予定通りなら、来年末まで完工しなければならないが、これは不可能になった。2014年4月に完成された百貨店、劇場、マンションを除いた残りはまだ形も整っていない。
土曜日の午後、瀋陽ロッテワールドの百貨店は閑散としていた。あちこちで50%、30%セールが行われていたが、店員らが二、三人ずつ集まっておしゃべりをしているだけで、客の姿はほとんど見当たらなかった。3階と4階にそれぞれ位置した婦人服、紳士服の特売場を約10分ずつ見ていたが、それぞれ1人、3人が通り過ぎながらも商品には見向きもしなかった。唯一1階の売店にだけ人が40人ほど集まっていたが、陳列された品物は2元(344ウォン)のコーヒーカップをはじめ、「100円ショップ」のように5元、10元、15人民元の値段がついている雑貨と菓子類だけだった。百貨店の隣のマンションには4棟(1806世帯)のうち、2棟(834世帯)が入居を開始したが、分譲率が60%台だ。今年下半期発売される残りの契約状況が悪ければ、分譲率がさらに下がる可能性もある。
状況は不透明だが、ロッテの中国事業が底を打ったため、これからは回復局面が到来するだろうという希望的観測を示す人もいる。ロッテ資本の誘致に乗り出した瀋陽市当局が、中断された工事を都心に長く放置することは難しいだろうと主張する人もいる。実際、ロッテワールドの敷地は軍部隊などがあった場所で、瀋陽の中心地の一つである北駅(汽車駅)と地下鉄駅に直結する地価が高い地域だ。瀋陽ロッテワールド事業が決定された2008年4月当時、外資誘致に乗り出した瀋陽市当局の期待と、一人っ子が多く、子どもに惜しみなく金を使う中国の遊園地事業で機会を見出したロッテの決断が意気投合した。瀋陽市当局は反発を押し切って軍部隊まで移転した。瀋陽の遼寧社会科学院所属の呂超研究員は「完工すれば、東北地方最大の遊園地になるとして、みんな楽しみにしていた」と話した。
問題は、瀋陽の人たちの考えが変わってしまったという点にある。呂研究員は「THAADの問題がなければ、ロッテは瀋陽で最も歓迎される外資系企業になっただろう。しかし、今はイメージがかなり悪くなり、市民たちがあまり利用したがらない」としたうえで、「ロッテの経営陣はなぜこうなることを予想できなかったのか」と聞き返した。現地の中国企業人は「君子が仇を報じようとするなら、十年かかっても遅くはない(君子報仇 十年不晩)という中国の格言はこういう時に使うもの」だとし、「いつまで経っても中国人の心の傷は癒えないだろう。THAAD配備は信頼していた友達に裏切られたようなものだった」と話した。
このような状況だから、中国ではロッテがマートに続き、中国事業全体から撤退する可能性が高いと見られている。一応、ロッテ側は「マート以外の事業所の売却は推進していない」という公式の立場を繰り返している。一部ではロッテの中国事業は辛東彬(重光昭夫<シン・ドンビン>)会長が心血を注いだプロジェクトであるだけに、完全撤退は難しいだろうという見通しを示している。しかし、ロッテマートがなくなれば、マートなしでデパートだけで中国の流通網を運営することが難しくなり、菓子や飲み物の販売プラットフォームが以前より大幅に減り、ロッテ事業の基盤全体が揺るがされるとも指摘されている。ロッテがマートの売却理由に挙げた「持続的な経済的被害」は、中国に進出したすべてのロッテ系列会社が経験していることだ。瀋陽にいた不動産担当の役員が先週末から1カ月間にわたり、ソウルと香港を訪問することが確認され、瀋陽ロッテワールドも結局、売却対象になるのではないかという噂も流れている。ロッテグループはこれに対し、「新しい投資先を探す活動」だと説明した。
より根本的な問題は、「THAAD事態」が翼のない墜落の決定打になる以前から、中国で韓国企業の競争力が下落を続けていたため、THAAD問題が解決されたとしても、競争力の回復に向けた解決策が見当たらないことにある。
ロッテマートは2008年オランダ系大型小売店マクロの売場8カ所を買収し、中国のマート市場に参入したが、万年赤字だった。外国企業に排他的な雰囲気や政府の規制などが強い中国市場にうまく適応できなかった。中国など海外3カ国のロッテマートの売上げは2014年から減り続け、営業損失が2013年に830億ウォン(約82億円)、2014年に1410億ウォン(約139億円)、2015年に1480億ウォン(約146億円)、昨年には1240億ウォン(122億円)など、4年間で4960億ウォン(約490億円)に達した。「THAAD報復」はこのような状況で、弱り目に崇り目の致命打となった。
THAAD配備後、中国で苦戦する代表的な企業とされている北京現代の合弁法人の状況も似ている。
北京現代の合弁法人の工場は代金の支給中断による部品供給が中断し、数日間ラインを稼働できない状況にまで追い込まれた末に、最近ようやく操業を再開した。THAAD事態が直撃弾となったのは確かだが、これがすべてとは言えない。専門家らは現代・起亜自動車が世界最大市場である中国で適時に新車を発売できないなど、市場の流れを逃した失策があったと指摘する。現代自動車は、中国市場だけでなく、世界的に選好度が高いスポーツ実用車(SUV)ラインアップの拡大に失敗したと指摘されてきた。現代自動車内部でも中国現地に合わせた車種の開発と新車発売が遅れ、タイミングを逃したことを危機の主な原因の一つに挙げている。
好況期には水面下に潜んでいた問題も噴出している。現代自動車と合弁した中国北京自動車は、現代車と“同伴進出”した韓国系部品メーカーが部品価格を高く策定し、あまりにも多くの収益を持っていくという不満を提起したが、販売がうまくいく状況では大きな問題にならなかった。しかし、最近、成長の勢いが止まりつつあるなかで、北京自動車が協力会社に対する部品代金の支給を一時中断するなど、対立が本格的に明らかになった。
現代・起亜自動車の中国市場占有率は2013年の6.8%をピークに、年々下がり続け、昨年には5.1%まで落ち込んだ。今年に入ってからは3%台に急落した。業界関係者は「2012年、尖閣諸島(中国名・釣魚島)紛争の際、日本の自動車業界も中国で大きな打撃を受けたが、もともと品質と価格競争力があるため、すぐに回復した。しかし、北京現代はTHAAD以前から競争力が弱まっていた」と話した。大林大学のキム・ピルス教授(自動車学)は「THAADは政治的な問題であるため仕方がないとしても、これからでも中国市場の変化に合わせて車種の開発と新車の投入が行われなければならない」と指摘した。
韓国語原文入力:2017-09-19 07:33