元大統領は法律に則って礼遇されます。現職時の報酬の95%を年金として受け取ります。秘書官を3人、運転手を1人つけることができます。警護および警備、交通・通信およびオフィスが提供され、本人および家族は治療も受けられます。
礼遇は剥奪される可能性もあります。弾劾で職を追われた場合、禁錮以上の刑が確定した場合、刑事処分を回避する目的で外国政府に逃走場所または保護を求めた場合、大韓民国の国籍を喪失した場合です。警護および警備はそれでも提供されます。
李明博(イ・ミョンバク)大統領は禁錮以上の刑が確定したケースです。朴槿恵(パク・クネ)大統領は弾劾で職を追われた、禁錮以上の刑が確定したという二つのケースに当てはまります。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領はどうなるでしょうか。朴槿恵大統領のように弾劾で職を追われ、禁錮以上の刑が確定するという、二つのケースに当てはまる可能性が高いとみられます。
いわゆる保守政党出身の大統領が3人も、相次いで元大統領としての礼遇を剥奪されることになります。このようなケースを「三振アウト」といいます。
与党「国民の力」は次の大統領選挙で票をくれと言えるでしょうか。恥を知るなら言えないと思います。
国民の力の議員たちは尹錫悦大統領の非常戒厳を事前にまったく知らず、事後も賛成する人はほとんどいません。にもかかわらず、非常戒厳以降の行動は奇怪この上ないものです。
12月3日夜、国会本会議場に入り、非常戒厳解除決議案に賛成した国民の力の議員は18人いました。クァク・キュテク、キム・サンウク、キム・ソンウォン、キム・ヨンテ、キム・ジェソプ、キム・ヒョンドン、パク・スミン、パク・チョンハ、パク・チョンフン、ソ・ボムス、シン・ソンボム、ウ・ジェジュン、チャン・ドンヒョク、チョン・ソングク、チョン・ヨンウク、チョ・ギョンテ、チュ・ジヌ、ハン・ジアの各議員です。非常戒厳解除に賛成しようとしたものの、本会議場に入れなかった国民の力の議員もかなりいたことでしょう。
問題は非常戒厳解除後、尹錫悦大統領の弾劾をめぐって起こりました。
尹錫悦大統領は、非常戒厳宣布と戒厳司令部布告令で国会と政党の活動を禁止しました。非常戒厳解除決議を阻むため、議員を本会議場から引きずり出せと指示しました。明白かつ重大な違憲、違法行為です。非常戒厳解除に賛成なら、尹錫悦大統領の弾劾に賛成するのが当然です。それが論理的に整合性の取れた行動です。
民意も弾劾に圧倒的に賛成でした。12月13日に発表された韓国ギャラップの定例世論調査では、回答者の75%が弾劾に賛成、21%が反対でした。しかも、すべての地域、すべての年齢層で弾劾賛成世論の方が強かったのです。大邱(テグ)・慶尚北道でも、70代以上でも弾劾賛成の割合の方が高かったのです。(中央選挙世論調査審議委のウェブサイト参照)
ところが、翌日の12月14日の国会での弾劾訴追投票で、108人いる国民の力の議員のうち85人が反対票を投じました。棄権3人、無効8人まで含めると、実に96人が反対したことになります。弾劾に賛成したのは、わずか12人でした。民意とは真逆です。
なぜなのでしょうか。二つの理由があります。
第一に、弾劾フォビア(恐怖症)です。
国民の力は非常戒厳後、議員総会を続けていました。議員総会では多選議員たちが「分裂すれば(党が)滅びる」、「裏切ったら終わりだ」というメッセージを注入し続けました。朴槿恵大統領の弾劾に賛成したクォン・ソンドン、ナ・ギョンウォンの両議員が「自分はやったから分かるが、弾劾したら滅びる」と扇動したため、多くの議員が反対に回りました。誤った呪術で一種の集団催眠にかかったのです。
保守政党が支持を得られないのは、朴槿恵大統領の弾劾の際にきちんと改革できなかったことが、その最大の理由です。「正しい政党」(朴大統領弾劾後に与党から分離して立党された保守党)が無原則な統合と反文在寅(ムン・ジェイン)連帯の形成に同調して自由韓国党に吸収されたことで、保守改革の機会は失われました。弾劾のせいでに滅びたのではなく、弾劾後に改革ができなかったせいで滅びたにもかかわらず、的外れな処方を示しているわけです。
非常戒厳と弾劾訴追の渦中に院内代表に選出され、代表権限代行も兼務するクォン・ソンドン議員は12月20日、記者団に対してこんなことを言っています。
「大統領権限代行の権限の中には国家元首の権限があり、行政府の首班の権限がある。長官の任命権や法案の再議要求権は行政府の首班の権限だ。最高裁判事や憲法裁判所の裁判官などの憲法機関を構成する権限は国家元首の権限だ。国家元首の権限を行使するのは職務停止中には不可能であり、大統領の空位が解消されてから可能になる、というのが我が党の意見だ」
