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[コラム]「全斗煥はサッカーを、尹錫悦は教育をよみがえらせた」という錯覚

登録:2023-06-27 07:43 修正:2023-06-27 11:53
発足から1年が過ぎた尹錫悦政権の最も心配な点がまさにここだ。大韓民国の命運のかかった国政アジェンダを国民に提示して慎重にアプローチするのではなく、大統領の断片的な一言で政府省庁と政界、マスコミまでもが踊らされるように動くという点だ。どうして長官や政権党の高官は「大統領は入試不正捜査の経験があるので教育は誰よりもよく知っている」という恥ずかしいことを、ためらうことなく言えるのだろうか。
尹錫悦大統領とキム・ゴンヒ女史が25日、ソウル鍾路区の大韓民国歴史博物館で開催された「韓米同盟70周年特別展」を観覧している/聯合ニュース

 1983年5月8日にソウル運動場で開催されたスーパーリーグ開幕戦を観戦した全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領は、サッカー協会とチームの関係者にこのように語った。「サッカーはゲームが速く、選手たちの妙技が続出してこそファンが増える。韓国サッカーをよみがえらせるためには攻撃型へと発展させるべきだ」。この発言は翌日の朝刊1面に「全大統領、『攻撃型サッカーへと発展させるべき』」という見出しで大きく掲載された。特に間違っているわけではない。問題は、この発言をきっかけにサッカー界が「攻撃型サッカー」への変身のために死活をかけるかのごとく努力したということだ。

 5日後の5月14日付「毎日経済」には「韓国サッカーのパターンが変わる」と題する記事が掲載された。「韓国サッカーが大きく変貌しつつある。守備中心のスタイルから攻撃中心へと変え、豪快な味をファンに示している。攻撃型サッカーは、先日の全大統領の勧めでスーパーリーグの各チームはもちろん実業チームでも研究が活発になり、サッカー中興を導くものと期待されている。…低迷していた韓国サッカーが攻撃型サッカーで十余年ぶりに蘇生の兆しをみせている」

 その後、韓国サッカーがどのような経緯をたどって世界的水準に近づいたのか、私たちはよく知っている。全大統領の卓越した指導のおかげではない。2002年の韓日ワールドカップを準備し実施したことで、韓国サッカーは一段階上へと飛躍したのだ。

 近ごろ韓国社会を騒がせている大学修学能力試験の「キラー出題(超難問)」問題を見ると、40年前のことを思い出すのはなぜだろうか。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領がイ・ジュホ教育部長官に「学校の授業さえ一生懸命ついていけば問題を解けるよう出題せよ」と指示したというニュースに接した時は、「当然すぎる指示ではないか」と思いつつも、あまり気にすることはなかった。ところが、その後の過程は第5共和国時代の「攻撃型サッカー」指示と同じくらい荒唐無稽だ。修能出題に責任を負う韓国教育課程評価院の院長と教育部の大学入試担当局長が突如辞任した。教育部と評価院に対する監査が始まった。

 イ・ジュホ長官は、大統領の指示を迅速に履行できなかったことを謝罪した。「尹大統領には検事時代に入試関連の捜査をした経験がある。私も専門家だが、多くを学んでいる」と大統領の洞察力を持ち上げた。ここまでくると、第5共和国時代の官僚的雰囲気との違いはない。全斗煥大統領は陸軍士官学校時代にゴールキーパーをしていたのでサッカーに誰よりも詳しいと褒めたたえ、韓国サッカーの活路を見出したかのように大騒ぎしたではないか。しかし大統領の一言で韓国サッカーや教育の方向性が変わるというのは、実は変わったと勘違いしているだけなのだが、果たして正常な国や政府だと言えるのだろうか。

 キラー出題と教育界の利権カルテルを批判する大統領の真意を疑うつもりはない。尹大統領は本当にそう信じているのだろうし、一部は事実かもしれない。しかし、キラー出題の経緯を監査、捜査したからといって、韓国の教育問題が解決できはしないことは明らかだ。発足から1年が過ぎた尹錫悦政権の最も心配な点がまさにここだ。大韓民国の命運のかかった国政アジェンダを国民に提示して慎重にアプローチするのではなく、大統領の断片的な一言で政府省庁と政界、マスコミまでもが踊らされるように動くという点だ。どうして長官や政権党の高官は「大統領は入試不正捜査の経験があるので教育は誰よりもよく知っている」という恥ずかしいことを、ためらうことなく言えるのだろうか。

 大統領の任期は5年だ。歴代の大統領室で働いていた人々に会ってみると、一様に語るのが政権1年目の重要性だ。「任期初年が非常に重要だ。その時に国政アジェンダを国民に明確に示し、支持を得て、政権2年目、遅くても3年目には成果を出さなければならない」と助言する。しかし尹錫悦政権は政権発足から1年が過ぎても、これから何をするのかが分からない。教育改革、労働改革、年金改革を「3大改革課題」として提示したものの、そのうちどれ一つとしてまともに準備してもいないし、国民に示してもいない。大統領が思いつきを突如として投げつければ、政府省庁と与党はびっくり仰天して反射的な反応を示し、社会的波紋ばかりを広げた、というのが全てだ。週69時間制問題もそう、キラー出題もそうだ。

 あらゆる改革は利害が衝突する。それを克服するために意見を取りまとめ、説得し、困難を突破する力を備えることこそ大統領のすべき仕事だ。だが内容が不十分なものだから、現政権はひたすら検察と警察による捜査や監査院による監査ばかりに頼っている。労働改革は民主労総と建設労組に対する捜査で、教育改革は利権カルテルに関する捜査で国民に成果を誇示しようとしている。来年4月の総選挙さえ勝てればよいという考えなのだろうが、これでは選挙の勝利どころか何の政策レガシーも残せないだろう。政府与党内に大統領に直言できる人物が存在し、せめて内部討論が行われるよう願う。

//ハンギョレ新聞社

パク・チャンス|大記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1097493.html韓国語原文入力:2023-06-26 14:50
訳D.K

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