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尹錫悦の側近を裁判官に指名した「第2次ハン・ドクスの乱」

登録:2025-04-14 08:28 修正:2025-04-14 09:03
[ソン・ハニョン先任記者の政治舞台裏] 
憲法裁は仮処分認容で裁判官任命を阻止すべき 
内乱関与説、大統領選野望説、責任回避説が紛々 
国会は2度目の弾劾訴追ためらうべきではない
ハン・ドクス大統領権限代行兼首相が10日午前、ソウル鍾路区の政府ソウル庁舎で行われた国政懸案関係長官会議で、冒頭発言後に書類を見ている=キム・テヒョン記者//ハンギョレ新聞社

 ハン・ドクス大統領権限代行首相は1949年生まれです。76歳です。全州(チョンジュ)出身で京畿高校、ソウル大学商学部を出ています。1970年に公務員試験に合格しています。

 彼の公職の履歴は華やかすぎて目がくらむほどです。特許庁長、通商産業部次官、外交通商部通商交渉本部長、OECD(経済協力開発機構)大使、大統領府政策企画首席・経済首席、産業研究院長、国務調整室長、副首相兼財政経済部長官、首相、駐米大使、貿易協会の会長を経て、再び首相になりました。

 彼は昨年12月14日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾訴追で大統領権限代行となりました。国会選出枠の3人の憲法裁判官候補を任命し、早期大統領選挙を管理するという、最後の任務を遂行すると私は思っていました。そうではありませんでした。彼は裁判官の任命を拒否しました。「第1次ハン・ドクスの乱」でした。

 理解しがたい行為でした。後に憲法裁判所が決定した通り、国会選出枠の裁判官に対して大統領は形式的な任命権を持っているに過ぎません。頭のいいハン・ドクス権限代行がそれを知らないはずがありません。なぜあのようなことをしたのでしょうか。

 彼は12月27日に弾劾訴追されました。ハン・ドクス権限代行の後を継いだチェ・サンモク権限代行副首相兼企画財政部長官はチョ・ハンチャン、チョン・ゲソンの2人だけを裁判官に任命しました。国会は権限争議審判を申し立て、憲法裁判所は認容しました。にもかかわらずチェ・サンモク権限代行は、憲法裁判所の決定に従わず粘りました。あきれました。

 今年3月24日、憲法裁判所はハン・ドクス権限代行の弾劾訴追を棄却しました。ハン・ドクス権限代行は復帰しました。憲法裁判所の決定どおり、マ・ウンヒョク裁判官を任命し、6・3大統領選挙を管理することが、彼の本当の最後の任務だと私は思いました。

 そうではありませんでした。彼は突如として、マ・ウンヒョク裁判官の任命とともに、大統領指名枠の裁判官候補として、尹錫悦前大統領の側近であるイ・ワンギュ法制処長とソウル高裁のハム・サンフン部長判事を指名しました。「第2次ハン・ドクスの乱」でした。

 理解しがたい行為です。大統領の空位の際の権限代行であっても、大統領の権限の行使には限界があるというのは常識です。頭のいいハン・ドクス代行がそれを知らないはずがありません。

 「例えば、憲法裁判所長と憲法裁判官、裁判所長や最高裁判事などの任命のような、司法権の構成に関する権限は、権限代行の権限の範囲外にあると考えるべきだ。内閣改造などの政府内の最高位職の公職者に対する任免権の行使も、できる限り自制すべきだ」(ソン・ナギン『憲法学』2022年)

ソン・ナギン著『憲法学』//ハンギョレ新聞社

 この事態は、一体どうすればよいのでしょうか。「第1次ハン・ドクスの乱」は国会が鎮圧しました。「第2次ハン・ドクスの乱」は憲法裁判所が鎮圧すべきだと思います。

 キム・ジョンファン弁護士(法務法人トダム)は憲法訴願を提起すると同時に、効力停止の仮処分を申し立てました。ハン・ドクス権限代行による大統領指名枠の憲法裁判官指名は、憲法27条1項「すべての国民は、憲法と法律が定めた裁判官によって法律に則る裁判を受ける権利を有する」を侵害しているということです。

 ウ・ウォンシク国会議長は、ハン・ドクス権限代行による大統領指名枠の裁判官指名は「重大な憲法秩序違反」で、「国会の憲法機関任命に関する人事聴聞権を侵害する行為」だとして、憲法裁判所に権限争議審判を請求するとともに、効力停止の仮処分を申し立てました。

 憲法訴願や権限争議審判は時間がかかります。しかし、仮処分は時間がかかりません。5人以上の裁判官の賛成で決定します。4月18日のムン・ヒョンベ、イ・ミソンの2人の裁判官の退任までに憲法裁判所が仮処分を下せば、ハン・ドクス権限代行によるイ・ワンギュ、ハム・サンフン両裁判官の任命手続きは止められます。

 6月3日の大統領選挙で選出される新しい大統領が新しい裁判官を任命すればよいのです。最も望ましく合理的な方法です。憲法裁判所の賢明な決定を期待します。

 ですが、ハン・ドクス権限代行は一体どうしてこのようなことをするのでしょうか。私は「第1次ハン・ドクスの乱」の際に、内乱関与説、大統領選野望説、責任回避説の3つの分析を紹介しました。今回も同様です。

 最も有力な仮説は、やはり1つ目の「内乱関与説」です。ハン・ドクス権限代行は、尹錫悦前大統領による非常戒厳のことは事前に知らなかったと主張しました。尹錫悦前大統領もそう主張しました。