みなさんは、この主張は筋が通っていると思いますか。口を開けて声を出したからといって、何でもかんでも筋の通った話になるわけではありません。
憲法学者の多くは、大統領の裁判官任命権限を形式的権限と解釈し、ハン・ドクス権限代行は裁判官を任命すべきだと述べています。クォン・ソンドン議員の裁判官任命不可能論は、裁判官を6人のままにしておかないと尹錫悦大統領の罷免は防げないと計算した浅知恵に過ぎません。
第二に、イ・ジェミョン(野党「共に民主党」代表)フォビアです。
非常戒厳と弾劾訴追の渦中にあっても、国民の力の議員たちと熱烈な支持者たちの最優先目標は「イ・ジェミョンが大統領になるのだけは絶対にだめだ」というものです。政権を奪われることに対する恐怖、イ・ジェミョン代表に対する拒否感のせいでしょう。感情的にはそういうこともありえます。
ですが、彼らの反イ・ジェミョン感情は合理的でもなく、科学的でもありません。イ・ジェミョン代表と民主党の支持者の多くは、尹錫悦大統領と国民の力に対する極度の拒否感からイ・ジェミョン代表と民主党を支持しているのです。
12月20日に発表された韓国ギャラップの定例世論調査における将来の大統領候補としての支持率は、イ・ジェミョン代表が37%で圧倒的なトップでした。しかし民主党の支持率48%と比べると、はるかに低い数値です。将来の大統領候補については「保留」とする意見が35%を占めました。
韓国の国民は今、尹錫悦大統領による非常戒厳に極度に腹を立てています。尹錫悦の罷免以外のことを考える余裕はありません。尹錫悦大統領の罷免後、誰が民主党の大統領候補になるのか、誰が国民の力の大統領候補になるのか、誰が大統領に当選するのかは分かりません。ここはダイナミックコリアです。
国民の力にとっては、むしろ司法リスクを抱えているイ・ジェミョン代表が、それでも最も競うに値する相手だ。そう考える人もいます。もし民主党から別の大統領選候補が現れれば、国民の力は一度もまともに力を発揮できずに惨敗するでしょう。
国民の力はイ・ジェミョン代表の裁判の迅速な審理を司法府に要請するのではなく、審理がもう少しゆっくり進むように神頼みでもすべき状況です。
フォビアは現実を実際より膨らませて恐れ、不安を感じることで自己統制力を失う病的症状です。国民の力は今、弾劾フォビアとイ・ジェミョン・フォビアで判断力がまひしているようなものです。
結果的に、内乱の首謀者である尹錫悦大統領をかばいながら、非常戒厳に賛成する極右勢力ばかりを見てつっ走っている格好です。このままでは次の大統領選挙で負けるのはもちろん、2026年の地方選挙、2028年の総選挙、次の次の大統領選挙でも敗北し、政治勢力としての存立基盤を失う危険性があります。
だからでしょうか。国民の力が示している非常識な、非合理的な態度は、むしろ保守系の新聞からより強く批判されています。
12月18日付の東亜日報は「『代行は憲法裁判官を任命できない』…実に苦しく不当な嫌がらせ」と題する社説を載せています。12月21日付では「謝罪もせず弾劾議員『いじめ』、支持率は野党の半分の与党」という社説を載せています。
朝鮮日報は12月17日付に「戒厳事態に謝罪もない国民の力、誰を見て政治をしているのか」との見出しをつけた社説を掲載しています。中央日報は12月19日付で「ますます民意から遠ざかる国民の力」という社説を載せています。
国民の力はどうすべきでしょうか、決別すべきです。極右と決別すべきです。嶺南(ヨンナム:慶尚道)と決別すべきです。70代以上の高年齢層と決別すべきです。民主党に学ぶべきです。民主党は開かれたウリ党を結成して湖南(ホナム:全羅道)と決別し、紆余曲折を経て首都圏の政党としての地位を確立しました。
直ちに尹錫悦大統領を捨てるべきです。弾劾の先頭に立つべきです。憲法裁判所の弾劾審判の前であっても大統領の座から降ろすべきです。非常戒厳事態に責任を取るべきです。次の大統領選挙で無理やり勝とうとしてはなりません。死即生、生即死と言いますから。
「敗北したとしても原則を守ったなら、再び立ち上がることができる。しかし原則を失って敗北すると再起は難しい」
盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が残した言葉です。国民の力の議員と支持者には胸に刻んでほしいと思います。みなさんはどう思いますか。