金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記兼国務委員長が「国防・安全分野協議会」を主宰したという北朝鮮官営「労働新聞」の15日付の報道は、金総書記が「平壌(ピョンヤン)への無人機(ドローン)」事態への対応の前面に乗り出したことを意味する。金総書記の会議主宰後、北朝鮮が最初に取った敵対措置が南北連結道路の京義(キョンウィ)線・東海(トンヘ)線の軍事境界線以北の一部区間の爆破だ。
これは、北朝鮮が11日に発表した「外務省重大声明」で、韓国軍がドローンで平壌を侵犯したという疑惑を初めて提起した後、連日声明・談話で主張してきた「再発時には対応報復行動、恐ろしい惨事」の警告が「言葉」にとどまらない可能性があるという威力示威だ。ただし、両道路とも70メートルほどの短い区間の爆破で、まだ「政治的シグナルの発信」の面が強い。北朝鮮は今年1月、南北連結道路一帯に地雷を埋設して閉鎖した。
韓国軍関係者は「京義線と東海線は南北が協力した時に南側が建設したもの」とし、「すでに閉鎖した道路自体を爆破したが、南北断絶の措置を可視化した『最終的なショー』ではないかと思う。南北協力の象徴をなくし、南北間の交流を拒否するという意味とみられる」と述べた。さらに「住民たちに対しては『南北は分かれたから、韓国に頼るな』と対内結束を固め、韓国側に対しては『もう取り引きはしないから放っておいてほしい』というメッセージを送り、国連軍司令部には『南北の対立があるから仲裁・交渉をしてほしい』という意向をそれとなく伝えているのではないか」と付け加えた。
さらに道路の爆破は「北南関係は最も敵対的な二つの国家関係」という金総書記の南北関係再確立路線の既成事実化に向けた後続措置といえる。
金総書記が14日に招集した会議には、軍の情報と対南工作を担当する朝鮮人民軍偵察総局長、軍の運用を担当する人民軍総参謀長が出席した。同会議は「平壌ドローン」事態を「敵の厳重な共和国主権侵害挑発事件」とし、偵察総局長が「総合分析」を、総参謀長が「対応軍事行動計画」をそれぞれ報告した。
金総書記は「評価と結論」を下し、「当面の軍事活動の方向」を示した。全般的な状況分析と軍事的対応策を議論し、決定したという意味だ。これに先立ち、北朝鮮の総参謀部は12日、「完全武装した8個砲兵旅団を射撃待機態勢に転換」を含め、「国境線(軍事境界線)付近の砲兵連合部隊と重要火力任務が課された部隊に完全射撃準備態勢を整えることに関する作戦予備指示」を下した。
金総書記の会議主宰は、平壌ドローン事態後、金総書記の初の公開活動だ。金総書記は会議で「国の主権と安全利益を守るための戦争抑止力の稼動と自衛権の行使で堅持する重大な課業」だとし、「強硬な政治・軍事的立場」を明らかにした。これについて統一部当局者は15日、「事案の重要性をそれだけ浮き彫りにする側面」と「ある程度状況を管理しようとする意図」が同時に含まれていると分析した。
金総書記が前面に乗り出したのは、平壌ドローン事態が重大な局面に立ったことを示す。北朝鮮が「攻撃の時期は我々が決めるものではない」と繰り返し言及してきたことから、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の対応基調がこれからの事態の展開を左右する要因となる見通しだ。軍事衝突を避けるためには、平壌ドローン事態の再発防止が何より重要だと指摘されているのもそのためだ。
金総書記は、2012年の政権獲得後、南北軍事衝突の危機の時に前面に出た前例がある。一部脱北民団体の対北朝鮮ビラ散布を口実に、北朝鮮側が2020年6月16日、開城(ケソン)南北共同連絡事務所の建物を爆破し緊張が高まった時、金総書記は労働党中央軍事委第7期第5回予備会議を招集し「対南軍事行動計画の保留」を決めた。
2015年8月4日の軍事境界線(MDL)以南の非武装地帯「木箱地雷」爆発事件と、8月20日の韓国側の対北朝鮮拡声器を狙った人民軍の砲撃では、党中央軍事委非常拡大会議を開き「準戦時状態宣言」を命令した。当時は北朝鮮側の提案で8月22~24日に南北ハイレベル接触が実現し、事態を劇的に安定させた。
しかし今回が、金総書記の登場後に軍事衝突の危機を乗り越えた2015年8月と2020年6月の先例に沿うとは期待しがたい。首脳会談を3回行った文在寅(ムン・ジェイン)政権や、神経戦を繰り広げるなかでも対話をした朴槿恵(パク・クネ)政権とは違い、尹錫悦政権は北朝鮮を「主敵」とし「力による平和」を掲げている。金総書記も韓国側を「不変の主敵」であり「植民地・老僕(奴隷)国家」と蔑んでおり、接点を見出すのは難しい見込みだ。