日本のへき地の山奥の町に、21世紀の低炭素建築の未来が芽生えた。山間の奥地である四国南側の高知県は、最近注目されるエコな木造建築の流れを先導する林業システムのイノベーションの現場となった。炭素排出量の少ない木造建築がコンクリート建築に代わる代案モデルとして脚光を浴びるなか、高知県が1990年代から木造建築の活性化を念頭に置いて構築してきた山林育成と木材活用・流通システムに、世界の建築界の視線が集まっている。
高知県は、日本の県のうち森林の面積の割合が84%と最も高く、良質のヒノキ(日本国内での生産量1位)とスギの産地だ。ここでは地域の林業生産者組合と、他の地域から林業と木造建築を習いに来た青年たちが力を合わせ、森で伐採した木で地域の公共施設や企業の事務所を作り、地域経済を支える新たなモデル作りが進められている。7月、「低炭素社会を目指す木造建築協会」(会長、培材大学のキム・ジョンホン教授)が主催した、高知県の林業の生産・施工・流通現場を視察するツアーに同行して取材した。
■田舎の大学の校長は世界的な建築の巨匠
「私たちの学校は奥深い田舎にありますが、校長は世界的な建築家の隈研吾先生です」。視察初日、高知県立林業大学校の教務課の福山聖主任の紹介を聞きながら校長室に入った視察団のメンバーは目を丸くした。室内の壁と床のすべてが木だった。執務用テーブルには、隈研吾校長の木製の名札と、彼が数年前に設計した大型の木造建築物の模型があった。壁、テーブル、ソファ、名札などはスギやヒノキを材料に作られた。
隈研吾氏は、2021年に東京五輪が開かれた国立競技場を細かな木材で作り注目された、木造建築の最高の大家だ。最近ではソウル市の清渓山(チョンゲサン)のふもとに作られたオーディオ博物館「オーディウム」(Audeum)を設計した。韓国事務所を開設し、ソウル市聖水洞(ソンスドン)の都市再生事業にも関与してきた。1990年代に日本のバブル経済が崩壊して仕事が途絶えたとき、高知県梼原の「雲の上のホテル」を設計したことで、初めて木を全面導入した建築を始め、ときおり高知県の森林を訪れては、木造建築の構想を育てていった。このような縁から、同校が2018年開校して以来、校長を務めている。学校の性格を「林業を生かして活性化するプラットフォーム」と要約した隈氏は、山林管理、林業技術、木造設計分野を専攻する学生たちを教える。
■学校の建物が講義の教材
福山主任は「校舎の建物自体が有力な教材になる」という点を強調した。山林管理の専門家と木造建築家を養成する高知県立林業大学校は、工法の異なる2つの建物に分かれる。様々な木材を交差させて取り付けて強度を高め、木造高層建築の先駆けとなったCLT(Cross Laminated Timber)部材で建設したCLT棟と、日本の伝統的な木造建築手法で建設した在来工法棟の講義棟が両側にあり、その間を耐火木造の連結通路の建物がつなぐ仕組みだ。
珍しいのは在来工法棟の講義棟の天井だ。日本の伝統建築である格天井方式で組まれた格子型の木製部材の構造が目を引いた。「貫(ぬき)工法」で向かい合う壁の柱の上部の間に長い梁を架け、その上に天井を支える束のような構造物を貫通させたものだ。追加で中間柱を立てることなく、天井の重量を側面の壁に伝えさせて天井を支えられるようにした伝統建築術だ。
学校見学の前に立ち寄った高知県森林組合連合会の建物の実験棟では、木材の熱処理や乾燥、床構造体の水平耐力など、様々な試験過程が進められていた。特に15~35年経ったスギとヒノキの木材に重い鉄の塊をぶら下げ、10~30年そのまま放置し、水分が抜ける程度に応じてどの程度たわむのかを測定する疲労度実験に注目が集まった。
■奥深い山中でロボット式伐採
翌日訪れたのは、高知市の北西にある仁淀川町の高山伐採の現場だ。海抜1000メートルを超える坪井山の頂上付近では、ロボットを連想させる先端機器の装置が伐木現場を縦横無尽に動いていた。ロボットの腕とフォーククレーンを結合したような伐採装備のハーベスタが機械のアームを上げて木を伐り、伐木材をロープで引き上げ1カ所に集めるタワーヤーダが轟音を立てながら動いていた。政府から費用を全額支給され調達した外国製の装備だ。
