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政権の中核グループだけが結集する人事の偏向
無計画・無能の根底には尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の人事問題がある。尹錫悦大統領が最初に指名した長官たちの人脈(ネットワーク)にどんなリスク要因があるのかを分析した論文を見ると、それがあらわになる。
世宗大学のイ・チャンギル教授(行政学)は、2022年5月に発表した論文「政権初期の内閣ネットワークの構造的なリスク要因分析」で、尹錫悦大統領、ハン・ドクス首相、チュ・ギョンホ経済副首相、各省庁の長官などを含めた20人の出身大学、出身地域、政党または国家公務員試験の出身者かどうかなどを検討して「ネットワーク」を分析した(後に就任を辞退したキム・インチョル教育部長官候補、チョン・ホヨン保健福祉部長官候補も含む)。これを通じて政権の中核グループとの凝集性または政治的独立性、政党的偏向性などを検討した。
結果は、各省庁の長官たちの「中心性」が相対的に低いため「国政課題解決の成功が憂慮される」というものだった。主な国政課題を遂行すべき重要省庁に適切な長官が配置されていないということだ。一方、尹錫悦政権の内閣の学歴(出身大学)や出身地域の偏向性と政権中核グループの凝集性は高かった。
イ・チャンギル教授は本誌(ハンギョレ21)の電話取材に対し「中核グループの凝集力は(文在寅政権に比べて)かなり強いが、政府の政策は省庁同士が協力するなど内閣が円滑に作動してはじめてうまくいく。尹錫悦政権の内閣構成ではそうならない可能性が高い」と説明した。(検察時代の直属の後輩である)ハン・ドンフン法務部長官や、(高校・大学の後輩である)イ・サンミン行政安全部長官ら側近を起用したが、むしろ政府が「ワンチーム」を成して国政を導いていくには障害になりうるというのだ。
「分析結果を見ると、尹大統領は1人の長官に対する依存が強い。(依存度の低い)長官とは距離があるため大統領が一方的に命令するケースが多く、長官が大統領に近づいて話すのが難しい場合がある」。公務員組織は大統領の方を向いてばかりで、主体的に動くことは難しいということだ。
安全システムが不十分なのに警察ばかりを叱責
実際のところ、尹錫悦政権の垂直的序列と検察出身の大統領特有の高圧的な態度は、政府組織を萎縮させている。
大統領府で勤務経験のある野党関係者は、尹錫悦政権では官僚が全く働いていないという雰囲気を語った。同氏は「次の政権になれば推進した仕事がどうなるか分からないから、怖くてできないと言っている。監査院が過去の政策のあら探しをして回っているものだから、公務員は本能的に何もしていない」と述べた。
現政権を率いる核心勢力が、前政権に対する監査院による監査と検察による捜査にばかり関心を寄せているため、政府省庁はどこもまともに働いていないというのだ。
梨泰院惨事について尹大統領は11月7日に「国家安全システム点検会議」を行い、「私は到底理解できない」、「なぜ4時間も眺めてばかりいたのか」として2時間にわたり警察ばかりを強く叱責した。行政安全部内に警察局を新設したイ・サンミン長官と大統領室国家危機管理センターについては言及すらしていない。
別の野党関係者は、「検察は執行機関なので、国のマクロ政策を立案して運用するのとは異なる。大統領とその周囲の人物のあいかわらずの『捜査するという属性』が国政にそのまま反映されていると考えざるを得ない」とし、「国家システムが完全に新政権に引き継がれているのかを問う必要がある」と述べた。
これは尹大統領の過去6カ月間の歩みにもそのまま表れている。計画の立案ではなく後始末に汲々としてきた。本誌が5月10日から11月9日までの尹大統領の公開日程(外交日程を除く)を確認したところ、経済関連会議が19回、災害関連日程が15回で最も多かった。
消費者物価上昇率が23年ぶりの最高値を記録し、貿易収支が14年ぶりに5カ月連続の赤字を記録するなどの厳しさを増す経済状況、首都圏集中豪雨惨事や梨泰院惨事などの災害状況の収拾に忙しかったのだ。
このような会議や外部日程などからは、韓国経済の体質を改善するビジョンを示したり、災害が起こる前に防止対策を打ち出して先制的に対応したりする姿勢はみられなかった。軍や報勲関連の行事への参加(14回)、政治家との会談と政治関連日程(13回)も多かった。
徹底した計画なしに中途半端な政策を打ち出し、後に撤回するのに時間を浪費してもいる。国民の共感を得られなかった初等学校(小学校)入学年齢の引き下げ、延長労働許容などの政策が代表的な例だ。
任期序盤の政策アジェンダの不在
大統領任期序盤の6カ月は、国政の方向性と政策を示すべき重要な時期だ。特に単任制の韓国大統領は、任期後半になるほど国政の動力が衰えるため、任期序盤にどのような改革アジェンダを打ち出すかが大切だ。
文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が就任1カ月以内に雇用委員会の設置(1号)、国定教科書の正常化(2号)、老朽化した石炭火力発電所の稼動中止(3号)などの業務指示を相次いで行ったのもそのためだ。「任期初期にビッグイベントが南北関係で発生したため、むしろ改革政策がそれ以上進められず、もどかしい側面があった」と前大統領府の関係者が語るほど、任期序盤の強い政策推進は政権の成否にもつながる。
米国のバイデン政権も引き継ぎの時から細かい政策推進計画を立てていた。ホワイトハウスはウェブサイトに「優先順位」ページを開設した。国民も、政策を立案、実行する担当者も見守れるようにするためだ。また、進歩派の陣営だけでなく共和党関係者やシリコンバレー出身者まで政策評価作業に参加させ、政策スペクトラムをできるだけ広げた。
「6カ月は大統領の任期(5年)の10%が過ぎたことになる。序盤は当然、少し試行錯誤があったとしても今は少々安定すべき時だが、それができていないというのが(今の)本質的な問題だ」(ザ・モアのユン・テゴン政治分析室長)。尹錫悦大統領に再び問うべき時に来ている。残りの4年半で何をするのか。