10年以上前に移民した友人が韓国を訪れた。異国の地で故郷に思いを馳せていた友人だが、韓国の変わり様に驚いたそうだ。何よりも人々があまりにも変わってしまったと語った。誰に会っても、どこに行っても、どんな話をしても、結局「お金」が結論であることが苦々しいと話した。確かに多くの資本主義国が似たような傾向を示しているが、韓国ほど「お金」が絶対的な基準であり目的になった国も珍しい。例えば、2021年に発表されたピュー・リサーチ・センターの調査によると、先進17カ国のうち、人生の意味として物質的な豊かさを第1位に挙げた国は韓国が唯一だった。その上、他の国々は人生の意味として家族や健康、友人、価値、宗教、社会などを複数回答した一方、特に韓国は物質的な豊かさだけを単数で答えた。このように、皆がお金に対する欲望とこれによる不安にもがく社会、それが現在の韓国の素顔だ。
生存のためにお金がどれほど重要なのか…
ふと友人が北朝鮮の人々はどうかと聞いた。社会主義を標榜してきた北朝鮮だから、人々は少なくとも「お金」が最優先ではないだろうと考えたようだ。経済的に立ち遅れているが、相対的に競争が少ない北朝鮮には、韓国が失った共同体と社会的価値などが生きているのではという質問でもあった。これは相対的優位にある韓国社会が北朝鮮を「貧しくても、情けが深い社会」としてロマン化する傾向を示すものでもある。
生きるために「物質的安定」を追求
南北関係、多様な価値が調和しなければ
実際、「北朝鮮の人々が物質主義的なのか」という問いは、多面的な解釈を求める。この質問が、生存のための物的資源を蓄積することにすべてのエネルギーを注ぎ込むのかを問うものならば、北朝鮮住民は物質主義的だと言えるだろう。権威主義的な政治システムと緻密な計画経済の隙間に自生的な市場を自らの手で築き上げたも同然の北朝鮮住民は、「お金」を稼ぐためなら何でもできる、生きるためにはそうしなければならないからだ。約70年間にわたり世界の覇権国である米国と対峙しながらも、最悪の食糧難に見舞われながらも、類を見ない全面的な国際制裁の局面でも北朝鮮が耐え抜いた背景に、自ら生活問題を解決してきた住民の力があったのは反論できない事実だ。それだけ生存のために「お金」がどれほど重要なのかを痛感したのが北朝鮮の人々だ。
しかし、「お金」で自分のアイデンティティと人生の意味を全面的に構成することを物質主義と定義するならば、北朝鮮住民は韓国の人々とは全く違う姿を見せたりもする。「お金」を稼ぐために何でもするが、逆にお金「だけ」を人生の基準にはしないという意味だ。一例として、2015年に中国に居住している北朝鮮住民を対象に北朝鮮住民の物質主義性向を調査したヤン・ムンスの研究は、北朝鮮住民が物質的所有を幸福と捉える傾向が高い一方、物質的所有を成功の基準とはみなしていないことを明らかにした。つまり、北朝鮮住民にとって「お金」はあまりにも重要なものだが、同時に「お金」だけを追従する物神主義的な行動には否定的だ。
北朝鮮住民の物質主義的価値観は、経済的生存と最小限の安全が脆弱な環境と深い関連性がある。かつて政治学者ロナルド・イングルハートが西欧社会の価値観の変化を物質主義から脱物質主義への転換として説明し、このような意識の転換を促した社会経済的条件として、1950~70年の間に現れたこれまでにないほどの物質的安定と身体的安全に注目したことは参照に値する。イングルハートは物質的安定と身体的安全が脅かされる社会で、脱物質主義的価値(民主主義、自由と平等、人権と生態など)は政治的アジェンダになりにくい一方、脱物質主義的価値観の転換を迎えた西欧社会では、生存と安全問題を越えた多様な社会的イシューが政治アジェンダに浮上したことを経験的に証明した。イングルハートの分析の枠組みを適用してみると、物質的生存と安全が脅かされている北朝鮮住民は、物質主義的価値観に埋没するしかないという結論に至る。北朝鮮の体制に向けた住民の民主化要求がなかなか現れない理由は、単に暴力的検閲と統制を日常的に行う体制のもとにあることだけではなく、住民の大半がそれぞれ物質的安定に集中しているためという解釈が可能な理由でもある。
不安な韓国人…セーフティネットの拡大が急がれる
北朝鮮の体制が適切に活用する外部の脅威に対する恐怖も、住民が生存と国家主義にしがみつくようになった理由でもある。戦争の危機を活用して全国家の兵営化を成し遂げた北朝鮮で、住民たちは当面の身体的安全を守ることに没頭してきた。このような状況で政治的参加や民主的価値が重要なイシューとして浮上することは事実上不可能に近く、これは従来の伝統的価値(国家、慣習、家族主義)が持続する結果をもたらす。
むしろ興味深いのは、物質主義と脱物質主義の間で道に迷ってしまった韓国住民の価値観だ。客観的指標においてはかなりの経済発展を遂げたように見えるが、依然として高い水準の物質主義的性向を示しているからだ。イングルハートの理論的枠組みを発展させたイングルハートとクリスチャン・ウェルゼルの「2023文化地図」(The Inglehart-Welzel World Cultural Map 2023)によると、韓国は発展した西欧国家より遥かに生存主義的な傾向を示している。物質的生存に対する高い不安により、ジェンダーや環境、自由、人権のような脱物質的イシューが政治的アジェンダになるどころか、社会的共鳴を作り出せない理由がここにある。総選挙まであと1カ月という状況で、一時はかなりの影響力を持っていた脱物質的な政治的アジェンダが完全に消えたのも、このような脈絡で解釈できる。
このように違いのある南北の物質主義的価値観を乗り越えるためには、それぞれ異なる解決策が求められる。北朝鮮の場合には、基本的水準の物質的安定と身体的安全が保障されることが急がれる。食べていけるほどの経済的水準と戦争や暴力のない社会環境を作らなければならないという意味だ。一方、韓国はセーフティネットを拡大して物質的生存に対する不安を解消しなければならない。「お金」が人生の唯一の目標という物神主義的態度を打破するための社会的世論作りと、教育の介入も重要だろう。
南北がいつか再び会うことになった時、「お金」はおそらく重要な契機になるだろう。だが、お金「だけ」を追従することは結局対立と分裂、不安感と挫折感を呼び起こす。「お金」を越えた多様な価値が社会的な力として備わらない限り、南北関係の質的変化と持続可能な平和は期待できないという意味だ。南北いずれも「別々の道を歩もう」という声が高まっている今こそが、しばし息を整えてそれぞれの根源的問題に向き合う時間だ。それこそが、不可能に見える平和を可能にする唯一の方法だ。