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【ハンギョレ21】「一匹の害虫が山全体を赤く染める」

登録:2013-10-24 20:47 修正:2013-10-25 07:18
政府が全国教職員労働組合に最後通告を送った。 全教組は解雇者を排除しなければ法外労組化するという雇用労働部の要求に対抗して組合員総投票を行なうことにした。 1999年の合法化以来最大の危機を迎えた全教組本部の姿。 /チョン・ヨンイル記者

 全国教職員労働組合(全教組)は1989年に創立された。 10年の“非合法時代”に耐えて1999年合法化された。 今年で24年の歴史を持つ。 組合員は6万人余りだ。 韓国の教育を主導する一つの軸であることは間違いない。 全教組ほどの位相を持ちながら全教組ほどの試練を体験した団体もない。 全教組ほど教育改革の先頭に立ってきた団体もないし、全教組ほど“失望”と“解体”という単語が付きまとう団体もない。 パク・クネ大統領は2013年2月25日、大統領に就任した。 1997年大統領選挙の8日前に政治に入門し、 政治人生15年目にして政治の頂点に上った。 韓国の歴史に記録される代表的政治家であることは間違いない。 パク大統領ほど原則と信頼を口にする政治家もいない。 パク大統領ほど全教組と生まれつき悪縁にある政治家もいないし、パク大統領ほど露骨に全教組に対する憎しみを露わにした大統領もいない。

 パク大統領は就任後、政治的危機を常に“決定的な一手”で突破してきた。 雇用労働部の“全教組法外労組化圧迫”をパク大統領の“新たな一手”と見る見解が優勢だ。 パク・クネ政府の側は失うものがなく、全教組の側は何にしろ失うほかはない手だ。 全教組を憎悪する大統領の国で、全教組は“選択”の瞬間に追い込まれている。 憎しみの程度と選択の方式により、政局は揺れるだろう。 _編集者

 10月23日。 全教組には“運命の日”だ。 パク・クネ政府が期限に釘を刺した。 この日全教組は放棄せねばならない。 労組の法的地位を捨てるにしろ、解職された同僚を捨てるにしろ、選択しなければならない。 どの政府もやらなかったことだ。 組合か組合員か、二者択一せよと言って、全教組に“Dday”を通告した政府はパク・クネ政府だけだ。 “合法化以来全教組最大の危機”を理解するには三文字のキーワードが重要だ。 「朴槿惠(パク・クネ)」だ。「全教組が教育現場を掌握することは阻まなければならない」と彼女は長いこと公言してきた。彼女の政府がスタートして8ヶ月が過ぎようとしており、全教組は“法外労組”の岐路に立っている。

10月16~18日 組合員総投票

「 元に戻すことは出来ません。」

 去る9月23日、ソウル永登浦(ヨンドンポ)の全国教職員労働組合(全教組)本部事務室。 “最後通牒”を持ってきた雇用労働部のある局長は「一方的な通知じゃないか」と反発する全教組側に三回も同じ言葉を繰り返した。 解雇者の組合員加入を認める労組規約を是正しなければ労組設立を取り消すという一方的通告であった。 「公文書は持ちかえって、ひとまず対話からやりましょう。」と全教組執行部が説得したが「元に戻せない」という答だけが返ってきた。

 秋夕(チュソク)名節後の思いも寄らない急襲だった。 キム・ジョンフン全教組委員長は9月26日からソウル広場で無期限ハンスト座り込みに突入した。 「1999年全教組合法化以来の最大危機」と市民社会は判断した。 全教組の法外労組化を阻止するために1千余りの市民社会団体は<民主教育守護および全教組弾圧阻止緊急行動>を組織した。

 「パク・クネ政権の“NLL(北方境界線)カード”は、ある程度効力がなくなりつつある。 今後の政局運営に活用する新しい餌を探す過程で、政権次元での全教組圧迫が進行していると見る。」 - チョン・ジンフ正義党議員

 去る9月29日に開かれた全教組全国代議員大会では、組合員総投票を含む「全教組弾圧対応闘争計画」が可決された。 一度や二度の少々の戦いで勝負がつく問題ではなかった。 全教組組合員6万の身分がひっくり返る問題であった。 代議員大会には在籍人員441人中313人が参加して70%を越える、歴代最高の出席率を記録した。 熱い関心の反映だった。 労働部の命令は二つだ。 解雇者を組合員として認定する規約を是正し、現在政府が把握している9人の解雇者を組合活動から排除しろということだ。 10月16~18日総投票で全教組は労働部のこのような要求を受け入れるかどうかを組合員に問う。

