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金正恩委員長が習近平主席に強調した「互恵的経済協力」…隠れた本音とは

登録:2025-09-08 06:43 修正:2025-09-08 08:49
北朝鮮の金正恩国務委員長と中国の習近平国家主席が4日、北京の人民大会堂で互いに手を取り合って話し合っている/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 4日午後、中国・北京の人民大会堂で開かれた朝中首脳会談で出た北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の発言の中で、特に目を引いたのは「両国間の互恵的経済・貿易協力を発展させ、より多くの成果を上げることを望んでいる」という内容だ。これは中国外交部が出した会談結果発表文には含まれていたが、5日付の北朝鮮官営「労働新聞」の会談結果報道文にはなかった。金委員長は習近平中国国家主席との会談で「経済・貿易協力の発展」を提案する際、なぜその前に「互恵的」という修飾語を付けたのだろうか。

■金委員長の「深刻な貿易不均衡解消」への支援要請

 その理由を推測する糸口は朝中貿易統計から見つけることができる。昨年の朝中貿易総額は21億8千万ドルだった。北朝鮮の対中輸出は3億5千万ドルだが、輸入は18億3千万ドル。15億ドル近い赤字だ。これは公式の貿易統計に過ぎず、国境地帯を行き来する密貿易まで加えれば、その規模ははるかに大きくなるだろう。研究者によって判断は異なるが、朝中密貿易の規模は公式の貿易規模とほぼ同じだという推算もある。

 金委員長が強調した「互恵的」という言葉に隠された本音は、結局「深刻な貿易不均衡の解消」に向け習主席の助けが必要だという意味とみられる。韓国政府内外では、今回北朝鮮が「中国派遣北朝鮮労働者に対するクォーター(上限)の拡大」と「中国人の北朝鮮への団体観光再開」などを重点的に中国側に提起したものとみている。いずれも活性化すれば、北朝鮮側の外貨収入が増え、それだけ朝中貿易の赤字も減ることになる。

金正恩国務委員長と習近平国家主席が4日午後、北京の人民大会堂で首脳会談と宴会を共にしたと、労働新聞が5日付で報道した/朝鮮中央通信・聯合ニュース

■経済・貿易協力の障害物、対北朝鮮制裁

 ところが、金委員長の「互恵的経済・貿易協力の発展」は単なる経済協力の強化だけを意味するわけではない。習主席が金委員長の要請に応えるためには、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議という困難な障壁を無視もしくは迂回しなければならない。簡単な問題ではない。

 例えば、国連安保理は北朝鮮の主要外貨獲得源である「北朝鮮労働者の海外派遣」を対北朝鮮制裁決議で徹底的に禁止している。国連安保理は「海外派遣労働者の規模拡大禁止」(決議第2371号、2017年8月5日)→「海外派遣労働者の新規採用禁止」(決議第2375号、2017年9月11日)→「海外派遣労働者の12カ月以内の帰国措置」(決議第2397号、2017年12月22日)による順次的制裁強化で、北朝鮮当局の「労働者国外派遣」を通じた外貨獲得の道を塞いでいる。

 今も中国東北地域とロシア極東地方に多くの北朝鮮労働者が就業しているが、制裁違反を避けるため、国籍を偽っている。「中国人の北朝鮮への団体観光再開」も制裁の壁を乗り越えなければならない。観光は国連安保理の制裁の対象ではない。だが、いわゆる「バルクキャッシュ」(大量現金)を北朝鮮に送金することは、国連安保理決議第2094号(2013年3月7日)で禁止されている。そのため観光をしても観光客個人が「実費」精算をしなければ制裁違反になるため、大規模な観光事業は現実的に難しい。

4日午後、北京の人民大会堂で、北朝鮮の金正恩国務委員長と中国の習近平国家主席が2国間会談を行った/朝鮮中央通信・聯合ニュース

■経済・貿易協力の強調に隠された思惑…「制裁(履行)の緩和」要請

 結局、金委員長の「互恵的経済・貿易協力の発展」要請に含まれた本音は、習主席が国連安保理の対北朝鮮制裁義務の履行を拒否するか、少なくとも「緩やかに履行してほしい」ということだ。これを通じて、北朝鮮が外貨を稼げる道を開き、北朝鮮の対中貿易赤字も解消するよう助けてほしいという意味だ。

 金委員長が会談で「中国の朝鮮半島問題に対する公正な立場を高く評価」し、「国連などの多国間の舞台で両国間の調整を強化し、共同の根本利益を守護していく」と強調したのも、この延長線上でみる必要がある。結局、新たな対北朝鮮制裁決議を作り出せる国際法的権威を持つ国連安保理の「機能不全」状況を長期化することで、最終的には国連安保理の対北朝鮮制裁決議を解除するのに中国の助けが必要だという話だ。国連安保理は2022年2月のロシアとウクライナの戦争勃発後、米国の対ロ制裁の逆風で米ロ間対立が深まったことで、拒否権を持つ5カ国(米国、英国、フランス、中国、ロシア)の全会一致が必要な新たな決議の導出に繰り返し失敗し、「機能不全」に陥ったとみられている。

4日午後、北京の人民大会堂で、北朝鮮の金正恩国務委員長と中国の習近平国家主席が2国間会談を行った/朝鮮中央通信・聯合ニュース

■習主席はそれに呼応したのか

 ただし、金委員長の「互恵的経済・貿易協力発展」要請に、習主席が何と答えたかは、中国外交部発表文と「労働新聞」の報道文だけでは正確に計ることは難しい。「労働新聞」の報道文には「経済協力」と関連した直接的言及が全くない。中国外交部の発表文には習主席が「ハイレベル交流と戦略的疎通を強化し、各分野の実質的協力を拡大していかなければならない」と強調したという内容があるだけだ。首脳会談を含め、朝中関係で中国側が常に強調する表現だ。金委員長の要請に呼応したのかどうかは不明だ。

 にもかかわらず、金委員長と習主席が2019年6月の平壌(ピョンヤン)会談以来、6年3カ月ぶりにの膝を突き合わせたのは、朝中経済協力を含む各分野の交流拡大に大きな動力になるという予想が多い。金委員長と習主席は2019年6月、平壌で開かれた会談で、両国間の「交流および往来強化」に合意し、朝中当局はその後、実行案まで用意したが、北朝鮮の「新型コロナウイルス感染症対応の国境閉鎖」などを理由に実行が中断された。今回の会談を機にその「実行案」を再稼動することは、予定された手順ではないかという予想が多い。

 2019年6月の会談直後、中国は北朝鮮に食糧60万~70万トン、肥料20万~30万トンを支援したが、北朝鮮の国境閉鎖のため、大連港に長い間保管されていた。その後、2021年になってようやく北朝鮮に渡った。今回も習主席は10月10日の北朝鮮労働党創建80周年という重大な政治行事を控えた金委員長が帰国する際、食糧や肥料など大規模な「経済支援パッケージ」を贈った可能性があるとみられている。

イ・ジェフン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1217260.html韓国語原文入力:2025-09-06 11:52
訳H.J

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