梨泰院(イテウォン)惨事は、狭い路地に多くの人が集中したことで押し合いになったこと、人波に遮られて救助隊員が被害者に対して心肺蘇生法(CPR)などの迅速な応急医療措置が取れなかったことにより、多くの窒息死が発生した。特に呼吸器の問題で心停止に陥った場合には、4~5分以内に呼吸が回復しなければ蘇生率が極度に下がる。
30日の医療専門家の話を総合すると、狭い空間に非常に多くの人が詰め込まれると、呼吸困難による心停止で致命傷を負う可能性がある。人が息をする原理を見ると、胸に力を入れて胸郭が外に膨らめば、横隔膜が胸を大気圧より低い陰圧状態にし、それによって空気(酸素)が自然に肺に入ってくる。今回の惨事のように四方から胸が押さえつけられる状況になれば胸郭を膨らませることができなくなるため、外部の空気が取り込めなくなる。この時、体内にたまった二酸化炭素の排出よりも酸素が供給されないことの方が大きな問題となる。
人は外部から自分の体重の60%ほどの力が腹と胸に加わると、1時間以内に呼吸不全に陥るという外国の研究もある。開かれたサイバー大学消防防災学科のペク・スンジュ教授は「通常、収容するとしても1平方メートルに3人、野外公演会場のような場所では最大5人まで」とし、「1平方メートルに10人以上いると圧死事故が起きると考えられるが、1人が横になる面積が1.2平方メートルほどだから、昨日のようなケースでは倒れた1人の人の上に12人が載っているということ」と説明した。成人の平均体重を65キロとすると、1人の上に780キロが載っていたわけだ。
ソウル峨山病院のキム・ウォニョン救急室長(救急医学科教授)は「肺が体内に酸素を供給しなくなると、細胞が持っている酸素で耐えることになるが、短くは4分、いくら長くても10分以上経つと細胞は死ぬことになる」とし、「そうなれば(体の部位の中で血を最も多く消耗する)脳が機能を停止し、続いて心停止が来る」と述べた。心筋梗塞など、心臓そのものの問題で生じた心停止の場合は蘇生率が80%前後になるが、呼吸器が原因の心停止の場合は生存率が5%前後と、より低いことが知られる。
このような状況では、男性より筋肉量が少なく力の弱い女性の方がより大きな被害を受けざるを得ない。今回の惨事の被害者の3分の2ほどが女性である理由だ。キム室長は「胸が圧迫されれば空間を作るために本能的に腕を組んだり腕をすくめたりして筋力で耐えることになるが、筋力が弱い女性はそのように耐える力が弱くならざるを得ない」と述べた。
呼吸不全以外にも、複数の人が上下に折り重なれば体がより大きな圧力を受け、臓器破裂や多発性骨折が生じうる。人道主義実践医師協議会のチョン・ヒョンジュン政策局長は「圧死事故では多発性出血も生じ得るし、脾臓や肝臓が破裂すると心肺蘇生法を行っても蘇生が難しいケースが多い」とし「多発性骨折が生じると、流れ出した脂肪が血管を伝って肺塞栓症を誘発しうる。このような時は緊急にECMO(エクモ、患者の体外に血液を取り出し、酸素を供給して再び体内に戻す医療機器)による治療を行わなければならない」と話した。