 釜山(プサン)支部のある幹部(50)は「全教組設立当時の解職事態以上の弾圧だと考える。 組合を設立して20年余り続いてきたのに、それを覆そうということじゃないか。 あんたがたを抹殺したい、ということと同じ」と言った。

 規約改正要求を労働部だけの決定と見る視角は多くない。 全教組は労働部の背後に大統領府の意が作用していると判断している。 政府の「全教組法外労組化」方針が本格化したのは最近のことだ。 9月1ヶ月の間にすべての気流が逆転した。 8月に大統領府にキム・ギチュン秘書室長体制が出来上がってからのことだった。 8月に全教組は教育部と10年ぶりに交渉を再開したが、9月16日教育部から「労組設立取り消しの可能性が言及される状況では正常な団体交渉が難しい」と通報された。 全教組は“見えざる手”が作動したと主張する。 キム・ジョンフン委員長は「政権次元の企画でないならば、これほどのゴリ押しはできない」と指摘した。

 “大統領府の意志”という判断には「全国公務員労組(全公労)設立申告受理拒否事件」もその根拠として作用している。 去る6月初め、パン・ハナム労働部長官はキム・ジュンナム全国公務員労組委員長に対し、解雇者排除を履行するならば設立申告を受け入れると約束した。 8回の実務交渉の末に労組が労働部要求を履行したが、8月2日労働部は設立申告受理を最終的に拒否した。 7月25日、申告受理証交付方針を表明すると予想された記者説明会は、予定の2時間前に突然取り消された。 その6日前、全国公務員労組設立申告を巡って開かれた汎政府対策会議に教育部関係者が参加した事実が明らかになりもした。 規約改正を通しての全教組および全国公務員労組に対する圧迫が、政権次元で戦略的になされているという疑惑が提起される背景だ。

「子供たちが、わけも分からないまま反米を叫ぶだろう」

 労働部の“全教組圧迫”の根は、パク大統領の長年の“全教組に対する憎悪”だという見解が多い。 合法化以後パク大統領ほど全教組に対する露骨な憎しみを表出した統治者はいなかった。 パク大統領の全教組関連の発言を振り返れば、規約改正は“彼女の意思”成就のための行政的手続きと読まれるほどだ。

 「理念教育で学校現場を混乱に陥れる全教組ときずなを強化することが何の問題もないということですか? 子供たちが政治に振り回されてはならないと考えます。」 昨年の大統領選挙を前にした12月、テレビ討論で当時セヌリ党候補だったパク大統領がムン・ジェイン前民主統合党候補に投げた言葉だ。 全教組に対するパク大統領の深い反感が、6年余ぶりに露出した瞬間だった。

 2005年の私立学校法改正反対の時のパク大統領の発言は“全教組に対する憎悪”の頂点だ。12月9日に開放型理事制導入を骨子とした私立学校法改正案が可決されるや、当時ハンナラ党代表であった彼女は「全教組に(子供たちを)任せることはできない」と書いたタスキをかけて街頭に出た。街頭に出た彼女は「私立学校法改正は子供たちに反米・親北理念を注入せんとするものだ」という話を繰り返した。 現場の雰囲気が高まる中で、過激な発言も飛び出した。「一匹の害虫が山全体を赤く染めるかもしれないし、それが全国に広がるかもしれない。 今回の抜き打ち法が施行されれば、ノ・ムヒョン政権と全教組はこれをテコに私立学校を一つずつ接収していくだろう」(2005年12月15日)と発言した。 「すべての私立学校を全教組が掌握することになれば、子供たちはわけも分からないまま反米を叫び、北の集団体操である『アリラン』を見て感嘆の声を上げるようになるだろう」(2005年12月13日ソウル明洞)という扇動的発言も吐き出した。 普段言葉を慎んで話法が物静かなパク代表を考えれば意外なほどだ。 その過激な発言は2006年2月14日、ハンナラ党主催の「全教組教育実態告発大会」でも繰り返された。

2005年12月13日パク・クネ ハンナラ党代表など議員、党役員、補佐陣、党員などが明洞(ミョンドン)で開いた「全教組からうちの子を守る運動」街頭集会でヨルリンウリ党を糾弾するスローガンを叫んでいる。イ・ジョンチャン記者 rhee@hani.co.kr

政府の法外労組化方針に抗して2013年10月11日、ソウルの普信閣(ポシンカク)前からソウル市庁まで三歩一拜のデモをしている全教組組合員。 /チョン・ヨンイル記者

