大統領室のシン・ウォンシク安保室長が13日の韓国放送(KBS)のインタビューで、「北朝鮮が自殺を決心しない限り、戦争は起こせない」と発言したことについて、強い批判の声があがっている。大統領の安保分野の最高位級参謀が、北朝鮮には「戦争はできないだろう」と断定するのは、それそのものが重大な「対外メッセージ」になるうえ、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長を刺激すれば、北朝鮮が局地的な挑発に打って出るなど、レッドラインを越えてくる可能性も生じうるからだ。
このところ韓国政府は、金正恩委員長を意識したメッセージを連日発している。朝鮮労働党中央委員会のキム・ヨジョン副部長が、韓国が北に無人機(ドローン)を送ってきたと主張したことについて、国防部は13日、「金正恩一家の偽りの独裁政権に疲れている北朝鮮住民の敵意を利用しようと狙ったものに過ぎない」と主張した。9日には、北朝鮮が南北をつなぐ陸路を完全に断絶し、要塞化工事を行うことを宣言したことについて、合同参謀本部が「北朝鮮の今回の遮断および封鎖云々(うんぬん)は、失敗した金正恩政権の不安から生じた窮余の策に過ぎず、今後さらに苛酷な孤立を招くだろう」と述べている。シン室長はさらに踏み込んで、「北朝鮮は今月1日の(韓国の)『国軍の日』記念式典以降、前例のない過敏な反応を示している。その直前、イスラエルのバンカーバスター(地下に潜り込んで爆発する爆弾)によってヒズボラの首長が殺されたが、(国軍の日に公開された)超威力ミサイル『玄武-5』は10倍以上の威力があり、金正恩は肝を冷やしたことだろう」とし、金委員長は戦争を選択しないだろうと断言した。
専門家は、政府のこのようなメッセージはむしろ北朝鮮に反発の余地を与える行為だと指摘する。統一研究院のホン・ミン北朝鮮研究室長は、「北朝鮮の立場からすると、最高尊厳のいる上空で挑発されたのだ。休戦協定違反と考えるのは当然のことであり、北朝鮮の立場からすると非常にかっとならざるを得ない」とし、「金正恩に対して一種の、やや政権冒とく的な観点からそのよう言い続けるのは、北朝鮮の反発の余地を大きくするもの」だと分析した。慶南大学極東問題研究所のイム・ウルチュル教授は、「北朝鮮は金正恩を死守するためなら、あらゆる手段と方法を動員しうる。その手段の一つこそまさに戦争」だとし、「しかも北朝鮮は核を持っているだけに、彼らを刺激するメッセージを発し続け、日増しに対応を強硬にするのは非常に危険な選択」だと指摘した。
南北の軍事的緊張が限界を越えれば、北朝鮮が予期せぬ軍事的行為に打って出る可能性もある、との観測も示されている。北韓大学院大学のヤン・ムジン教授は、「政府は緻密なファクトをもって戦略的分析とアプローチ法を示すべきだが、言葉の爆弾ばかりをやりとりしている」とし、「このままでは偶発的な衝突や紛争の拡大がいつでも起こりうる」と述べた。ホン・ミン室長も「北朝鮮もある面では紛争が拡大しないようにし続けてきたが、このような状況になれば結局のところ紛争拡大を選択する可能性が高まる」と懸念を示した。
専門家たちは、政府に必要なのは強硬な言葉の爆弾のやりとりではなく「緻密な状況管理」だと口をそろえる。ヤン・ムジン教授は「現在、韓国は国の品格や国際的地位において北朝鮮とは比較できない国となっている。にもかかわらず北朝鮮と同レベルのメッセージを発するのは、国の品格だけでなく戦略的なレベルでも賢明でない選択だ。韓国に必要なのは節制」だと述べた。