実に奇異な政権です。150人を超える国民が事故で一度に死亡したのに、2カ月近く経っても責任を取って辞任する人が誰もいません。
ハン・ドクス国務総理も、イ・サンミン行政安全部長官も、ユン・ヒグン警察庁長官もしっかり職に留まっています。今日はこの中から、イ・サンミン行政安全部長官について話したいと思います。
イ・サンミン長官は1965年生まれで、全羅北道益山(イクサン)出身です。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領のチュンアム高校、ソウル大学法学部の4年後輩です。八浪の末に司法試験に合格した尹錫悦大統領と違って、4年生の時に司法試験に合格し、長い間判事として勤務しました。弁護士になってからは朴槿恵(パク・クネ)大統領選候補キャンプに参加し、政権引継ぎ委員会の専門委員を経て、国民権益委員会副委員長を歴任しました。そして尹錫悦候補選挙対策委員会の経済社会委員長を務め、引継ぎ委員会の対外協力特別補佐官に起用されました。
イ・サンミン長官は就任後「国民が災害から安全に暮らせるよう先進化した災害安全管理システムを確立する」と約束しました。ところが10・29梨泰院(イテウォン)惨事が起きました。惨事直後の政府合同ブリーフィングで、「以前に比べ、特に懸念するほど多くの人が集まったわけではない」と述べました。「通常と違って警察や消防職員を予め配置することで解決できる問題ではなかったと把握している」とも発言しました。
保守メディアも「誰も責任を取らない」
私はテレビの生中継でこのシーンを見ながら、耳を疑いました。これほどの大型事故が起きれば、担当長官は事故の収拾と真相の把握に最善を尽くすと約束し、とにかく頭を下げるのが常識です。なのに、国民の安全に責任を負う長官ともあろう人が「あらかじめ防げる事故ではなかった」と言い逃れをしたのです。世論の怒りが沸き起こりました。イ・サンミン長官はこの時、辞任すべきでした。私は尹錫悦大統領がまもなくイ・サンミン長官を交替させるだろうと予想しました。あるいは少なくともイ・サンミン長官が先に辞意を表明し、尹錫悦大統領は「(事態を)収拾してから辞意を受け入れる」意思を示すだろうと踏んでいました。その位の常識と良識を備えた人たちだと思っていたからです。
しかし、違いました。政治部記者を長く務めたにもかかわらず、まだ修業が足りなかったかもしれません。尹錫悦大統領がイ・サンミン長官の退路を防ぎました。11月7日の国家安全システム点検会議で現場の警察を強く叱責し、かの有名な「しっかり発言」をしました。
「責任というものは、取るべき人にしっかり問わなければならないのであって、漠然とすべて責任について責任を取れというのは、現代社会ではあり得ない話だ」
私はこの言葉を数十回聞き直し、また読み直してみました。どう見ても政治的責任と法的責任を区分できない発言でした。政治家ではなく、法律家の狭い見識をそのまま表す発言でした。しかし、尹錫悦大統領のこの発言が出てから、政府与党からイ・サンミン長官更迭論はすっかり姿を消しました。尹錫悦大統領は大韓民国の最高権力者だからです。
尹錫悦大統領は11月11日の東南アジア出国の際に見送りに来たイ・サンミン長官の左腕を2回叩いて親近感を表しました。11月16日の帰国の際は、イ・サンミン長官に握手を求め、「お疲れ様でした」と励ました。イ・サンミン長官も中央日報との携帯メールインタビューで、「(このような立場になると)誰もが恰好よく辞表を出して、この状況から抜け出したいと思うだろう。しかし、それは国民に対する道理でも、高位公職者の責任ある姿勢でもない」と述べました。
その大統領にしてその長官でした。11月23日、与党「国民の力」と野党「共に民主党」が梨泰院惨事国政調査を行うことで合意し、翌日国会本会議で国政調査計画書を議決しました。民主党は11月25日、イ・サンミン長官を28日までに罷免するよう尹錫悦大統領に求め、11月30日に解任建議案を発議しました。解任建議案は12月8日に国会本会議に報告され、12月11日に在席議員183人のうち賛成182人、無効1人で可決されました。
梨泰院惨事をめぐる国政調査に与野党が合意した直後にイ・サンミン長官解任建議を進めた民主党の行動がどうも釈然としません。惨事直後にすべきことを後回しにした結果、体裁が悪くなったのです。しかし、国会で解任建議を議決した以上、尹錫悦大統領はイ・サンミン長官を解任すべきでした。いわゆる保守系新聞の論客も、イ・サンミン長官の解任を求めました。それが常識だからでしょう。
「私が知っているかなり保守的な知人たちも、大統領がなぜあれほど『イ・サンミン庇護』に執着するのか理解できないという。『行政安全部長官が梨泰院惨事と何の因果関係があってクビにするのか』と思っているなら、まだ政治がよく分かっていないと言わざるを得ない。大統領をクビにできないから長官をクビにするのだ」(「東亜日報」パク・ジェギュン論説主幹のコラム)
「市民158人が命を失った大惨事が起きてから40日が過ぎたが、誰一人責任を取って退いた人がいない」(「中央日報」社説)
「アリストパネスが嘲弄したソフィストたちは、今日では法律家たちだ。法律家は本能的に責任を転嫁する。はじめは予防不可能論を振りかざしていたのに、突然一線の責任論を持ち出した」「法は一線の責任は無限で、上層部になるほど責任を問うのが難しい構造になっている。このような責任転嫁こそがアリストパネスの喜劇にぴったりの素材ではないか」(「東亜日報」ソン・ピョンイン論説委員のコラム)
(2に続く)