 しかしです。もし尹錫悦前大統領がハン・ドクス権限代行と非常戒厳について事前に話し合っておきながら、うそをついているとしたら、どうなるでしょうか。

 尹錫悦前大統領が「実はハン・ドクス首相とも事前に非常戒厳について議論した」と言った瞬間、ハン・ドクス権限代行は内乱の共犯者となってしまいます。内乱謀議に参加したり、指揮したり、その他の重要な任務に従事したりした者の刑量は、死刑、無期または5年以上の懲役もしくは禁錮です。ハン・ドクス権限代行は尹錫悦前大統領に『人質』として捕らえられ、言われた通りにしているのかもしれません。

 2つ目の「大統領選野望説」も依然として有効です。米国のドナルド・トランプ大統領はハン・ドクス権限代行に電話で、大統領選に出馬するかどうかを尋ねたといいます。韓国の事情を知らないトランプ大統領が、励ましの意味でそのようなことを言った可能性はありません。首相室や大統領秘書室の誰かが、米国側にハン・ドクス権限代行の大統領選出馬の可能性を耳打ちしたはずです。

 かなりの数の与党「国民の力」の議員や党協委員長が連日、ハン・ドクス代行に大統領選への出馬を促しています。クォン・ソンドン院内代表は今月9日の記者懇談会で、「ハン・ドクス代行が出馬すると国政に空白が生じることが懸念される」と記者に問われ、次のように答えています。

 「大韓民国政府はシステムで回っているため、若干のリスクはあり得るが、大きな混乱はないと思う」

国民の力のクォン・ソンドン院内代表が先月9日、ソウル汝矣島の国会で、第21代大統領選挙について記者懇談会をおこなっている/聯合ニュース

 出馬要請も同然です。ハン・ドクス権限代行が国民の力の予備選挙に出馬するためには、今月15日までに予備選挙の候補者として登録しなければなりません。無所属で出馬してから国民の力の候補と一本化するという方法もあります。「ハン・ドクスの選択」にかかっています。ハン・ドクス権限代行は14日、国会の対政府質問に出席しなければなりませんが、出席するかどうかは不透明です。

 3つ目の「責任回避説」が正しいのかもしれません。ハン・ドクス権限代行は生涯を公務員として送ってきた人です。公務員は政治家と異なり、自分が責任を取らなければならない危険な決定はあまりしません。

 「第1次ハン・ドクスの乱」の時、私はハン・ドクス権限代行の出た京畿高校のことを記事に書きました。高校入試があった時代、京畿高校は全国の秀才たちが入学した最高の学校で、大統領権限代行の経験を持つチェ・ギュハ、コ・ゴン、ファン・ギョアン、ハン・ドクスの4人は全員が京畿高校の出身だという内容でした。読者の一人から、私にこのような丁寧な意見が送られてきました。

 「過去を思い出します。12・12(1979年の全斗煥による軍事クーデター)から5・18(1980年の光州民主化運動)の間のチェ・ギュハ大統領、パク・チュンフン首相代理、ミン・グァンシク国会議長職務代行、イ・ヨンソプ最高裁長官の全員が京畿高校出身でしたよね。私自身、京畿高校出身者として本当に恥ずかしかった。単に全国の秀才が集うところではなく、日帝下の親日官僚養成機関としてのその弊害がいまだに続いているようです」

 私は申し訳なく思って、「京畿高校出身者には立派な方々のほうがはるかに多いということはよく知っています。良い学校の出身者が歴史的な節目でもう少し堂々と行動してくれていたらという気持ちから記事を書きました」と説明しました。改めてメッセージが来ました。

 「専門職では一家言を持った人は多いですが、ご指摘の通り歴史的節目では、特に影響力の大きな公職者は、ほとんどが日和見主義でした。あの学校の出身者として恥ずかしい限りです」

 私は、ハン・ドクス権限代行も過去の歴史的節目で日和見主義的に行動した京畿高校出身者の高位公職者たちの後を追っているように思えて、とても残念です。

 まとめます。もし憲法裁判所が仮処分を下さなかったら、どうすべきなのでしょうか。ハン・ドクス権限代行がイ・ワンギュ、ハム・サンフンの2人を裁判官に任命するのを放っておくべきでしょうか。私はそうは思いません。国会が改めて弾劾訴追すべきだと思います。

 ハン・ドクス権限代行は3月24日に復帰し、4月8日になってようやくマ・ウンヒョク裁判官を任命しました。不作為による違憲・違法行為です。大統領指名枠の憲法裁判官の指名は、大統領の固有の人事権を侵害した違憲・違法行為です。弾劾事由として十分だと思います。もちろん、チェ・サンモク副首相兼企画財政部長官も弾劾訴追しなければなりません。

 共に民主党の指導部は、ハン・ドクス権限代行を再び弾劾訴追すれば、逆風でイ・ジェミョン前代表の大統領選に支障が生じることを心配しているようです。そう考えてはいけません。国家の綱紀を正すことは、イ・ジェミョン前代表の大統領当選よりも重要です。このような時に中途半端に政務的判断をしてはいけません。

 クォン・ソンドン院内代表の言う通り、大韓民国はシステムで回っている国です。ためらう理由はありません。ちょうどトランプ大統領が関税を90日間猶予しました。6月3日の大統領選の管理は次の順位の国務委員がいくらでもできます。今は大韓民国を救うために断固とした態度を取るべき時です。みなさんはどうお考えですか。

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/polibar/1192092.html韓国語原文入力:2025-04-13 09:00
訳D.K

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