「私たちも殺し、私たちにも拒否権を行使しろ。こんなのが大統領なのか」
30日午前に政府ソウル庁舎で行われた国務会議で、政府が梨泰院惨事特別法に対する再議要求権(拒否権)の行使を尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に要請したことが伝えられると、庁舎前で特別法公布を訴えていた遺族たちは泣き叫びながら庁舎正門に駆け寄っていった。
固く閉ざされた正門の格子を握りしめた遺族たちは、その場に座り込んで「私たちを殺してくれ」と言って泣き叫んだ。惨事発生から459日目になるこの日まで、ひたすら真の真相究明のみを願って駆け抜けてきた遺族たちの念願を踏みにじった政府与党に対する、血のにじむような絶叫だった。
_____________
「我が子の死んだ理由を知りたいという気持ちがどうして政争になりえるのか」
犠牲者のイ・ジュヨンさんの父親で、梨泰院惨事遺族協議会の運営委員長を務めるイ・ジョンミンさん(62)は、「1年間にわたってこんなにも哀願し、訴え、頼んできだ。血も涙もない政権だ。この政権は遺族を二度殺した。私たちの子たちと同じように、私たちも死に追いやってほしい」と言って泣き叫んだ。
この日、梨泰院惨事特別法に対する尹大統領の再議要求権行使が現実化したことで、同法の公布を求めてきた遺族たちは大きな失望をあらわにした。梨泰院惨事特別法が今月9日に法案提出から264日を経てかろうじて可決されて以降、法案が廃棄されないことを願って剃髪(ていはつ)、三歩一拝、五体投地などで必死の訴えをおこなってきただけに、さらに大きな衝撃を受けているようだった。ある遺族は再議要求権の行使を聞いて、手にしていた「尹錫悦大統領は梨泰院惨事特別法を直ちに公布せよ」と記されたプラカードを地面にたたき付けた。
これに先立ち遺族たちは、「終わるまで終わったわけではない」という気持ちで、国務会議の行われている政府ソウル庁舎の前で、リレートークで最後の訴えをおこなった。
25歳の娘のシン・エジンさんを亡くした母親のキム・ナムヒさん(50)は「梨泰院惨事特別法が政争だという。賠償や補償の話を切り出して国民をたぶらかし、政争化させているのは誰なのか、まさに与党『国民の力』と政府だ。親が子の死んだわけを知りたいというその気持ちが、どうして政争になりうるのか。遺族が望むのは、ひとえに独立的な調査機関による真相究明だ。私たちは尹錫悦大統領の拒否権を拒否する」と語った。
遺族協議会はこの日発表した声明で「尹大統領と政府官僚、国民の力の議員たちは、自らの無責任で愚かな決定によって歴史に残る罪を犯した。私たちは安全社会へと向かう機会をまたしても逃し、災害惨事の脅威からただの一歩も抜け出せなかった」とし、「最小限の大義名分も根拠もない大統領の拒否権乱用は、国民的審判が避けられないだろう」と述べた。