「人体のX性染色体をよく活用すれば、脳をより若く維持することができる」
米国の医学における中心的な大学である「カリフォルニア大学サンフランシスコ校」(UCSF)の研究チームが最近明らかにした研究内容だ。「ほとんどの女性が男性より長く生きて認知能力をより長く維持するのは、女性だけが2つ持っているX性染色体の活動と密接に関連している」ということだ。
ヒトの男性はXY性染色体を保有し、ヒトの女性はXX性染色体を有している。若い女性の場合、この「2つのX性染色体のうちの1つ」が非活性化されている。この非活性化されたX性染色体を「バー小体」(Barr Body)と呼ぶ。発見者であるカナダの医師、マレー・バー(Murray Barr、1908~1995)の名前にちなんで名付けられた。UCSFの研究チームが最近発見したのは、この非活性化された「沈黙のX性染色体」であるバー小体が、年を重ねるとふたたび活動を始め、その活動が脳の老化を遅らせるという点だ。
UCSFの研究チームは、メスのネズミを対象に実験を進めた。65歳の人間に相当する20カ月のメスのネズミの海馬(老化によって低下する学習と記憶を担当する脳領域の中心)で遺伝子発現を測定した。その結果、非活性化されていた沈黙のX性染色体が活動を始めることを明らかにした。ふたたび活動を始めたX性染色体は、何と20個の遺伝子を発現させた。この20個の遺伝子のうちの多くが、脳の発達で一定の役割を果たすということだ。
研究チームは、X染色体の活動によって発現した遺伝子のうち、PLP1(proteolipid protein 1)に特に注目した。PLP1は脳の神経網の活動に必須の「神経絶縁体」であるミエリン(myelin)を生成する指針を提供する遺伝子だ。すなわち、PLP1が多くなれば、神経絶縁体であるミエリンがより多く作られ、これによって、脳の神経網がさらによく作動することになる。
すると、UCSFの研究チームは、20カ月のメスのネズミの海馬で発見されたPLP1遺伝子が、同年齢の雄のネズミの海馬で発見されたPLP1より多いという点を確認した。この違いは、沈黙していたX染色体が活動を始めたことによって生じたものだ。
UCSFの研究チームは今回、PLP1が脳の回復力に実際に役立つのかどうかをテストするために、メスとオスの老齢ネズミすべての海馬で、PLP1を人工的に発現させた。このようにしてPLP1の量が増えると、両方の性において脳が強化され、対象のネズミは、メス・オスともに、学習と記憶力テストでより良い成績をおさめた。
論文の主著者であるUCSFのデナ・デュバル教授は「身体の老化が眠っていたXを目覚めさせたと推測される」とし、「われわれは、これが女性の脳が年を重ねる過程で、男性に比べて相対的に高い回復力を維持する理由を説明できると考えた」と述べた。
研究チームは「今後、非活性化されたX性染色体が、どのような条件で発現するのかを正確に明らかにできれば、PLP1のような遺伝子を増幅させることで、女性と男性双方の老化にともなう衰退を遅らせることができるだろう」と見通した。