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「謹弔」検察…尹錫悦が政権を飲み込んだ瞬間、自爆は始まった

登録:2025-06-17 00:46 修正:2025-06-23 09:06
[ソン・ハニョン先任記者の政治舞台裏] 
「独裁の侍女」-「核心統治機構」-「政権掌握」 
検察庁の廃止は検事総長大統領の代償 
尹錫悦と検察が共に没落…捜査と起訴の分離は必要不可欠
尹錫悦前検事総長が2021年6月29日、ソウル瑞草区の梅軒尹奉吉義士記念館での記者会見で、大統領選への出馬を表明している/聯合ニュース

 韓国の検察制度は1895年の裁判所構成法から始まりました。甲午改革が生んだ司法の近代化の産物です。裁判と行政を分け、裁判権を裁判所に統一する内容を含んでいます。検事(検察官)は裁判所の職員として捜査権と起訴権を行使しました。

 その後、日帝強占期に検察と警察の強制捜査権が幅広く認められ、1941年に検事中心の一元的な捜査体制が樹立されました。韓国検察の草創期の歴史については、チョン・ウンジュ記者が2019年10月の土曜版カバーストーリーで詳しく書いています。

 検察庁法第4条(検事の職務)は、検事の捜査対象を「腐敗犯罪、経済犯罪などの大統領令で定める重要犯罪」に制限しています。文在寅(ムン・ジェイン)大統領時代に検察と警察の捜査権調整で検事の捜査対象が縮小されたのです。それまで検事はすべての犯罪を捜査、起訴する強大な存在でした。1949年の検察庁法制定当時からそうでした。

 しかし、法律と現実は異なっていました。李承晩(イ・スンマン)大統領時代は警察の方が検察より強かったのです。朴正熙(パク・チョンヒ)大統領時代は軍と中央情報部の方が検察より強大でした。全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領時代は保安司令部、安全企画部、警察の方が検察より強力でした。検察は「独裁政権の侍女」に過ぎませんでした。クーデターで政権を握った朴正煕、全斗煥の両大統領は、法務部長官と検事総長を自身の法務参謀くらいにしか考えていませんでした。

 そんな検察が他の機関を超えて「中核の統治機構」となったのは、盧泰愚(ノ・テウ)大統領の時代でした。軍の出身者たちが退いて出来た空白を大邱(テグ)・慶尚北道出身の検事たちが埋めました。検察は公安政局を主導しました。暴力団との戦争を遂行しました。大統領秘書室長(チョン・ヘチャン)、安企部長(ソ・ドングォン)に元検事が就きました。検察共和国という言葉が登場しました。

 権力の中枢に入ってきた検察は、この時から政治権力との力比べをはじめました。政権初期には、前政権たたきの先頭に立ちました。政権の力が落ちた末期には、政権にかみつきました。金泳三(キム・ヨンサム)、金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)、文在寅大統領の時代まで、それは繰り返されました。政権の力は次第に弱まり、検察の力は次第に強まっていきました。

 文在寅大統領の任命した尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長は政権と争い、2021年に総長職を投げ捨てて大統領選挙への出馬を宣言しました。2022年3月9日に大統領に当選しました。検察がついに政権を丸ごと飲み込んだのです。

ソウル瑞草区のソウル中央地方検察庁のロビーに、検事宣誓の記された額がかかっている/聯合ニュース

 歴史意識と慧眼(けいがん)を持つ検事は、あの時、尹錫悦検事総長の大統領選への出馬を何としてでも阻むべきでした。命を懸けて王に訴える「持斧上疏」をしてでも止めるべきでした。誰もしませんでした。尹錫悦検事総長が大統領になれば検察は没落すると、あの頭の良い検事たちはなぜ考えられなかったのでしょうか。本当は頭が悪いのでしょうか。卑怯なのでしょうか。理解しがたいことです。

■政治を知らない検事、必敗の理由

 検事は過去を裁断する人です。政治家は未来を企画する人です。政治経験のまったくない元検事に政治ができないのは至極当然です。にもかかわらず、政権奪還に目がくらんだいわゆる保守勢力は、尹錫悦検事を大統領の地位へと押し上げました。尹錫悦大統領の在任中に実際に起こったことは、大統領就任前から十分に予見されていました。

 つまらない仮定ですが、もし尹錫悦大統領が、自分が政治をよく知らないことを認め、当時与党となった「国民の力」の政治家たちに頼って大統領職を遂行していたとしたら、どうなっていたでしょうか。私は成功していたと思います。「国民の力」は改革的保守の遺伝子を持つ政党です。政権担当経験も豊富です。国政をうまく導いていける人的資源と力量を備えています。

 しかし、尹錫悦大統領は「国民の力」を信頼していませんでした。党の政治家ではなく、検察出身者を大統領室と行政府の要職に大勢起用しました。検事時代の部下を法務部長官に任命し、続いて「国民の力」の非常対策委員長に天下りさせました。検察のやり方で行政府と党を運用しようとしたのです。失敗は当然の帰結でした。

 市民団体「参与連帯」の司法監視センターが昨年5月に「尹錫悦政権2年検察報告書2024」を発行しています。ユ・スンイク副所長(韓東大学研究教授)による検察の捜査・人事総合評価には次のような内容があります。

