19日に始まった専攻医の集団辞職により発生した医療の空白は、医療システムの貧弱さを示している。指摘され続けてきた専攻医(インターン、レジデント)に対する上級総合病院の過度な依存、公共医療システムの貧弱さなどが、保健医療危機で一気に水面上に浮がび上がったのだ。
このような中、インターン契約を控えた医学部卒業生の任用放棄の事例が続出しているうえ、専任医や一部の教授なども集団行動に打って出る可能性をほのめかしていることから、医療システムの混乱はさらに拡大する見通しだ。大統領室は2千人という増員規模について、「必要な人員」だとして既存の立場にこだわっている。
25日の保健福祉部の説明によると、22日午後10時現在、94の研修病院に所属する8897人(78.5%)の専攻医が辞表を提出し、7863人(69.4%)が勤務地を離脱した。彼らの去ったいわゆる「5大」(サムスンソウル、ソウル大学、ソウル聖母、ソウル峨山、セブランス)病院は、手術を普段より30~50%減らすなど、手術と診療機能を大幅に縮小している。専攻医の80%以上が医療現場を離脱して1カ月近く診療を拒否し医療の空白が広がった2020年と類似している。
専攻医の集団行動の度に医療の空白が発生するのは、何よりも大病院が診療機能のかなりの部分を相対的に低賃金で長時間働く専攻医に依存しているからだ。昨年12月の時点で「5大病院」の医師に占める専攻医の割合は39%だった。彼らは病棟や集中治療室の当直、手術補助、手術前後の患者の管理など、病院の中心的な業務に投入されており、医療現場において「毛細血管」役を果たしている。
大韓専攻医協議会(大専協)が実施したアンケート調査によると、52%が「4週間平均で週80時間以上勤務したこと」があると答えている。法定最大労働時間(80時間)が守られないのが日常茶飯事となっているわけだ。保健社会研究院の保健医療人材実態調査によると、2020年のインターンの年俸は6882万ウォン、レジデントは7280万ウォンで、専任医(2億3690万ウォン)の3分の1の水準だった。
これについては、病院の人材構成を専門医中心のものへと変えるべきだとの指摘が医療界の内外からなされている。専攻医の勤務時間を減らして教育や研修に集中させるとともに、病院は勤務医や教授などの専門医を増員して当直や病棟管理などを彼らに任せるべきだ、との主張だ。
しかし、専門医の増員には莫大な費用がかかるとの理由で、病院の協力は遅々として進んでいない。順天郷大学富川(プチョン)病院のキム・ホジュン教授(救急医学科)はハンギョレの取材に、「大学病院は専門医の数が十分でないため、専攻医が抜けたという理由で診療に支障が生じる」とし、「すでにあらわになっている問題だが、解決されていない」と指摘した。
専攻医の離脱に対する政府の非常診療対応策は、むしろ公共病院の拡大の必要性と貧弱な2次病院(中規模の総合病院)の実態を示している。政府は23日に医療災害警報レベルを「深刻」へと引き上げた際に、公共病院の診療時間を最大限延長するとともに12の軍病院の救急室を開放したが、公共病院は医療機関の5%に過ぎず、病床数では約10%にとどまる。
全国保健医療産業労働組合を含む40あまりの市民団体の集合体「良い公共病院作り運動本部」は声明で、「公共病院に『非常診療』役を果たす余力がないのは、政府が無責任にも放置してきたため」だとし、「尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は『経済性』を理由に公共病院の拡充を阻んできた」と述べた。大病院の軽症患者を2次病院に分散させるというやり方も同様だ。一部の2次病院は腫瘍の除去、外傷の縫合などの比較的簡単な手術もできないため、患者は複数の病院に行かなければならない。
看護師と医師の業務範囲の調整も、今回の事態の起こる前に解決されているべき課題だった。医師の人手不足のため、現在1万人あまりのPA(診療補助)看護師が活動していることが知られている。彼らは手術、処置、処方、患者の同意書の作成など、専攻医と似たような仕事をしているが、現行の医療法上、看護師が医師の指導なしに単独で診療行為をすることはできない。
政府は、PA看護師を活用して専攻医の空白を埋めるとの方針を明らかにしている。しかし、医療法の改正などを通じて業務を制度化すべきとの看護師たちの声は無視され続けているため、現場は合法と違法とのはざまに立たされている。専攻医がおこなっていた業務を担当して医療事故などが発生すれば、賠償はもちろん、処罰の危険性もある。
保健福祉部が打ち出した「必須医療パッケージ」は、このような貧弱な医療システムの明確な解決策を提示できていない。専攻医の業務負担の軽減のために36時間連続勤務を縮小するモデル事業や、国立大学病院の必須医療専任教授の増員などの対策は、財源調達をはじめ政策の具体性が欠けると指摘されている。国立大学病院ではなく民間の医療機関で教授や勤務医を増やすという方法も、明確ではない。地方医療院などの公共病院の強化策はまったく示されていない。
これこそ、医師と政府との対決の解決策を探ると共に、各医療機関が本来の役割を果たせるように補完策を立てるべきだと専門家に指摘されている背景だ。仁川市(インチョンシ)医療院のチョ・スンヨン院長は、「上級総合病院の教授は重症患者の入院診療に集中させるとともに、専攻医が専門医の資格の取得後に様々な病院で役割を果たせるよう、2次病院や3次病院(上級総合病院)でまんべんなく研修を受けさせる共同研修制度が必要だ」と述べた。
一方、大統領室のキム・スギョン報道官は25日のソウル龍山(ヨンサン)の大統領室でのブリーフィングで、「(増員される)2千人は本当に譲歩に譲歩を重ねた最小限のもの」だとし、「どこの国でも医学部の増員をめぐって医師が患者の命を人質にして集団で辞表を出したり、医学部生が集団で休学届を出したりするなどの極端な行動を取ることはない」と述べ、従来の立場を守った。また政府は「医師集団行動対応のための中央災害安全対策本部」の会議を行い、検察・警察の協力体制を構築するとともに、医師の集団行動をめぐる法律問題についての助言のために福祉部に検事を派遣することを決めた。
医療現場では人材の離脱がさらに拡大する兆しを見せている。大田(テジョン)の忠南大学病院で60人のインターン全員が任用放棄書を提出するなど、3月初めに任用が予定されているインターンのかなりの数が医学部の増員に反発し、任用放棄の意思を明らかにしている。1年単位で病院との契約を更新する専任医についても、業務の負担の重さや専攻医の集団行動への同調などを理由として再契約しない可能性が予想される。延世大学医学部教授評議会は24日に発表した声明で、「教え子たちに対する不当な処罰が現実化すれば、(教授も)絶対に座視することはないだろう」と述べている。
一方、ソウル大学医学部教授協議会のチョン・ジンヘン非常対策委員長(盆唐ソウル大学病院病理科教授)はSNSで、「(政府との)理性的な対話を通じて最適な結論を導き出すことができると確信するようになった」と述べ、複数の教授に政府と医療界との仲裁にあたる意思があることを明らかにした。