 私学法の場外闘争はパク大統領には確かに“おいしい商売”だった。 路上で53日を送ったパク大統領は“保守の最後の砦”として確固たる地位を獲得することになる。 ソン・ウォンジェ全教組『教育希望』編集委員は「イ・ミョンバク政府も全教組を抑圧したが、教員労組の存在自体を否定しはしなかった。 パク・クネ大統領は父親であるパク・チョンヒ元大統領が4・19教員労組をものすごく弾圧してアカに追い立てるのを見て育ったため、教員労組自体を不穏視し否定する思考を持つようになったようだ」と話す。

 パク大統領だけではない。 彼女の“切れる刀”ナム・ジェジュン国家情報院長は軍人時代に「全教組をはじめとする社会の一角の偏向した見解を持った人々が、組織的かつ体系的に学生たちを左偏向的に意識化した。 二度と再びこの地に左派が足を踏入れられないよう根こそぎにしなければならない」(キム・ヒョン民主党議員が公開したナム院長の就任前講演資料)と強調している。 全教組法外労組化は全教組追放国民運動本部など保守団体が持続的に前・現政権に要求してきた内容でもある。

保守政権の“決して損しない商売”

 どうして、よりによって今なのか。 “憎しみの表出”の時期に関心が向かわざるを得ない。

国家情報院大統領選介入国政調査など、パク・クネ政府はスタート以来直面した政治的危機を全て公安イシューと従北フレーム(南北首脳会談会議録公開、イ・ソッキ内乱陰謀事態主導)で突破してきた。 タイミングが絶妙な手であったが、それでかえって意図が読まれる手でもあった。 危機を克服した国家情報院は対共捜査パート強化によって、国内情報収集と捜査権廃止に集約された改革要求を握りつぶした。

 全教組委員長出身であるチョン・ジンフ正義党議員は「パク・クネ政権のNLL(北方境界線)カードはある程度効力がなくなりつつある。 今後政局運営に活用する新しい餌を探す過程で政権次元の全教組圧迫が進行していると見る」と話した。 規約改正論難で全教組を水面上に引き上げた後、必要な時にいつでも持ち出せるカードとして活用するだろうという話だ。 保守政権と保守言論が従北フレームを組むのに全教組ほど積極的に活用してきた対象もない。

 保守政権において全教組との葛藤は“決して損しない商売”であった。 イ・ミョンバク政府はスタート直後、米国産牛肉反対ロウソク集会で国民的抵抗にぶつかった後、一斉試験反対教師と時局宣言教師たちを解雇して保守層結集を模索したことがある。 全教組を狙った“左派理念教育”のレパートリーが“適切なタイミング”に強力に吹き荒れるだろうという憂慮が高まる理由だ。 全教組のある支部長は「理念論争を活用して危機を突破する現政権の政局運営戦略に、全教組が引っ張り込まれはしないか心配だ」と話した。

 “親日・独裁美化”論難を引き起こした教学社の歴史教科書検定取り消し運動に、全教組が積極的に取り組んだことが政権を刺激したのだという分析も出ている。 パク・チョンヒに批判的な全教組がパク大統領には邪魔な存在とならざるをえない。 ある教育当局関係者は「歴史教科書論難を見れば、政府が全教組を狙ってどのように動くかがはっきり読めるではないか。 政府の全教組規約改正圧迫は教育に対する統治的接近だ。 全教組の歴史観を座視しないという意志を露わにしたもの」と説明した。 理念葛藤をそそのかして得をしてきた政府が“反全教組情緒”を呼び起こして来年の教育長選挙まで連係させようとするという展望も提起されている。

 現在全教組は進退両難の守勢に追い込まれている。 ハ・ビョンス全教組スポークスマンは「労働部の要求を拒否すれば、合法化以後築いてきた基盤を全て失うことになる。 反対に要求を受け入れれば、労組としての自らのアイデンティティに背くだけでなく解雇者を二度殺すのと同じだ、といった自嘲的な雰囲気にはまらざるを得ない」と説明した。

政府が法外労組化を助長

 規約改正を拒否する場合、労働部は10月23日直ちに「労組でない」と通告するものと見られる。 法外労組になるという事から、組合員は1500人余りが解職されて試練の時期を送った“非合法時代”を想起せざるを得ない。 学校現場の打撃も相当大きいものと予想される。 労働組合法上の保護を受けることができなくなり、団結権と団体交渉権に制約が伴う。団体交渉を要求することはできるが、保守性向の教育長がいる地域では黙殺される可能性が高い。 全教組本部は2004年以降、教育部と団体協約を締結したことがない。

