金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記兼国務委員長が昨年末、南北関係を「敵対的な二国間関係、戦争中の二つの交戦国の関係」と規定した後、北朝鮮は西海(ソヘ)海岸砲射撃(1月5・6・7日)、極超音速弾道ミサイル発射(1月14日)、戦術核搭載水中核魚雷「ヘイル(津波)」実験(1月19日)、「プルファサル(火矢)3-31型」と「ファサル(矢)2型」巡航ミサイルの発射(1月24・28・30日)などの武力示威を続けている。
ヘイル、プルファサルのような北朝鮮の兵器の名前は、誰がどのような意味を込めて付けたのだろうか。正解は「分からない」だ。これまで北朝鮮は、開発中か実戦配備した兵器の命名基準などを一度も公に説明したことがないからだ。
しかし、ヘイル、ファサル、プルファサルのような短くて明確な北朝鮮の兵器の名前と、これらの兵器体系の特性を考えてみると、なぜこのような名前が付けられたのか推察できる。これらの北朝鮮の兵器の名から、「核強国」という国家ブランドを強化しようとする北朝鮮の思惑が明確に見える。
津波か、「波のうねり」か
北朝鮮が2012年から11年間開発したという原子力無人水中攻撃艇の名前が「ヘイル」だ。北朝鮮はこの兵器の使命が「密かに作戦水域に潜航し、水中爆発で超強力な放射能の津波を起こし、敵の艦船集団と主要作戦港を破壊・消滅させること」だと説明した。あっという間に陸地を襲う巨大な津波のように、韓国海軍の作戦基地や軍艦を一掃するという意図が込められた名前だ。
しかし、韓国と米国の情報当局は、北朝鮮の主張するヘイルの威力は誇張されており、一部は捏造されたとみている。今後、北朝鮮がヘイルを完成したとしても、放射能の津波を起こす爆発力はなく、放射能に汚染された海水が目標物を濡らすレベルだと分析している。同兵器の威力が津波級ではなく、波のうねり程度に過ぎないということだ。また、ヘイルが小型核弾頭を装着した、より大きくなった魚雷の形になった場合、スピードが遅く、決められた作戦区域内でしか運用できないため、韓米の対潜水艦戦部隊の攻撃に見つかりやすく、軍事的な実効性が低いと判断している。北朝鮮が実際の威力とは別にヘイルというインパクトの強い名前を前面に出して、「核強大国の北朝鮮」という国家ブランドを固める政治的効果を狙っているというのが、韓国と米国の分析だ。
火矢、矢、手斧
「『プルファサル3-31型』の初発射実験」(1月24日)→「新たに開発された潜水艦戦略巡航ミサイル『プルファサル3-31型の試験発射」(1月28日)→「戦略巡航ミサイル『ファサル2型』の発射訓練」(1月30日)。
北朝鮮が発射したプルファサルとファサルはいずれも巡航ミサイルだ。北朝鮮側は「ファサル2型」に戦術核弾頭の「ファサン(火山)31」を装着できると主張してきた。
巡航ミサイルは、低高度飛行能力、地形によって高度を変えながら飛行する能力を備えている。相手の指揮部、軍事施設など核心的な標的を精密打撃する特性を持っている。北朝鮮は的に命中する矢(プルファサル)のように精密打撃能力を強調するため、巡航ミサイルに矢の名前を付けたものとみられる。
米国の有名な巡航ミサイル「トマホーク」は、アメリカ先住民の戦闘用手斧の名前に因んだものだ。研ぎ澄まされた手斧の刃の鋭さと、戦闘中に投げれば正確に飛んでいき目標に突き刺さる姿を巡航ミサイルの精密打撃の特性に結び付けた命名だ。北朝鮮のファサルと米国のトマホークは、精密打撃を強調する巡航ミサイルの特性と威力を強調する名前だ。
韓国の巡航ミサイルの名前は、「玄武(ヒョンム)3」だ。韓国軍は主力ミサイルに玄武を付けた「玄武シリーズ・ミサイル」を持っている。玄武シリーズには弾道ミサイル(玄武1・2・4)と巡航ミサイル(玄武3)がある。玄武は「北方の守り神」玄武から取った名前で、北朝鮮などの脅威に対抗して国を守るという意味が込められている。
一つの兵器に二つの名前?
2022年1月17日、北朝鮮が弾道ミサイルを発射すると、韓国のマスコミは北朝鮮が1年10カ月ぶりに「KN24」、いわゆる北朝鮮版ATACMS(エイタクムス)を発射したと報じた。「北朝鮮版ATACMS」は、このミサイルの特性が米国の戦術地対地ミサイル「ATACMS」に似ていることから、韓国と米国が付けた別称だ。KN24は韓米当局の分類方式による名前だ。KNは、北朝鮮(North Korea)の英文イニシャルであるNKの前後を変えたもの。KNの次の数字は韓米情報当局が発見した順に付けたものだ。KN24は韓米情報当局が24番目に発見した北朝鮮のミサイルという意味だ。2022年1月当時、北朝鮮官営メディアは「戦術誘導弾」を発射したと報道した。
ミサイルにはそれを作った国が直接つけた名前より、他国がつけた名前が一般化した場合も多い。大半の国が開発段階にあるか、主に使用するミサイルは軍事秘密であるため、名前自体を公開しないためだ。
冷戦時代にソ連が作り今も世界紛争地域で使われるスカッド(SCUD)ミサイルが代表的な事例だ。スカッドミサイルを作ったソ連が付けた名前は「R11」だ。同ミサイルはソ連で1950年代に開発されたが、初期には存在自体が西側に知らされず、1960年代初めに西側の情報機関が把握し、「スカッド」と名付けた。
韓米情報当局は1990年5月、咸鏡南道咸州郡蘆洞里(ハムジュグン・ノドンリ)で、北朝鮮の準中距離弾道ミサイルの存在を確認した。韓米はこのミサイルが最初に発見された地名の蘆洞里を取って「ノドンミサイル」と呼んだ。一部では地名の蘆洞を北朝鮮労働党の「労働」と勘違いしたりもする。北朝鮮が付けた名前は「火星(ファソン)7」だが、韓国と米国では30年以上にわたり「ノドンミサイル」と呼ばれてきた。ムスダン(舞水端)、テポドン(大浦洞)のような北朝鮮ミサイルの名前もノドンのようなケースだ。
北朝鮮は地対地弾道ミサイルに「火星」という名前を付けるが、数字が大きいほど最新ミサイルで射程距離が長い。スカッドミサイルの火星5型は射程300キロメートルの短距離弾道ミサイルで、昨年12月18日に発射した火星18型は射程1万5000キロメートルの大陸間弾道ミサイルだ。なぜ火星という惑星の名前を弾道ミサイルに付けたのかについて、北朝鮮はこれまで公に説明したことがない。