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オーストラリアのザトウクジラが「求愛の歌」を諦めたわけは

登録:2023-02-24 06:37 修正:2023-02-26 12:52
[アニマルピープル] 
200頭から2万7千頭に個体数急増の影響で 
歌が強いライバルを呼び込む逆効果を生む 
歌の代わりにもみ合い…いつかは逆転する可能性も
水面上に姿を現したザトウクジラ。オーストラリア東部集団は個体数の増加に伴い、歌うオスが大幅に減った=クイーンズランド大学クジラ生態学グループ提供//ハンギョレ新聞社

 クジラの中でザトウクジラは、時には30分以上も続く長くて複雑なメロディーの歌で有名だ。まだなぜ歌うのかをめぐり意見が分かれているが、不思議なことに南極からオーストラリア東海岸の間を移動する群れは次第に歌わなくなったことが明らかになった。

 オーストラリア東部のザトウクジラの群れは、1960年代に200頭未満となり絶滅の危機にさらされていたが、以後急速に増え、現在2万7000頭で商業捕鯨以前の状態を回復した。この群れを長期にわたり研究したオーストラリアのクイーンズランド大学の研究者たちは「個体数の増加がオスの交尾戦略の変化を生み、その結果歌うオスが大幅に減った」と、科学ジャーナル「コミュニケーションズ・バイオロジー」の最近号に掲載された論文で明らかにした。

ザトウクジラの交尾戦略はメスに付きまといエスコートすることと歌うことだ。ライバルが増え、メスの存在を知らせる歌は控えるようになった=クイーンズランド大学クジラ生態学グループ提供//ハンギョレ新聞社

 交尾シーズンの冬を迎えたザトウクジラのオスの戦略二つ。一つは移動するメスについて回り「エスコート」しながら、割り込んでくる他のオスを追い出すことだ。大きく、性的に成熟したオスが最終交尾の勝者となる。

 もう一つは歌だ。研究者たちは「オスのザトウクジラの歌がどんな機能をするのかまだ議論の余地があるが、メスを引き寄せてオス同士で競争する手段という可能性がある」と説明した。

 歌は成熟したオスだけが歌う。歌っている途中メスが近づくとエスコートするが、他のオスが割り込んでくると、歌を止めて体当たりや頭突きなどでもみ合う。

 ところが、ザトウクジラの個体数が増え、歌うオスが著しく減った。中心著者であるレベッカ・ダンロップ教授は同大学の報道資料で「1997年に歌うオスはそうでないオスよりほぼ2倍も多かった」とし、「しかし2015年には逆に歌わないオスの方が5倍も多いことが分かった」と話した。

 その間、ザトウクジラの個体数は3700頭から2万7000頭に増えた。ダンロップ教授は「クジラの交尾の儀式に大きな変化が起きた」とし、「人だけが大きな社会的変化を経験するわけではない」と語った。

 なぜこのようなことが起きたのか。研究者たちは以前の研究でメスをエスコートしていたオスの歌がライバルのオスを呼び込むことを突き止めた。「個体数が少なかった時は、競争者を呼び込んで戦い怪我をして受ける損失よりも、メスを誘引する利益の方が大きかった」と論文に書いた。

 しかし、個体数が増えるにつれ、状況は変わった。ダンロップ教授は「交尾競争が激しい状況で、オスが最も避けるべきことはメスがここにいると知らせること」だと述べた。大きくて力強いライバルを呼び込む危険性の高い歌が次第に減ったのもそのためだという。

 ダンロップ教授は「このような変化は1997年からわずか7年の間に突然現れた」と語った。では、これからザトウクジラの歌は永遠に消えるのだろうか。

1960年代、絶滅の危険にさらされていたザトウクジラは、ようやく天寿を全うできるようになった。捕鯨の主な対象だった大きな鯨が増えたのが、歌よりもみ合う方を選んだ原因でもある=クイーンズランド大学クジラ生態学グループ提供//ハンギョレ新聞社

 研究者たちは寿命が60年のザトウクジラが商業用捕鯨以後初めて天寿を全うできるようになったことに注目した。捕鯨船が捕った鯨は主に大きな成体だった。大きく、年を取ったオスが増えたが、彼らは歌よりはもみ合う戦略を好んで駆使する。

 研究者たちは「攻撃的な行動による負傷などのコストが限界に達し、交尾成功率が下がれば、いつかオスは再び受動的に歌う戦略に戻ることもありうる」とし、後続の研究が必要であることを指摘した。

引用論文: Communications Biology, https://doi.org/10.1038/s42003-023-04509-7

チョ・ホンソプ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/animalpeople/ecology_evolution/1080712.html韓国語原文入力:2023-02-22 15:50
訳H.J

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