2022年6月、わずか10日間で米国は大きく後退した。24日、連邦最高裁判所は1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆した。ロー対ウェイド判決は、妊娠中止権が「修正憲法のプライバシー保護」に当たるとしたが、2022年の判決(ドブス対ジャクソン女性保健機構)では「憲法は堕胎に対する権利を付与していない」と判断した。判決は、国民感情ともかみ合わなかった。当時、米国人の妊娠中止権に対する支持は70%で、「変化」する時代にふさわしく史上最高水準だった。その前後にも同様の判決が続いた。
同月23日にはニューヨーク州の公共場所での銃器携帯規制に対し、違憲決定を下し、州政府が公共場所での銃器所有を制限する権限を事実上剥奪した。その日は上院が銃規制法案を30年ぶりに通過させた日だった。30日には連邦環境保護庁が発電所の温室ガス排出に対する規制権がないという判断が示された。
当時は2021年に就任したジョー・バイデン米大統領政権の時期だった。判決が保守に傾いたのは、連邦最高裁判官が保守派が多数を占めていたからだ。米国の連邦最高裁判官は終身職で、死亡、辞任、犯罪行為によって弾劾されない限り維持される。2020年の第1次トランプ政権末期、選挙への熱気が最高潮に高まった9月に革新のアイコンであるルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事が膵臓がんで死亡した。トランプは敬虔なカトリック信者であるエイミー・ビビアン・バレットを指名し、聴聞会通過まで一気に進めた。任命に運が働く最高裁判事の任命で、トランプはバレットまで3人の最高裁判事を任命した。全体9人の最高裁判事の4対5だった「革新対保守」の比率は、この時3対6へと変わった。
韓国の最高裁では最高裁長官の提請で新しい最高裁判事の任用が始まるが、憲法裁判所では三権分立の原則に基づき、大統領任命枠3人、国会推薦枠3人、最高裁長官推薦枠3人の9人で構成される。ハン・ドクス大統領権限代行は、4月18日付で任期が終了するムン・ヒョンベ憲法裁判官とイ・ミソン憲法裁判官の後任に、イ・ワンギュ法制処長とハム・サンフン・ソウル高裁部長判事を指名した。イ・ワンギュ処長は検事出身で、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の陣営にも参加した。任命を先送りしていたマ・ウンヒョク憲法裁判官の任命も同時に行われた。現在の「中道・保守派5人」対「革新(進歩)派3人」の構成から「中道・保守派7人」対「革新派2人」の構図となる。尹錫悦を罷免した憲法裁が、尹錫悦の「遺産」になるわけだ。憲法裁判官の任期は6年で、次の裁判官の退任は2029年に予定されている。