昨年末に開催された北朝鮮の労働党中央委員会第8期第9回全員会議の結果は、韓国で多くの論議を呼んでいる。金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が読みあげた決定書の内容のうち、最も大きな関心を引くものを二つあげると、「南北関係の再確立」と「韓国全領土の平定」だろう。彼は南北関係について「もはや同族関係、同質関係ではなく、敵対的な二つの国家の関係、戦争中の二つの交戦国の関係として完全に固まった」と評した。また「有事の際、核武力を含むあらゆる物理的手段と力量を動員し、南朝鮮の全領土を平定するための大事変の準備に拍車をかけ続けて」いかなければならないと述べた。
事実上交戦中の二つの国
現在の南北対決の状況と、今後さらに悪化する可能性に照らしたとき、実質的に何が変化したのかと問うこともできる。平和協定はさておくとしても、終戦宣言すらできずにいる南北は、70年以上にわたって事実上交戦中の二つの国だった。北朝鮮が全面戦争挑発を強行した際の、北朝鮮地域に対する韓米連合作戦計画上の反撃および北朝鮮占領計画、韓国政府の戦時「回復地域」に対する「自由化」(統治)計画に対して、北朝鮮も似たようなやり方で対応するというのは、ある意味当然だ。
平和と統一を目指す韓国の「一部の」国民にとっておそらくより大きな衝撃だったのは、北朝鮮の統一政策が根本的に変化したという宣言と、その後続措置だろう。金正恩委員長は、韓国がもはや平和的統一の相手とはなりえないことを、政権崩壊論と吸収統一論、主敵論、憲法の領土条項、対米依存、攻撃的な軍事訓練の実施などを根拠に表明した。韓国の歴代政権の対北朝鮮政策に何ら根本的な違いはなかった、とも指摘した。具体的な措置として、対南事業に関連するすべての組織と機関の閉鎖を指示した。
金委員長は15日に開催された最高人民会議の施政演説によって、対南政策を憲法に明記させた。韓国を「不変の主敵」と規定し、金日成(キム・イルソン)時代に作られた自主、平和、民族大団結という統一三原則を削除し、祖国平和統一委員会などの対南機関を廃止し、さらには「三千里錦繍江山」、「8千万同胞」などの表現すらも禁止した。
しかし、このような措置も、南北関係の現実においては実質的な変化(悪化)へとつながるようには思われない。すでに文在寅(ムン・ジェイン)政権の後半期から南北の交流と協力は中断されており、どの統一関連の組織や機関も南北共に廃業または「開店休業」状態にあり、今後も当面は業務を再開する可能性が希薄だからだ。要するに、行きつくところまで行きついた南北関係は、もはやこれ以上悪くはなり得ないところまできてしまったということだ。
戦争の危機も続いている。新年最初の3週間の軍事的状況は、昨年と比べてもさらに悪化している。今月2日からの2日間、韓国陸軍は様々な戦闘部隊と火砲を動員した砲撃および機動訓練を実施し、南海(ナムヘ)上では海上砲撃訓練が米空軍の偵察飛行と共に行われた。定例の訓練だが規模が拡大しており、韓米合同で実施された。冬季訓練中の北朝鮮は、対応を名目に今月5日に西海(ソヘ)の北方限界線付近に400発あまりの砲弾を発射したため、西海5島の住民は避難し、韓国軍の対応、北朝鮮軍の再対応砲撃と続いた。
今月14日に北朝鮮は「新型多段階高出力固体燃料推進系の中長距離級極超音速ミサイル」の発射実験を実施した。翌日にはチェ・ソンヒ外相がロシアを訪問してセルゲイ・ラブロフ外相と会談後、ウラジーミル・プーチン大統領とも会談した。クレムリンは「北朝鮮と『センシティブな分野』を含むあらゆる関係を発展」させることで合意したと発表した。センシティブな分野とは、間違いなく軍事安保協力だろう。今月15日から17日にかけて、韓米日3カ国は済州島南方の公海上で海上合同訓練を実施した。韓国海軍と日本の海上自衛隊がそれぞれ2隻のイージス級駆逐艦を、米海軍が原子力空母を含む5隻を動員するという、異例の大規模なものだった。
強硬派の国防長官が「冷静対応」訴え
では、朝鮮半島で戦争が起きる可能性は高いのか。シン・ウォンシク国防部長官は16日の韓国放送(KBS)ラジオとのインタビューで、「朝鮮半島で戦争が起こり得る」という米国の一部の専門家の主張について、「行き過ぎた誇張」だと評した。最近の北朝鮮の敵対的な対南発言についても「ほえる犬はかまない」と述べつつ、北朝鮮の威嚇や恐喝などの心理戦に飲まれることなく、冷静に状況を見るべきだと語った。心強い韓米同盟もあるのだから、国民は安心してもよいという言葉も欠かさなかった。かつてないほどの強硬派である国防長官が冷静を語ることに多少驚かされはしたものの、何だか、数学問題を間違った方法で解いたのに答えは当っている、という感じだ。問題は、彼が普段から唱えてきた通り、北朝鮮の「挑発」に「即時に、強力に、最後まで」対応してしまったら、誰もその結果を予測できない、というところにある。ほえる犬も攻撃されればかむこともありうるし、この聞くに忍びない比喩が南北共に当てはまりうるからだ。
北朝鮮の党中央委員会全員会議の決定によって対南政策路線に大きな変化が生じたこと、それ自体を否定するのは難しい。決定書の他の部分を見ると、北朝鮮の昨年1年間の経済分野の成果に対する自負と未来に対する自信があふれている。それを土台として国防、経済、外交などの分野で堂々たる「正常国家」へと発展していくという決意が見える。南北関係と対南政策も、これまでの経験に照らすともはや希望はないと判断し、二つの国家の関係であると「きれいさっぱり」整理したと考えられる。
それにあまりにも安易に対処したり、過度に対応したりしてはならないだろうが、絶望する必要もない。天の下に新しいものはないが、永遠なるものはなおさらない。冷静に見れば、北朝鮮の行動は対応という性格が強く、政策は「条件にもとづいた転換」が多い。核武装については、それ以前の40年間にわたって韓国に戦術核が配備されていたことと、米国の北朝鮮敵対政策を同時に考えなければならない。ミサイル発射実験と訓練は、韓米連合作戦計画と果てしなく拡大強化される合同訓練への対応として、同意はできないが理解はできる。最近の対南政策の変化と暴言も、現在の韓国の対北朝鮮政策は変わらない、または変わりえないだろう、という前提が背景となっている。
したがって、北朝鮮の対南政策の変化を真剣に考慮しつつ、より確固たる「平和な二つの国家の関係」を作っていくことこそ、韓国の政府と国民だけでなく民族全体のために当然なすべきことだ。いわゆる「進歩(革新)」が政権を握れば北朝鮮の否定的な評価が覆されるよう、本質的な問題を実質的に解決しなければならないだろう。望みの薄い注文かも知れないが、これまで韓米同盟の下での軍事主権問題や制裁下での南北交流協力問題などにおいて過度に「票」に縛られたり、米国の「顔色」をうかがたりしていなかったかを振り返り、果敢に実践していくべきだ。南北関係は、北朝鮮がどのように規定しようが、韓国は「統一の過程で暫定的に形成された特殊関係」として、「隙なく」発展させていかなければならない。
ムン・ジャンリョル|元国防大学教授