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「梨泰院1年、惨事の時も今も政府はそばにいない」

登録:2023-10-30 01:41 修正:2023-10-30 06:56
「梨泰院惨事1年」ソウル市庁前で追悼大会
10・29梨泰院惨事1年の29日、ソウル龍山区の梨泰院惨事の現場「10・29記憶と安全の道」で、遺族が献花しながら涙を流している=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

<来るのは1年ぶり。ごめんね。また会って一緒に踊ろう>

 29日、ソウル龍山区(ヨンサング)の地下鉄梨泰院(イテウォン)駅1番出口の前に設けられた追悼空間に、ソン・ハンビンさん(29)とソン・イェビンさん(26)が花束を置いた。2人は1年前、梨泰院惨事で亡くなった故チェ・スビンさん(22)の大学の友人だ。舞踊を学んでいたチェさんは卒業公演をわずか3週間後に控え、事故にあった。故人と共に卒業公演を準備していたというハンビンさんは、「市庁駅の焼香所には行ったが惨事現場には初めて来る。申し訳ない気持ちでこうしてやって来た。現場がとても狭く、冷たく、夜はどれだけ寒かったろうか。苦しみの中でだんだんと意識が薄れていったかと思うと、とても心が痛む。花屋の主人にきれいに作ってくれと言って弔花を持ってきたが、故人が喜んでくれたら」と話した。'

 10・29梨泰院雑踏事故惨事から1年を迎えるこの日、惨事の現場にはあの日の惨状を忘れないようにとの市民の足取りが絶えなかった。ハミルトンホテル脇の路地の入り口には、追悼客が置いていった弔花や酒、菓子が山積みになっていた。近ごろはやりのタンフル(フルーツを砂糖や水あめでコーティングし、串に刺したもの)も目立った。ある追悼客は「あの時はタンフルがなかったけど、今はありますね。時間がこんなにも流れたのに変化は何もない。ずっと見守り、行動する」と記した追悼文を壁に貼っていった。

<あの時はタンフルがなかったけど、今はありますね。時間がこんなにも流れたのに変化は何もない」>

<尹大統領は、追悼大会は政治的だから行かないと言って、その後、朴正熙の追悼式には行った。国は今も惨事に向き合い、責任を取る考えはないようにみえる>

29日午後、ソウル中区のソウル広場で、10・29梨泰院惨事1年市民追悼大会が行われている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 子どもと共に追悼に参加した人も少なくなかった。カン・ソヨンさん(42)は「私の子どもはセウォル号惨事が起きた年に生まれ、今年で9歳になった。子どもにこの事件の意味を知ってもらうために来た。なぜ大統領がとやかく言われているのか子どもに聞かれるが、国と社会システムが責任を取るべきなのに取っていないからだと伝えた」と話した。2人の子どもを連れたシン・ヒョネさん(42)は「子どもたちには、このような惨事が起きた時には哀悼しなければいけないし、二度と同じようなことが起こらないように声をあげなければならないと説明した」と語った。

 惨事現場では、一部の遺族が悲しみのあまりへたり込んでしまっていた。ある遺族は「1年間何をしてきたのか。こんなことはあり得ない」と叫んだ。

 市民の追悼が続く中、近隣の道路では梨泰院惨事遺族協議会・市民対策会議の主管による4大宗教の祈りの集いが開かれた。2車線を埋め尽くした遺族と宗教家たちは故人の魂を慰めると共に、声を一つにして責任者処罰と真相究明を求めた。梨泰院惨事を象徴する紫のジャンパーを着た遺族たちは、涙ぐみながら「梨泰院特別法を制定せよ」、「真相を究明し、再発防止対策を立てよ」と叫んだ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の謝罪とイ・サンミン行政安全部長官の辞任を求めるスローガンも響きわたった。

29日午後、ソウル中区のソウル広場で、梨泰院惨事1年市民追悼大会が開かれている。10・29梨泰院惨事遺族協議会のイ・ジョンミン運営委員長の開会の辞を開く遺族たち=キム・ボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

 祈りの集いを終えて惨事現場に献花し、その後、龍山(ヨンサン)の大統領室を経てソウル広場に到着した遺族と市民は、午後5時から惨事1年追悼大会を開催した。近くに設けられた合同焼香所には、市民が200メートル以上の追悼の列を作った。追悼大会には主催側の推計で1万7000人あまりが参加した。仁川(インチョン)から来たイ・ヨンジュさん(28)は、「尹大統領は、追悼大会は政治的だから行かないと言って、その後、朴正熙(パク・チョンヒ)の追悼式には行った。国は今も惨事に向き合い、責任を取る考えはないようにみえる」とし、「このような惨事が再び発生したら、誰が責任を取るのか心配になる」と話した。

 共に民主党などの野党の議員たちはこの日、追悼大会に大勢参加し、哀悼の意を表した。民主党からはイ・ジェミョン代表、ホン・イクピョ院内代表ら指導部と多数の議員が参加。正義党のイ・ジョンミ代表と基本所得党のヨン・ヘイン常任代表、進歩党のユン・ヒスク常任代表ら、その他の野党の代表も席を共にした。

 国民の力からはイ・マンヒ事務総長、ユ・ウィドン政策委議長、キム・ビョンミン、キム・イェジ両最高委員、イン・ヨハン革新委員長、イ・ジュンソク前代表、ユ・スンミン前議員らが「個人の資格」で参加した。尹大統領は野党の主導する「政治行事」であるとの理由で参加せず、代わりにこの日午前、ソウル城北区(ソンブック)のヨンアム教会で行われた追悼礼拝に参加した。

 遺族協議会のイ・ジョンミン運営委員長は追悼大会の開会の辞で、「惨事後、遺族はただの一度も政治的行動をしたことがない。単に私たちは私たちの口惜しさを訴えてきたに過ぎない」、「政府の責任はないと考えていらっしゃるのではないかと(大統領に)答えを聞きたい」と述べた。

<惨事後、遺族はただの一度も政治的行動をしたことがない。単に私たちは私たちの口惜しさを訴えてきたに過ぎない>

 追悼の辞を述べた野党の代表たちは、与党を一斉に批判した。民主党のイ・ジェミョン代表は、「国は惨事の時も今も、犠牲者と遺族のそばにいない。このように反省しない心と責任を取らない態度が五松(オソン)惨事と海兵隊員の死という別の悲劇を生んだのだ」と述べた。進歩党のユン・ヒスク代表は「野党が主導する行事だから参加しないなら、与党が主導すればよいではないか」、「尹大統領こそ惨事を政争化している」と述べた。正義党のイ・ジョンミ代表は「梨泰院惨事特別法の制定を必ず成し遂げる」と約束した。

 故キム・ウィジンさんの母親のイム・ヒョンジュさん、故アン・ミンヒョンさんの姉のアン・ハギョンさんら、遺族が震える声で犠牲者に宛てた手紙を読みあげた際には、参加者が客席のあちこちで泣いているのが見られた。

梨泰院惨事の遺族と市民が29日午後、ソウル龍山区の梨泰院惨事の現場で祈りの集いを終えた後、追悼大会が行われるソウル広場に向かって行進している=ペク・ソア記者//ハンギョレ新聞社
シム・ウサム、コ・ビョンチャン、シン・ヒョンチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1114081.html韓国語原文入力:2023-10-29 19:16
訳D.K

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