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正義の使徒だったのに責任回避…卑怯な「検事政治家」=韓国

登録:2024-02-05 01:22 修正:2024-05-20 11:30
ソン・ハニョン先任記者の「政治舞台裏」 
 
ハン・ドンフン「最高裁の依頼で捜査」 
尹大統領、朴槿恵に会い「面目ない」 
選挙を前に国政壟断捜査を否定 
検事が大量出馬…「悪いロールモデル」ばかり
2019年2月11日、ソウル中央地検のハン・ドンフン第3次長検事(左から3人目)がソウル中央地検で、ヤン・スンテ元最高裁長官とパク・ピョンデ、コ・ヨンハン元最高裁判事を職権乱用、権利行使妨害などの容疑で起訴したことを発表している=パク・チョンシク記者//ハンギョレ新聞社

 1月26日、ソウル中央地裁刑事合議35-1部(イ・ジョンミン裁判長)が「司法壟断」容疑で起訴されたヤン・スンテ元最高裁長官、パク・ピョンデ元最高裁判事、コ・ヨンハン元最高裁判事に無罪を言い渡しました。

 判決後、参与連帯は「裁判所の『身内かばい』判決の頂点として、司法の歴史に恥として記録されるだろう」と批判しました。ソウル中央地検は「一審判決の事実認定と法理判断を綿密に分析し、控訴するかどうかを決める予定」だと原則論的な立場を表明するにとどまりました。

 検察が控訴すれば二審が始まるでしょう。控訴審の結果に対して検察や被告人が上告すれば、最高裁で最終的に有罪か無罪かを決めなければならないでしょう。

司法壟断捜査の主体

 今回の判決に対するメディアの見方も大きく分かれました。翌日の朝刊のこの問題に関する社説のタイトルは次のとおりです。

「『司法壟断』ヤン・スンテ一審無罪…結局、検察の無理な捜査だったのか」(東亜日報)

「文在寅(ムン・ジェイン)キム・ミョンスが書いた『司法壟断』小説、この途方もない責任、どう取るのか」(朝鮮日報)

「5年にわたり国を揺さぶった無理なヤン・スンテ捜査」(中央日報)

「『司法壟断』ヤン・スンテの47の容疑にすべて無罪を言い渡した『身内裁判』」(ハンギョレ新聞)

「『司法壟断』の頂点ヤン・スンテ一審無罪…国民の法感情が納得するか」(韓国日報)

 東亜日報と中央日報は検察の捜査が無理やりなものだったと指摘しました。ハンギョレと韓国日報は「一審判決は裁判所の身びいきではないか」と疑問を呈しました。

 特異なのは朝鮮日報の社説です。司法壟断容疑を「小説」(作り話)と断定し、その責任を検察の捜査ではなく文在寅大統領とキム・ミョンス最高裁長官(当時)に問うています。検察の捜査については、社説の本文に「その後、キム・ミョンス司法府は裁判所内部の資料を検察に丸ごと渡し、検察は尹錫悦(ユン・ソクヨル)ソウル中央地検長とハン・ドンフン第3次長(いずれも当時)の指揮の下に50人あまりの検事を動員し、5カ月間にわたりしらみつぶしに捜査した」と出てくるに過ぎません。尹錫悦ソウル中央地検長とハン・ドンフン第3次長は文在寅大統領とキム・ミョンス最高裁長官に言われたとおりに動いた手下に過ぎない、というような珍妙な論理です。

 国政壟断の捜査を指揮し起訴した当事者として、尹錫悦大統領や「国民の力」のハン・ドンフン非常対策委員長は今回の判決をどのように考えているのでしょうか。尹錫悦大統領と龍山(ヨンサン)の大統領室は口を固く閉ざしています。ハン・ドンフン委員長は1月29日の出勤途上、記者に問われてこう答えました。

