韓国政府が29日、福島原発汚染水の海洋放出計画で、安全性より先に検討すべき正当性を検証した記録がないことを認めた。
パク・クヨン国務調整室国務第1次長は同日、政府ソウル庁舎で開かれた福島原発汚染水の海洋放出に関する定例会見(毎日実施)で、「国際原子力機関(IAEA)安全基準の『正当化』原則に合致するかどうかを確認したか」という趣旨の質問に対し、「(海洋放出を決める)当時、政府と日本との間、またはIAEAとの間で『正当化』や『最適化』をめぐって具体的に検証作業を行ったか(に関するもの)は、私たちが持っている記録には見当たらない」と答えた。パク次長はさらに「おそらく対話の上ではあったかも知れないが、文書の形でこれまで把握したものの中には(ないという)それは認める」と付け加えた。
正当化は原子力発電所の運営や汚染水の放出のような放射能リスクを誘発する活動を行う際、それに伴うすべての便益とリスクを計算し、便益がリスクを上回る場合のみ正当性を認める原則だ。IAEAが「(防護の)最適化」、「線量限度の適用」原則と共に、放射能リスクを発生させる施設と活動に提示した3つの基本原則の中で最初に適用するようにしたものだ。福島原発汚染水の海洋放出にこの原則を適用するためには、放出において便益のない韓国と太平洋の島国の経済・環境的リスクも考慮しなければならない。
最適化原則は、放射能リスクを誘発する活動は合理的に達成可能な最高水準の安全を保障しながら行われるべきだということ、線量限度の適用原則は先の二つの原則を満たした後、最小限の安全確保のために排出の許容基準などを守らなければならないという要求だ。
正当化と最適化の原則は、前政権で特に強調したものだ。2019年9月19日付の関係省庁合同報道資料によると、当時オーストリアのウィーンで開かれたIAEA総会に参加した韓国政府代表団は、IAEA事務総長代行との面会で、福島原発汚染水の処理が二つの原則に合わせて検討されるよう要請したという。
パク国務次長は「法令には前に前文があり、後ろに条文があり、さらに具体的な規定が必要な場合は、施行令や下位規定に従うことになる。(正当化原則などは)一つの前文程度の意味とみれば良いし、IAEAが加盟国に対してそのような精神を強調したもの」だと述べた。原則を具現し検証するための具体的な規定は完成していないという趣旨の説明だ。
しかし、IAEAの安全基準によると、正当化を含めた3つの基本原則は最上位基準である安全基本原則(SF)だけでなく、下位基準の一般安全要件(GSR)と一般安全指針(GSG)にも含まれている。実際、一般安全指針-8(GSG-8)には「正当化に関する決定は、便益とリスクに関連しうるあらゆる考慮事項が統合されるよう、十分高い政府レベルで下されなければならない。計画された被ばく状況では潜在的被ばくによるリスクも正当化決定で考慮されなければならない」などの具体的な適用方法まで明示されている。