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ロシアが火をつけた「石油地政学」戦争、米国の覇権に亀裂を入れるか

登録:2022-08-01 03:23 修正:2022-08-01 07:04
5月22日、ドイツのベルリンで行われたウクライナ戦争反対デモに参加したある市民が「ロシアの石油とガスの禁輸措置」と記されたプラカードを掲げている/dpa・聯合ニュース

 石油政治学あるいは石油地政学という言葉がある。英語では「ペトロ・ポリティクス」という。石油と政治学を合わせた言葉だ。石油に代表されるエネルギー、より広くとらえて資源に関する国家間の地政学だ。

 1973年のイスラエルとアラブの第4次中東戦争で、アラブの産油国がイスラエルを支援する西側諸国などに対する石油の禁輸を発動し、石油の武器化を行ったのが代表的な例だ。米国がドルのみで決済される石油決済システムでドル覇権を守っていることも、石油地政学の核となっている。

中国やインドなどがロシア産を大量輸入

 ウクライナ戦争の勃発以降、石油地政学が激変している。西側がロシアに厳しい経済制裁を加えたことに対し、ロシアは西側にガスの武器化で対抗している。戦争の勝敗は、長期的にはウクライナの戦場ではなくエネルギーを核とする経済の戦場で決まる公算が大きい。

 このような石油地政学の展開に従って、米国の覇権が主導する「規則にもとづいた国際秩序」が保たれるのか、それとも中ロ主導の新たなブロックができる多極化秩序へと向かうのかが決まることになった。経済力で優位に立つ西欧がロシアに経済制裁を加えている一方で、ロシアが欧州に対してガスの武器化で逆攻勢をかけているためだ。むしろロシアと中国は、これを機にエネルギーをテコとして米国の覇権秩序に亀裂を入れ、自分たちのブロックを作ろうとしている。

 米国のジョー・バイデン大統領がサウジアラビアのジッダを訪問し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に会った15日、BRICS(ブリックス)国際フォーラムのプルニマ・アナンド議長はサウジ、エジプト、トルコが「まもなく」BRICSに加入できるだろうと報告した。バイデン大統領は、今回の訪問の最大の目的であるサウジの石油増産についての確実な返答は得られなかったが、むしろサウジは中ロに片足をかけようとしているということだ。

 BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカが参加する新興国の集まりで、今年6月に14回目の首脳会議をオンラインで開催した。BRICS諸国はウクライナ戦争勃発以降、西欧の対ロシア制裁に参加しておらず、むしろ石油などのエネルギーや肥料などのロシアからの輸入を大幅に増やしている。

 中ロはウクライナ戦争勃発後、米国中心の国際秩序を主導する西側主要国の集まりである「G7」に対抗する集まりへとBRICSを発展させる意向を示している。今回の首脳会議ではインドネシア、タイ、アラブ首長国連邦など13カ国が中国の招待で加入を申請した。中国の習近平国家主席はBRICS首脳会議に先立つ6月22日に行われたフォーラムで、米国主導の制裁は「高い塀のある小さな庭」を作るだけだと批判している。

 ウクライナ戦争勃発後、BRICS諸国と加盟対象国との貿易量は急増。西欧がロシアの輸出に制裁を加えて以降、BRICS諸国がエネルギーなどの資源をロシアから安価に輸入しているためだ。インドは今年6月までにロシア産原油を昨年の総輸入量の5倍以上輸入している。中国はドイツを抜いてロシア産原油の最大輸入国になった。サウジも今年第2四半期に入ってからロシア産精製油の輸入を2倍に増やしている。農産品輸出国であるブラジルはロシア産の石油と肥料への依存度を高めているほか、軽油もできる限り購入すると表明している。

 BRICS加盟国や加盟対象国のブラジル、インドネシアなどの「ミドルパワー」諸国は、燃料、食糧、肥料という「3F(fuel、food、fertilizer)」原材料で交易ブロックを形成しつつある。これらBRICS内外の原材料交易は、これらの国々の通貨バスケットと決済システムの構築環境を造成しつつあるため、米国の覇権秩序の核心であるドル体制に亀裂を入れる可能性を秘めている。

 ロシアとインドをつなぐ新たな交易圏と交易路の開拓も始まっている。過去20年間、夢想に過ぎなかったいわゆる「国際南北輸送回廊(INSTC)」も現実のものとなりつつある。INSTCはロシアのサンクトペテルブルクからユーラシア中央とイランを経てインドへとつながる7200キロメートルの鉄道・高速道路・海路の交易網だ。ロシアが西側の制裁で西への交易が封鎖されている中、インドやイランなどとの交易が増えたことで、INSTCプロジェクトが試験稼動していると「アルジャジーラ」は27日に報じている。

 イランは6月、ロシアから出発しホルムズ海峡にある自国の港バンダルアバスを経てインドへと向かう試験的な初の物流輸送プロジェクトを発表した。合板を積んだ2隻のコンテナ貨物船を皮切りに、7月までに少なくとも39隻の貨物船がロシアからアラビア海に面するインドのナバシェバ港に向かう。インドの国家安保委員会事務局の分析官だったバイシャリ・バース氏はアルジャジーラに対し、これは始まりに過ぎないとして、このようなすう勢なら、2030年ごろにはINSTCは毎年2500万トンの貨物輸送能力を持つとの予測を示した。これはユーラシア、南アジア、湾岸地域の間の全貨物量の75%に当たる。

 INSTCが開発されて活性化されれば、ロシアとインドとの間の輸送時間はこれまでの40~60日から25~30日へと短縮される。貨物量が増えれば、ロシアからカスピ海周辺、イランを通る陸路や鉄路なども自然と開発され、活性化される。

大陸勢力の行方は

 これは単なる交易の拡大と迅速化にとどまらず、近代以降の地政学の最大のテーマであるユーラシア心臓部と三日月地帯の結合という意味を持つ。ハルフォード・マッキンダー以降、ニコラス・スパイクマン、ズビグネフ・ブレジンスキーに至るまで、西側の地政学者たちは、英国から米国へとつながる西側の海洋勢力の覇権を維持するためには、ユーラシアの内陸であるハートランドに存在する大陸勢力がユーラシア周辺の沿岸地域の三日月地帯に進出することを防がなければならないと一貫して指摘してきた。すなわち、中国とロシアがイランやインドなどに進出して結びつくことを防がなければならないということだ。

 ウクライナ戦争は今、中国とロシアがユーラシア沿岸地域に進出して新たなブロックを作り出すか、それとも西側がロシアを枯死させてその芽を摘み取るか、という長期戦へと向かっている。西側とロシアとのエネルギー戦争と石油地政学戦争はその過程である。

チョン・ウィギル先任記者|本紙の国際分野担当。著書に『イスラム戦士の誕生』、『地政学の捕虜たち』など (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1052916.html韓国語原文入力:2022-07-30 15:22
訳D.K

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