北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が、9月3日に行われる中国の戦勝節行事に出席する。その後の関心は、金正恩委員長が今年10月末に慶州(キョンジュ)で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議に出席するかどうかだ。しかし韓国政府は、金委員長のAPEC会議への出席はもとより、朝米首脳会談の早期実現の可能性も低いとみている。金委員長の今回の訪中で朝中ロ関係が強固になる可能性が高いだけに、北朝鮮としては朝米および南北対話に取り組む動機が弱いということだ。
チョ・ヒョン外交部長官は先月31日の韓国放送(KBS)の「日曜診断」に出演し、「慶州で行われるAPEC首脳会議を機として米国のトランプ大統領と金委員長が会う可能性はあるか」と問われ、「朝米首脳会談の可能性は現在のところは非常に低い」と述べた。チョ長官は「外交は常に現実に基盤を置かなければならないので、その可能性を念頭に置いて万全の準備を整えなければならないが、逆方向に進む可能性に対しても備えなければならない」と述べた。キム委員長が多くの首脳の集う舞台に登場するのは注目すべきことだが、この流れが朝米・南北対話に直ちにつながることはほぼないという。
北朝鮮の立場からすると、現在、朝米対話に乗り出したとしても、直ちに得るものはない。北韓大学院大学のヤン・ムジン教授は、「北朝鮮をAPECに招くには誘引する動因がなければならないが、それが今はない。北朝鮮の語る『敵対的二国家論』は韓国としては受け入れられないし、米国が北朝鮮敵対政策を廃棄できるわけでもない」とし、「APECを機として朝米が対面できたら良いという程度には雰囲気を盛り上げなければならない」と述べた。
政府は、北朝鮮が対南メッセージで強く非難している中でうかつにAPECへの招請状を送り、物議を醸す必要はないと考えている。朝鮮労働党中央委員会のキム・ヨジョン副部長は今月19日、「外務省の主要局長と協議会」を行い、「韓国には我が国家を中心に展開される地域外交の舞台で雑役さえ与えられないだろう」として、「韓国は我々の外交相手になりえない」と述べている。北朝鮮の米国、中国、ロシアなど周辺国との外交には、韓国の関与は容認しないと宣言したのだ。政府の関係者は「北朝鮮が出席するというシグナルをまず送ってこない限り、韓国が北朝鮮にAPECへの出席を要請する可能性は低い」と語った。政府は現在のところ、北朝鮮にAPECへの招請状を送っていない。
一部からは、北朝鮮は朝米首脳会談を念頭に訪中を決めたのではないかという期待混じりの見通しも示されているが、専門家は北朝鮮が平昌(ピョンチャン)五輪への参加を突如決定した2018年とは状況が異なると語る。2018年には、中国とロシアは形式的にではあっても国連安全保障理事会(UNSC)の北朝鮮制裁に同調していた。しかし、2022年5月の北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射に対応して米国が提出した新たな制裁決議案に対しては、中国とロシアは初めて「拒否権」を行使した。慶南大学極東問題研究所のイム・ウルチュル教授は、「2018~2019年とは真逆だと考えられる。当時はロシア・ウクライナ戦争もなかったし、米中もなんとかうまくやっていた。当時は中国、ロシアが北朝鮮制裁にすら加わる時代だったのだから、今とは状況が大きく異なっていた」と指摘した。