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「嫌悪の連鎖、大林洞で断ち切る」…韓国の嫌中デモに抗する柔らかで断固とした姿勢

登録:2025-09-30 03:01 修正:2025-09-30 08:01
「境界人のモクソリ研究所」のパク・トンチャン所長
境界人のモクソリ研究所のパク・トンチャン所長(右端)が25日、ソウルの大林駅5番出口前で、極右勢力の「嫌中集会」を糾弾する記者会見を準備している=チョン・インソン記者//ハンギョレ新聞社

 「××(中国を侮蔑する表現)アウト!」、「華僑優遇、自国民の逆差別!」 

 25日夕刻、ソウル九老区(クログ)の大林(テリム)駅前では、論理も脈絡もなく、単に傷つけることを目的とした嫌悪の言葉が虚空を切り裂いていた。同じ時刻、同じ場所には、150人あまりの移住民と先住民、活動家が集まっていた。ヘイトスピーチをとても聞いていられず、震えているある住民を、境界人のモクソリ研究所のパク・トンチャン所長(29)が慰めた。「それでも私たちは乱暴にやってはいけません」。やがてパク所長は柔らかく、かつ断固とした声で叫んだ。「大林洞が今日の彼らの標的なら、明日はまた別の町、別の人がその矢に当たらないという保障はありません。嫌悪の連鎖は今ここで断ち切らねばなりません」。訴えもお構いなしに、「民草決死隊」などの嫌中団体はこの日夕刻、自らを誇示するかのように大林洞を行進した。

 嫌悪、傷、誓いの錯綜する騒乱が町を襲っていった夜、ハンギョレはパク所長と会った。中国出身の移住民人権運動家である同氏にとって、「2025年の大林洞」とはいかなる意味を持つものなのかが聞きたかった。同氏は大林洞で初めて嫌中集会が行われた7月以降、住民たちとコミュニケーションを取りつつ、対抗記者会見、地域社会懇談会などを主導してきた。

25日夕刻、「民草決死隊」などの過激な保守系団体の関係者たちがソウルの大林駅4番出口前で開いた反中集会で、参加者が「華僑優遇を聞いたか? 自国民への逆差別だ」と記されたプラカードを掲げている=チョン・インソン記者//ハンギョレ新聞社

 生まれ育った中国の瀋陽からパク所長が韓国にやって来たのは2015年、延世大学国文学科に入学した19歳の時だった。彼の家族は、日帝強占期に瀋陽に移住した中国同胞だ。彼は満州、朝鮮、日本を横断し、境界人として生きた尹東柱(ユン・ドンジュ)のような詩人になりたかった。留学のために来たのに文学の夢をしばし置いて人権運動をはじめたきっかけは、「はっきりとは答えられない」と言った。「2016年のTHAAD事態、2020年のコロナ禍など、局面ごとに中国出身者として感じる差別がありました。そんな時、移住民個人の資格で『認定闘争』をやったんです」。3年前に研究所でもあり人権団体でもある「境界人のモクソリ(「役割(モク)」と「声(モクソリ)」をかけた意味)研究所」を立ち上げたことで、所属団体ができた。

 そうして迎えた2025年の大林洞について、パク所長は「嫌悪のひとつの頂点」だと述べた。「果ては、弾劾された大統領が戒厳の大義名分を露骨に移住民に求めました。いまタガが外れた嫌悪を正さなければ、本当の物理的な加害へと進む危険性もあると思います」。主流政治家からアスファルト団体(路上でデモなどを繰り広げる右派団体)に至るまで、組織的に「中国の脅威」を扇動し、移住民をその怒りをぶつける標的としている。同氏はもう一度、「いま嫌悪を放任すれば、絶えず再生産され、他の地域、他のマイノリティーへと向かう」と懸念を示した。中国同胞である彼は、自身の考える「最後の防衛線」なのだ。

7月11日、境界人のモクソリ研究所のパク・トンチャン所長がソウルの大林駅9番出口前で行われた「民主主義を破壊し嫌悪扇動に没頭する極右勢力は出ていけ」と題する緊急記者会見で発言している=民主労働党提供//ハンギョレ新聞社

 この日、嫌中デモに抗する記者会見に参加した市民の多くは、中国同胞の移住民だった。このようなことはかつてなかった。パク所長は「住民はもともと政治に関心を持たない。中国には市民運動がほとんどないため慣れてもいないし、政治活動に参加して強制出国させられる可能性もあるという恐怖もある。このように多くの当事者が街頭に出てきたのは大林洞でも初めてのこと」と語った。頂点に達した嫌悪に対する移住民の危機感もまた、恐怖に打ち勝つほど高まっているのだ。

 幸いにも新政権が嫌中デモの威嚇行為に厳しく対処するとの考えを表明したことについて、パク所長は「日照りに恵みの雨のよう」と述べて喜んだ。ただし、こう付け加えた。「嫌悪デモを人権侵害と規定して制裁する法律がないため、政府は直ちに何かをすることはできないでしょう。今日の嫌中デモもそのまま行われたわけですし。だから立法が必要なんです」。境界人のモクソリ研究所は、特定の集団を標的とした嫌悪・暴力集会を規制する法律が必要だとして、法の制定を求める署名運動をおこなっている。

チョン・インソン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1221425.html韓国語原文入力:2025-09-29 20:10
訳D.K

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