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「権力の場にまで到達した試験能力主義…傍観は罪」=韓国

登録:2022-06-01 02:37 修正:2022-06-01 14:29
社会学者のキム・ドンチュンさん、『試験能力主義』出版 
韓国社会の過去10年間を能力主義の観点から洞察 
「教育と労働の重層的な関連性を看破してこそ代案提示が可能」
31日に開かれた記者懇談会で、聖公会大学のキム・ドンチュン教授が自身の新著『試験能力主義』について話している=イム・インテク記者//ハンギョレ新聞社

 「尹錫悦(ユン・ソクヨル、大統領)、ハン・ドンフン(法務部長官)に集約されるとおり、司法試験出身者が法曹人をやって、その後すぐに大統領になったのは初めてだが、民主化後、『試験能力主義』が政治権力の場にまで到達したというのが現実だ」

 この数年間「悪戦苦闘」してきた「能力主義」についての言説と省察に、新政権という壁が立ちはだかっている。尹錫悦政権が能力主義を内面化しており、人事原則として標榜しているからだ。社会学者のキム・ドンチュンさんの新刊『試験能力主義』(創批)は批判的言説の延長線上に立っているが、新時代にあってはより新しくありつつもこれまでの姿勢を保たざるを得ないということを示す。

 聖公会大学社会融合自律学部のキム・ドンチュン教授は31日午前、ソウル麻浦区(マポグ)の創批西橋ビルで行われた『試験能力主義』出版記者懇談会で、「韓国社会の教育は『労働者にならない』ための戦争」だとし「過度なほどエリート層で試験能力主義の原理が働き、煽っており、その裏では人々が彼ら(試験能力者)を支持し、好むメカニズムがある。それは結局は(背景に)労働排除があるから」だと語った。

 「みなが敗者になるという落とし穴」という既存の能力主義批判からさらに一歩踏み込んで、本書は能力主義が深化した根源的背景を、IMF救済金融後の労働の疎外、労働の危機に求める。大学入学試験は1次選別、入社試験は2次選別として作用するものの、それは少数の合格者(能力者)と大多数の脱落者(無能力者)を区別するとともに、その区別を受け入れさせるイデオロギーでもあり、厳然たる支配秩序だというのがキム教授の診断だ。何よりも1次選別の「累積効果」のせいで教育が入試の手段へと転落しており、雇用が不安定で安価な「労働者」とならないための戦争を学校段階から行っているという指摘どおり、教育と労働の重層的な関連性を見抜かなければ能力主義の理解度、代案も限られざるを得ないわけだ。

 キム教授は「試験に対するこのような執着は、試験以外の公正な手続きを見出すのが難しいから起こる」とし、韓国社会の不信の構造が試験能力主義の土台となっているとも指摘した。いわゆる「チョ・グク事態」や最近のハン・ドンフン長官の子女の教育問題を含め、既得権の世襲のあり方が多くの事例として目撃された結果だ。したがって「いくら入試制度を改善しても解決できない」のが教育問題であり、試験能力主義の弊害だ。

 本書は「学術的社会批評」を試みつつ、代案の提示に注力する。評価の多様化、大学の序列構造の緩和、首都圏への集中の解消などの制度改革、地位独占の解消、労働の尊重、賃金不平等の克服などの構造改革、そして能力主義のイデオロギー性批判と克服などの価値改革だ。

 試験能力主義に対する若い世代の「追従」は相変わらずであり、保守政権は基調にまでしている中、キム教授が「(このような批評言説は)空念仏になりうる」としながらも、繰り返し能力主義を批判する背景であろう。

 「5年前から準備してきた。文在寅(ムン・ジェイン)政権の教育政策には大いに失望した。教育は出発からして高度に政治的な問題であり、韓国社会の良い地位を誰にどのように配分するかの問題だが、これを度外視して教育を入試問題に限ろうとする韓国社会のエリート層の戦略というか、問題の核心を知りつつも避けようとする側面が(文政権には)あったと思う」という同氏の書き出しは、「試験能力主義の裏にある青年たちの苦しみは非常に大きい。これを放置することは既成世代の罪」という言葉で結ばれている。

イム・インテク記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1045177.html韓国語原文入力:2022-05-31 16:57
訳D.K

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