 「あの事件は事実上、最高裁判所の捜査依頼で進められた事件だった。まだ途中の段階にある進行状況について、捜査に関与したものの職を離れた人間が申し上げるのは適切ではないと思う。いろいろ考えるべき点があった事案であり、後に様々な評価があるだろうと思う」

 これはどういう意味でしょうか。第1に、捜査の性格を「事実上、最高裁が捜査を依頼したもの」と規定しています。第2に、今は検事ではないとの理由で判決について評価をしていません。回答を避けたのです。5年前に司法壟断の捜査を発表した時とはまったく異なる態度です。

「国民が判断すべきこと」堂々とした態度はどこへ

 ハン・ドンフン委員長は2019年2月11日、ソウル中央地検の庁舎で、捜査チーム長として記者団の前に立ちました。特捜の第1部長から第4部長までを後ろに立たせての会見でした。写真を見るととても鋭い目つきをしています。発表した内容は次の通りです。

 「2017年3月、判事ブラックリストに関する報道で、裁判所事務総局(行政処)による司法行政権の乱用について国民的疑惑が提起された。以後、3回にわたる最高裁の自主調査で確認された410件の問題文書の公開などの過程があり、その間に検察に告発がなされるなど、真相の調査を求める国民の声が高まった。検察は2018年6月の最高裁の捜査協力発表後、ソウル中央地検特捜部を事件の担当とし、捜査に着手した。2018年10月27日にイム・ジョンホン元裁判所事務総局次長を、2019年1月24日にヤン・スンテ元最高裁長官を拘束のうえ捜査した。捜査の結果、ヤン元最高裁長官は日帝強制徴用損害賠償事件の裁判への介入、裁判官人事で不利益を与える措置、裁判官の不正の隠ぺいなどの事件に関して職権乱用、公務上秘密漏えい、虚偽公文書作成および行使、職務遺棄、特定犯罪加重処罰に関する法律違反などで拘束起訴し…」

 そして記者たちと次のようなやりとりをしました。

-検察も重要な事件を捜査する際には首脳部が捜査の方向性を定めるが、裁判所は各裁判官が独立しているから一切許されないのか。

 「司法システムは手続きと内容が直結しているため、方向性や内容に介入するのは違法だ。」

-このかん判事たちとは摩擦もあったが、感想を聞きたい。

 「法と常識に則った最終的な結果が出ることが重要だ」

-大規模な捜査だったが、今回の捜査の意義は。

 「意義は国民のみなさまが判断なさるだろう」

 このように堂々として自信に満ちていたハン・ドンフン検事が、5年後に裁判所が無罪を宣告すると、弁解して返答を避けたのです。捜査と起訴の当時の堂々とした態度と自信がハン・ドンフン検事本来の姿であるなら、今回の無罪判決を批判するか、あるいはむしろ検察の捜査と起訴が誤りであったことを認め、潔く謝罪すべきだと思います。身分が変わったからといって、立場が変わったからといって、卑怯(ひきょう)な姿を見せてもよいのでしょうか。

 ハンギョレ新聞は1月31日付の「『司法壟断』捜査が『請負捜査』だったというのか」と題する社説で、ハン・ドンフン委員長を批判しました。「検事は起訴状で語り、判事は判決文で語る」という法曹界の金言があります。捜査結果を記した起訴状は検事の顔です。検事は裁判官と同様に、難関を突破した法曹エリートです。そのような検事が自らの起訴状を丸ごと否定した判決について回答を避けるというようなことが、果たして正しい態度なのでしょうか。

パク・ヨンス特別検事(中央)が2017年3月6日午後、ソウル江南区大峙洞の特検チーム事務所にある記者室で、特検補とともに捜査結果を発表している。左端が尹錫悦捜査チーム長=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

検事が政治中毒になっている

 私はハン委員長と似たような姿を尹錫悦大統領にも見たことがあります。尹大統領は2016年の「朴槿恵(パク・クネ)大統領チェ・スンシル国政壟断事件」を捜査したパク・ヨンス特検の捜査チーム長でした。2017年3月6日にパク・ヨンス特検が捜査結果を発表した際、尹錫悦捜査チーム長も後列の左端に立っていました。

