「私とバイデン大統領は今後、韓米同盟がサイバーと宇宙領域に拡張できるよう、韓米相互防衛条約をサイバーと宇宙空間に適用するための議論も開始することにしました」
昨年4月27日、米ワシントンで開かれた韓米首脳会談後の共同記者会見で、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領はこのように述べた。当時、韓国国内では韓米間の拡大抑止の強化と「ワシントン宣言」に関心が集まり、尹大統領のこの発言はあまり注目されなかった。
尹大統領の言及以後、韓米同盟が陸上・海上・空中を越えて多領域に拡張し始めた。6月27~29日、朝鮮半島周辺の済州南方の公海で、史上初の多領域韓米日訓練「フリーダムエッジ」が実施された。多領域訓練は「多領域作戦」(Multi-Domain Operations)の概念を反映した訓練だ。
多領域作戦は言葉の意味からして曖昧だ。
「多領域作戦」は、戦場の領域が従来の地上・海上・空中に加え、宇宙・サイバー・電磁気まで拡張されたという意味だ。作戦の範囲も紛争が発生した特定地域に限らず、全世界に拡張される。
「多領域作戦」は米陸軍の概念であり戦闘教義だ。米陸軍は2018年に多領域作戦を未来陸軍の作戦概念として発表し、2022年には基本となる作戦概念を統合地上作戦から多領域作戦に変更した。
フリーダムエッジでは、海上ミサイル防御訓練、対潜水艦訓練、防空戦訓練、空中訓練、捜索および救助訓練、海洋遮断訓練、サイバー防御訓練など、計7つの訓練を行った。特にサイバー防御訓練を行ったことで、今回の訓練が初めての多領域訓練になった。
韓米日はなぜ多領域訓練を行うのだろうか。
韓国合同参謀本部は「3カ国は今回の訓練を通じて相互運用性を向上させ、高度化する北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対する抑止および対応能力を向上させた」として、フリーダムエッジの意味を評価した。高まる北朝鮮の核・ミサイルの脅威に備えて訓練を実施したという話だ。合同参謀本部は「韓米日は今回の訓練を機にフリーダムエッジを引き続き拡大していくことにした」と説明した。
米国の多領域作戦は脅威の主体を2+3(ロシア・中国+イラン・北朝鮮・過激派勢力)に設定しているが、主に2(ロシア・中国)に焦点が当てられている。作戦のレベルでは中国の「接近阻止・領域拒否」(Anti-Access Area Denial)の戦略を無力化することが中心となる。「接近阻止・領域拒否」の主軸は、米空母戦団の中国接近を拒否し(接近阻止)、たとえ米空母戦団が中国近海に接近しても粘り強い消耗戦を通じて自ら退かせるということ(領域拒否)だ。
初のフリーダムエッジの訓練場所は済州南方の公海(東シナ海)だった。ここは山東省青島が母港である中国北海艦隊と浙江省寧波が母港である中国東海艦隊が太平洋へ出る道だ。韓米日初の多領域訓練が、中国の太平洋進出を阻む戦略的要衝地で実施されたのだ。韓国は北朝鮮の核・ミサイルの脅威に備えるというが、米国主導の多領域作戦に参加すれば、中国に対する圧迫と牽制に加わる負担も負わなければならない。
韓国にとって安保の脅威は北朝鮮であり、中国の軍事的脅威は北朝鮮の脅威から派生する2次的で潜在的な脅威だ。中国を直接的な脅威に設定した米国主導の多領域作戦遂行に韓国軍が参加することは、高度の政治的判断を必要とする敏感な問題だ。
米国は多領域作戦を同盟レベルの作戦概念に広げている。先月27日、合同参謀本部は報道資料を通じて「フリーダムエッジは韓米日が3カ国間の相互運用性を増進させ、朝鮮半島を含むインド太平洋地域の平和と安定のために自由を守護していくという意志を込めた訓練」だと説明した。これについて、フリーダムエッジを通じて北朝鮮の脅威と侵略の抑制を中心とする韓米連合作戦を、インド太平洋地域に拡大したという解釈が出てきた。また、米国が相互運用性を向上させるため、従来のように北朝鮮を敵として想定する訓練とは異なる中国とロシアを敵対国と仮定した訓練に韓国の参加を要求する可能性もあるという予想も出た。今回のフリーダムエッジがこのような要求の第一歩という見方もある。
米軍は有事の際に朝鮮半島で多領域作戦を遂行するという予想のもと、韓国軍も2018年以降は多領域作戦を分析・研究してきた。韓国軍の多領域作戦と米軍の多領域作戦には大きな違いがある。米軍の多領域作戦は中国を脅威として設定し、具体的な作戦遂行方法を提示している一方、韓国軍の多領域作戦はさまざまな領域の力を同時に統合する戦力運用の基本概念として捉えている。米軍は拡張された空間と多領域で優位を占める能力の確保に重点を置いているが、韓国軍は朝鮮半島で空中優勢と海上優勢のような伝統的な戦場をより重要視している。
韓国軍内部では、韓国軍が韓米連合作戦を遂行するには米軍の多領域作戦をよく知る必要があるが、多領域作戦を教義として受け入れるかどうかについては慎重な判断が必要だという意見もある。過去、韓国軍が空地統合戦(エアランドバトル)など米軍の戦闘教義をそのまま導入し、混乱に陥ったことがあるからだ。
「多領域作戦」のような不慣れな概念は、性急に適用する前に、韓国軍の状況に合うかどうか徹底的に検証すべきだった。韓国が直面している脅威を明確に規定し、脅威に対応する作戦術レベルの構想として多領域作戦が妥当かどうかを検討すべきだった。これを受け入れる場合は、韓国の安保環境と能力に合う多領域作戦の概念と教義を別途発展させなければならない。英国とフランスは米軍の多領域作戦の概念を自国の観点から再解釈し、新たな用語と概念として示している。
ところが昨年4月の韓米首脳会談で、尹大統領は何の質問も追及もなく、米軍の多領域作戦の概念をすんなり受け入れた。以後、多領域作戦が韓米同盟と韓国軍の中に突然入ってきて、先月27~29日には初めての多領域訓練であるフリーダムエッジまで行われた。「何もかも米軍と同じように」を目指した冷戦時代の韓国の姿勢は、尹錫悦政権の掲げる「グローバル中枢国家」のビジョンにもそぐわない。