 「政治初心者の大統領による国政運営は認知の不調和の連続だった。政治と憲政の作動方式に無知な大統領は、国政の当面の現実を無視または回避しつつ、検事(より正確には司法警察官としての検察捜査官)の姿勢で一貫していた。自身に反対する政治勢力は、犯罪容疑者と予断して敬遠し、与党の政治家すら司法的に脅して追い出したり沈黙を強要したりした。政治の消え去った場所では、政治的素人の『捜査統治』が横行した」

 そうです。去年12月3日の非常戒厳宣布は、「捜査統治」で一貫しているうちに限界にぶつかった尹錫悦大統領の「自爆」でした。検察は「捜査統治」の要でした。したがって、検察が尹錫悦大統領とともに没落するのは至極当然です。

■国民の63%が「検察を信頼していない」

 国民も、検察がこれまでどのようなことをしてきたのかをとてもよく知っています。韓国ギャラップが今年1月、3月、4月の3回の世論調査で、各国家機関を信頼できるかどうかを尋ねています。憲法裁判所、警察、裁判所、中央選挙管理委員会、高位公職者犯罪捜査処、検察の中で、検察は最下位でした。4月11日に発表された調査では、検察は「信頼している」25%、「信頼していない」63%でした。これほど国民の不信を買っている機関は存在すべき理由がありません。

4月11日に韓国ギャラップが発表した各国家機関に対する信頼度。単位は%。左上から憲法裁判所、警察、裁判所、中央選管、公捜処、検察。実線が「信頼している」、点線が「信頼していない」//ハンギョレ新聞社

 「共に民主党」の13人の議員が、検察庁を廃止し、公訴庁、重大犯罪捜査庁(重捜庁)、国家捜査委員会を設置する法案を提出しました。キム・ヨンミン、ミン・ヒョンベ、チャン・ギョンテ、ムン・ジョンボク、キム・ドンア、プ・スンチャン、キム・スンウォン、ハン・ミンス、チョ・ゲウォン、キム・ムンス、カン・ジュンヒョン、キム・ヒョンジョン、イ・ジェガンの各議員です。

 検察庁法廃止法案はキム・ヨンミン議員が代表発議しました。1949年に設置された検察庁を廃止するとする内容です。公訴庁設置法案もキム・ヨンミン議員が代表発議しました。法務部長官傘下の公訴庁所属の検事が起訴、公訴維持、令状請求に必要な事項を担当するという内容です。公訴庁が設置されれば、現在の検察業務の大半が公訴庁に移ります。

 重捜庁設置法案はミン・ヒョンベ議員が代表発議しました。重大犯罪の捜査を担当する重大犯罪捜査庁を行政安全部長官の下に設置するという内容です。重捜庁が設置されたら、現在は検察で直接捜査を担っている検事と捜査官は重捜庁に移ればよいのです。

 国家捜査委員会設置法案はチャン・ギョンテ議員が代表発議しました。捜査機関同士の対立を調整するとともに、捜査の手続きおよび結果の適正性と適法性に対する民主的統制によって捜査の公正さを確保するために、首相の下に国家捜査委員会を設置するという内容です。

 民主党の議員が発議した法案ですが、民主党の方針ではありません。今後、大統領室の民情首席と法務部長官が新たに任命されれば、政府与党協議を経て内容が調整される可能性があります。しかし、これまで検察が持っていた捜査権と起訴権を分離するという大原則に変更はないでしょう。

■すでに2022年に民主党と国民の力は「捜査・起訴分離」合意

 李在明大統領は今回の大統領選挙で検察改革を公約したうえで当選しています。検察改革はすでに国民の同意手続きを経ていることになります。李在明大統領の公約の要も、やはり捜査と起訴の分離です。

 検察改革は刑事司法システムの根幹を変える大改革です。十分な社会的議論と意見の集約が必要です。与野党が合意して処理した方がよいでしょう。与野党は合意できるでしょうか。

 できます。2022年4月22日には、国民の力のクォン・ソンドン院内代表と共に民主党のパク・ホングン院内代表が、パク・ビョンソク国会議長の仲裁で検察改革案に合意しています。尹錫悦大統領の当選後、かつ就任前でした。内容は次のとおりです。

2022年4月22日、パク・ビョンソク国会議長(中央)と共に民主党のパク・ホングン(左)、国民の力のクォン・ソンドンの両院内代表が、国会で検察の捜査権と起訴権の分離法案についての国会議長仲裁案に合意し、署名を終えた合意文を広げている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 「検察の直接捜査権と起訴権は分離する方向とする。検察の直接捜査権は一時的であり、直接捜査の場合も捜査する検事と起訴する検事は分離する」

 「法案審査権を持つ司法改革特別委員会を設置する。同特委は仮称『重大犯罪捜査庁(韓国型FBI)』などの司法体系全般について密度ある議論を行う。重捜庁は、特委設置から6カ月以内に立法措置を完成させ、立法措置後1年以内に発足させる。重捜庁が発足すれば、検察の直接捜査権は廃止する」

 驚くべき内容です。尹錫悦当選者が覆したため御破算になりましたが、検察改革について与野党はいくらでも合意できるということを立証した事例でした。

 まとめます。検察改革法案は政府与党や与野党の協議を経て、年内に必ず可決させなければなりません。要は検察の捜査権と起訴権の分離です。これまでの検察の弊害は捜査権に起因していました。検察庁を廃止するにせよ廃止しないにせよ、検察は今後、直接捜査が行えないようにしなければなりません。それが検察の運命です。受け入れなければなりません。みなさんはどう思いますか。

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1202812.html韓国語原文入力:2025-06-15 09:00
訳D.K

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