 その尹大統領が、大統領に当選した後の2022年4月12日に、大邱市達城郡(テグシ・タルソングン)にある朴槿恵元大統領の自宅を訪ねたのです。尹大統領は朴槿恵元大統領に「実に面目ない。いつも申し訳なく思っていた」と述べています。いったい何が面目なく、なぜ申し訳ないと言ったのでしょうか。自らの捜査と起訴が間違っていたということでしょうか。あきれた場面でした。おおかた、6月1日の地方選挙で朴槿恵元大統領に好感を持つ大邱・慶尚北道の民意を得るためだったのでしょう。

 朴槿恵元大統領は最近、中央日報が報じた回顧録で、「あの方が大統領選挙の過程で掲げた国民統合のメッセージには共感していたし、保守が政権を取らなければならないという考えから、地方選挙や総選挙とは異なり、大統領選挙の際には投票した」と語っています。大統領選挙で尹錫悦候補に投票したことを公然と表明したのです。尹大統領も朴元大統領も本音が見え見えです。

 とにかく、検事として国政壟断事件と司法壟断事件を捜査した尹錫悦大統領とハン・ドンフン委員長は、実におかしな人たちです。検事は公益の代表者として捜査し起訴を行う公職者です。個人的に捜査したり起訴したりしているのではありません。捜査や起訴が誤っていたのなら公的に責任を取ればよいのです。犯罪の被疑者や被告人に申し訳ないと謝るなんてことは、あり得ません。有利な時は「正義の使徒」のように振舞い、不利な時は「政権の手下」のように振舞う一部の特捜部の検事の二重性は、一体どこから来るのでしょうか。

2022年4月12日、尹錫悦大統領当選者が大邱達城郡の朴槿恵前大統領の自宅を訪ね、あいさつしている=当選者報道官室提供//ハンギョレ新聞社

 私は、韓国の検事たち全員が尹大統領やハン委員長のように卑怯だとは思いません。政府樹立以降、数多くの検事が独裁政権の不当な圧力に様々な方法で抗し、とうてい耐えられない時は法服を脱ぐという最後の手段で抵抗しました。特捜部の検事として名声を博し、政治家になったホン・ジュンピョ大邱市長も、検察の後輩たちの堂々としえない振る舞いに不満を感じていたようです。司法壟断に一審判決が下された1月26日の夜、フェイスブックに次のように記しています。

 「正義だけを見つめて進む検察ではなく、政権ばかりを見て進む政治検察の残した弊害は、このように恐ろしいものだ」

 それでも書き足りなかったのか、1月29日午前にまたこんな書き込みをしています。

 「検事は他人の人生を左右する捜査を行う人間として、その結果に対して職と人生をかけて責任を取る捜査を行わなければならない。私は検事をしていた11年の間、重要事件を捜査する際には、無罪になれば検事を辞すことを常に念頭に置いて捜査をおこなっていたし、だから在職期間中に重要事件での無罪はただの1件もなかった」

 私はホン・ジュンピョ市長の主張が正しいと思います。

 まとめます。検事たちの政界進出が相次いでいます。すでに40人あまりの現職、あるいは元検事たちが、選挙で「国民の力」と野党「共に民主党」の公認を得るための競争に飛び込んでいます。特に尹錫悦大統領に近い元検事が、当選に有利な地方区で続々と旗揚げしています。「尹錫悦師団」が行政府の掌握に続き、国会まで掌握しようとしている格好です。公益の代表者である検事が政治中毒になってしまったら、司法正義はどうなるのでしょうか。国はどうなってしまうのでしょうか。元検事として政権を掌握した尹大統領とハン委員長は答えるべきでしょう。みなさんはどうお考えですか。

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1127128.html韓国語原文入力:2024-02-04 07:30
訳D.K

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