 各種の補助金も削られる。 直ちに10月10日、ソウル市教育庁は全教組ソウル支部が推進する学生青少年文化事業と教育活動改善現場実践事業に対する補助金3千万ウォンの支援を暫定保留した。 「補助金を支給しておいて、もし全教組が法外労組になったらこれを回収できない」というのが理由だった。 現在活動中の労組専従者の休職理由も消滅する。 80人余りの専従者が学校業務と労組業務を併行することになるので「労組活動と他の労働者との連帯活動が萎縮するだろう」とイ・ヒョン政策室長は説明した。 管理者の不当労働行為への対応も今までより難しくならざるをえない。 私立学校の教師たちの被害が大きいことが予想される。

 反対に規約改正を受け入れれば、労働部が名指しした9人の解職教師は組合員資格を失うことになる。 全教組は政府要求に屈服したという内外の世論に直面するかもしれない。 解職教師を保護できなかったということで、内部葛藤が生じる可能性もある。 規約改正拒否と受容の間で全教組に与えられた選択肢は非常に狭い。 “両王手”だ。 政府の全教組攻撃は過去より一層ち密で精巧になっている。

 全教組教師の多くは「法外労組化は全教組圧迫の序幕」に過ぎないと見ている。 規約改正でパク大統領の憎しみが収まりそうには見えないということから、全教組の悩みは深い。 政府が法外労組化を助長しているような状況も観察される。 全教組規約は過半数の得票で総投票結果を決められるようにしているが、労働部は3分の2以上の改正意見が出なければ認めないという意志を全教組に伝達した。 規約改正を要求する労働部の方針が逆に規約改正を難しくしているわけだ。 キム・ジョンフン委員長は「私たちが規約を改正したとしても、政府はどんな言葉尻を捉えてでも法外労組化しようとするだろう。 どっちに転んでも『お前らは合法労組と認めない』という内心が見える」と言う。 国会環境労働委員会シン・ゲリュン委員長(民主党)が最近パン・ハナム労働部長官に会って「政治的判断をするな」と要求したのも同じ憂慮のためだ。 シン委員長は<ハンギョレ21>との電話通話で「パン長官は規約改正以外には他の政治的判断はないと言ったが、政府が望ましくない方向へと政局を引っ張っていこうとしているのではないかという疑問がある」と話した。 彼は「10月15日の環境労働委国政監査に全教組委員長を出席させた。 この席で、意図があるにせよないにせよ、全教組に対する意思をはっきり表明せよと、パン長官に要求する計画」と話した。

 総投票日が近づくと共に、現場の組合員の間にも緊張感が漂う。 本部と支部からは毎日総力闘争を予告する携帯メールが飛んでくる。 規約改正拒否と受容を巡り、現場でも意見が交錯する。 あるソウル地域の組合員(44)は「個人的には政府が圧迫するからと言って解雇者関連規約を修正して組合員資格を剥奪するならば、『果たしてこれが、私たちがあれほど懸命に作ろうとしていた組合なのか』という疑問を感じる。 しかし、合法化のために多くの代価を払ったのに、法外労組になればあまりに多くを失うのではないか、という意見も現場では多く出ている」と伝えた。

どちらにせよ“僅差”だろう

 私立中学のある組合員(35)は「法外労組化に反対した場合、薄情だとか正義の側に立っていない、といったふうに見られるかもしれないため、自分の声を出せないでいる隠れた意見が多いと聞いている」と付け加えた。 「政府が全教組内部の争いを仕掛けようとする意図もあるようだ」と話す組合員もいた。

 総投票の展望ははっきりしない。 「隠れている底辺の組合員の民心」が把握されないからだ。 どちらにせよ僅差であろうという展望が優勢だ。 ハ・ビョンス スポークスマンは「全教組無力化の企図に対し総力闘争すべきという意見と、現実的に法内労組を維持しなければならないという意見が互角に分かれている。 賛成にしろ反対にしろ、3分の2を越えることは難しいだろう」と展望した。

 全教組のある支部長は「全教組が創立初期ほどの支持を受けられずにいることについては、私たち自身も反省する点がある」と言い、次のように付け加えた。 「パク大統領が候補者時代に“幸福教育”を語った。 6万の組合員を持つ全教組を撲滅対象と考えるのでは、学校現場の幸福は不可能だ。 パク大統領は全教組を抉り出すのではなく、教育のパートナーとして認めなければならない。」

オム・ジウォン記者 umkija@hani.co.kr ・イ・ムニョン記者 moon0@hni.co.kr

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/607455.html 韓国語原文入力:2013/10/17 17:38
訳A.K(7669字)

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