仁淀川林産協同組合の片岡博一代表理事は「伐採した木は、真下にある加工工場に移され等級が分類され、乾燥や加工などを経る。伐採した場所には、育苗場で育てた苗木がすぐに植栽され、新たに造林が行われる」と話した。20世紀始めから造林状況を管理してきたため、どこを伐採して造林するのかの関連情報を体系的に管理しているという説明も補足した。
伐採現場の下にある仁淀川林業振興センターの建物は、大黒柱を立てずに「第2のコンクリート」であるCLT材を組み合わせ、切妻型で斜めの天井の構造で建てられた姿が目を引いた。下の渓谷にある池川木材工業の第2工場と第4工場では、伐採した木の製材や乾燥、その過程で排出された燃料用の副産物であるバイオマスの生産過程を見ることができた。伐採現場では最先端の機械を利用して製材する木材を整え、現場の関係者たちが販売の需要まで予測し、その下の工場では木材の等級と乾燥加工作業までつながるシステムを見た韓国の専門家たちは、驚きを禁じ得なかった。
■循環する木造建築の基幹システム
最終日には、原木から集成材を作る工場施設と高知市木材市場を見学した。含水率と強度を測定し、基準を下回るものは除外し、合格したものは断面を切断して接着剤を塗って結合させ集成材を作る自動化工程が、ベルトコンベアーのごとく繰り広げられた。高地出身で明治維新の土台を築いた英雄である坂本竜馬の顔を商号にした木材卸売市場のテントの建物の中には、機械で乾燥され規格化された部材が積まれていた。
視察団の参加者たちは、日本と韓国の間にシステムはもちろん認識の格差が大きいことを実感した。営林木材のイ・スンファン代表は「韓国には集成材の自動化製造ラインやマート型の市場はまだない。信頼できる流通市場の必要性を感じた」と打ち明けた。キム・ジョンホン会長は「伐採、造林、加工、流通などの循環構造を作らなければならないことを痛感した。このような基盤を磨きあげ、多くの建築家が大衆の感性に結びつく木造建築のデザインを生み出すことができる文化風土を根付かせることが重要だ」と述べた。
■木造建築、外国は高層競争…韓国は法令不備
韓国の木造建築の活性化ための課題は
木造建築の最大の長所は、コンクリート建築に比べ炭素排出量が4分の1以下と圧倒的に少ないことにある。しかも、樹齢50年が過ぎた木は、酸素排出量と二酸化炭素の吸収量が大幅に低下するため、伐採後に加工して木造建築物にすることが、気候変動に対する効率的な対応になると専門家は勧告する。堅固な炭素貯蔵庫を都市の各所につくることは、森を造成することと変わらないということだ。
カギは都市に大型の木造建築物を作れるかどうかだ。有力な解決法として浮上したのが、交差型集成材または集成板と翻訳されるCLT材だ。耐久強度が鉄の2~3倍、コンクリートの9倍に達するという分析が出ており、曲がったりたわんだりする現象も少ない。
CLT材が大々的に普及し始めた西欧では最近、最高層の木造建物の競争が繰り広げられている。ノルウェーなどの北欧には10階以上の木造建物が建設され、2022年には米国ミルウォーキー市で25階の住宅商店複合アパートが建設され世界一高い木造建物の認証を受けたが、最近、高さ180メートルを超える55階の木造ビルの建設計画を公開した。日本も来年の大阪万博の会場にリング構造物を木造で作るプロジェクトを推進中で、長期的には100階に近い木造ビルを構想している。
韓国も山林庁を中心に2010年代以降、公共建物を木造建築で作ろうとする動きをみせている。山林庁は今年下半期に大田(テジョン)の関雎洞(クヮンジョドン)に地上7階(27.6メートル)規模の「山林福祉総合教育センター」を韓国最高層の木造建物として完工する予定だ。
しかし、木造建築文化が市民と企業の認識の中に根ざすようにするためには、制度的な環境づくりをしなければならないという意見が出ている。韓国には木造建築そのものに対する専門法令がまだない。材料は明示することなく、建築物の構造基準などに対する規則などは存在するが、実際には物性が違うコンクリート中心の法制に近いというのが、ソウル市立大学のキム・ソラ教授らの指摘だ。ウィ・ソンゴン議員(共に民主党)らが7月、「公共建築物の木材利用促進に関する法律案」を発議したことが注目されている。