ドナルド・トランプ米大統領は就任初日、北朝鮮を「核保有国」(nuclear power)と呼び、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長との関係を誇示した。北朝鮮の核保有を事実上認め、新たな交渉を始めようという招待状を金委員長に送ったものとみられ、大きな波紋が広がった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾政局で外交の動きがとれない韓国にとっては最悪の状況だ。
トランプ大統領は20日(現地時間)の就任式直後、ホワイトハウスの執務室で記者団に対し、「(第1次トランプ政権当時)私と金正恩はとても友好的で、彼は私のことが好きだった」とし、「私たちはうまくいっていた」と述べた。「2017年にバラク・オバマ元大統領が退任の際に主な安保脅威として北朝鮮を挙げたように、この日退任したジョー・バイデン大統領はどのような脅威を挙げたのか」という質問に答える過程で出た発言だった。さらに「いまや彼(金正恩)は核保有国だ」とし、「彼は私が(ホワイトハウスに)戻ってきたことを歓迎すると思う」と語った。
トランプ大統領が言及した「核保有国」という表現は、核兵器不拡散条約(NPT)体制で合法的核兵器保有を認められる5カ国(nuclear-weapon state、米国、ロシア、英国、フランス、中国)ではないが、事実上核保有が黙認されている国々を指す言葉だ。
これまで米大統領が北朝鮮を「核保有国」と明示的に言及した前例はなかった。しかし、第2次トランプ政権の初代国防長官であるピート・ヘグセス氏が14日、上院軍事委員会の人事聴聞会の書面答弁で、北朝鮮を「核保有国」と言及したのに続き、この日トランプ大統領まで同じ発言をしたことは、米国がこの30年余り維持してきた「北朝鮮の非核化交渉」の局面転換を図るシグナルとみられる。マルコ・ルビオ国務長官はすでに今月15日、上院外交委員会の人事聴聞会で、「(対北朝鮮)制裁は金正恩が核を開発することを防げなかった。北朝鮮政策をもう少し幅広く、真剣に検討する必要があると思う」と述べ、北朝鮮核交渉に変化を予告した。第2次トランプ政権は、NPT体制を破ることはなくとも北朝鮮に向けて非核化を前提としない交渉に向けた強いシグナルを送っているということだ。
これと関連して注目すべきなのは、トランプ大統領がこの日「彼(金正恩)にはコンドミニアムをたくさん建てる能力がある」とし、「北朝鮮には海岸が非常に多い」と述べたことだ。金委員長が江原道元山(ウォンサン)の葛馬(カルマ)海岸観光地区作りに力を入れている中、不動産開発業を営んでいたトランプ大統領が北朝鮮の不動産開発の潜在力に関心を示し、金委員長が再び対話に応じれば、北朝鮮制裁を解除し、元山などを一緒に開発する案を提案したものとみられる。トランプ大統領は1回目と2回目の朝米首脳会談当時も、北朝鮮の不動産立地が素晴らしく、元山がリゾート開発に適した地域だと述べた。
トランプ大統領が予想より早く北朝鮮と交渉に始動をかけた状況で、韓国は米国と緊密に調整しつつ、北朝鮮核問題の解決策に対する韓国の立場を反映させることがカギだという指摘もある。世宗研究所のキム・ジョンソプ上席研究委員は「トランプ大統領が軍備統制など他の形で朝米対話を推進しても、韓国の立場が反映されるように対応することが重要だ」と強調した。そして、「非核化の目標そのものが放棄されないようにし、米国が北朝鮮を核保有国として公認しないようにするとともに、米国が譲歩するカードが韓国の安全保障において脅威にならないよう、韓米は緊密に協議して調整しなければならない」と語った。
問題は、12・3内乱事態の余波で依然として韓国政府が外交的に動きがとれないことだ。「代行体制の韓国外交」が米国とこの問題についてきちんと調整できるか、対立する与野党がこの問題に対して冷静に対応し、解決策を設けられるかどうかも不透明だ。
外交部はこのような懸念について、「北朝鮮の非核化は韓米をはじめとする国際社会が一貫して堅持してきた原則」だとしたうえで、「NPTがある限り、北朝鮮は絶対に核保有国の地位を持つことはできない」と強調する立場を発表した。さらに「韓国政府は北朝鮮の非核化に向けて米国の新政権と緊密に協力する一方、国際社会とも引き続き協力していく」と述べた。