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銃声やまぬ海、西海の北方限界線…9・19南北軍事合意が最後の安全弁

登録:2022-10-25 09:00 修正:2022-10-25 11:33
24日未明、北朝鮮商船がNLL越え 
韓国軍が警告射撃、戦闘機・海兵隊も待機 
北朝鮮、ロケット砲10発で対応警告砲撃
北朝鮮の金正恩国務委員長は、北朝鮮軍戦術核運用部隊などの軍事訓練を指導し「敵と対話する内容もなく、またその必要性も感じない」と明らかにした。金委員長は先月25日から今月9日まで人民軍戦術核運用部隊、長距離砲兵部隊、空軍飛行隊の訓練に出席した場でこのように述べたと、北朝鮮の朝鮮中央通信が10日明らかにした。当時の北朝鮮軍の訓練シーン/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 24日未明、西海(ソヘ)の北方限界線(NLL)で一触即発の危機状況が起こった。北朝鮮商船がNLLを越え、南北が警告射撃を交わし、万一の状況に備えて空軍戦闘機が出撃した。北朝鮮の7回目の核実験の観測が高まる中、南北の「火薬庫」であるNLLの危機が再び高まっている。

 同日午前3時42分ごろ、西海の白ニョン島(ペンニョンド)の北西約27キロメートルから北朝鮮商船(ムポ号・5000トン級)1隻がNLLを越えてきた。韓国の合同参謀本部(合参)は「警告通信および警告射撃を通じて退去措置を取った」と明らかにした。この日、北朝鮮船舶は約40分間、NLL以南3.3キロまで越えてきた。軍当局は北朝鮮商船に1次警告通信、2次警告通信を20回行った後、北朝鮮商船が航路を変更しなかったため、船舶の進行方向前方にM60機関銃で20発警告射撃をした。その後、北朝鮮船舶は午前4時20分にNLL以北に北上し、中国方向へと進んでいった。

 未明に北朝鮮商船がNLLを越えたことで、軍当局は海軍の護衛艦を含む艦艇数隻と、偶発状況に備えて空軍KF-16などの哨戒戦力、海兵隊などを動員して対応に乗り出した。海軍艦艇は北朝鮮商船の1キロ付近まで接近し、北朝鮮は「北朝鮮側の海域に接近するな」という趣旨の通信を発信した。

 北朝鮮船舶がNLL以北に北上した後の午前5時14分ごろ、北朝鮮軍は黄海南道長山串(チャンサンゴッ)一帯から西海海上の緩衝区域に放射砲(ロケット砲)10発を発射した。NLL以南に落ちた砲弾はなかったが、海上緩衝区域での砲射撃を禁止した9・19南北軍事合意に違反したものと合参は説明した。

 これに対して、北朝鮮は「韓国海軍が海上軍事境界線を侵犯した」と発表した。北側の朝鮮人民軍総参謀部は「24日午前3時50分ごろ、南朝鮮傀儡海軍第2艦隊所属の護衛艦が、不明船舶の取り締まりを口実に、白ニョン島の北西20キロの海上でわが軍の海上軍事境界線を2.5~5キロ侵犯し、警告射撃をする海上敵情(敵の動向)が提起された」とし、「わが軍は24日5時15分、龍淵郡(ヨンヨングン)一帯から射撃方位270度方向に10発の威嚇警告射撃を加えた」と明らかにした。

 北朝鮮が主張する「海上軍事境界線」は、北朝鮮がNLLよりも最大6キロ南側に任意に設定した線だ。韓国はNLLを「南北間の実質的な海上境界線」と認識しているが、北朝鮮はNLLを認めていない。北朝鮮は西海5島と北側の陸地が共有する海は半分ずつ分け、小青島(ソチョンド)と延坪島(ヨンピョンド)の間は領海基準に沿って北側の海岸から12海里までを北朝鮮の管轄とする海上境界線を主張している。

 軍関係者は、「NLLを基準に正常な対応措置を取った。海上境界線を侵犯したという北朝鮮の主張は受け入れない」とし、「(NLLと北朝鮮の主張する海上軍事境界線の間の海域は)正常な我々の作戦区域だ」と述べた。韓国海軍艦艇はNLL以南にあり、警告射撃した機関銃弾もNLLを越えていないということだ。

 小規模の北朝鮮漁船が操業中に過失や機械の故障などでNLLを越えるケースがたまにあるが、航行の装備を備えて訓練を受けた船員たちが運航する北朝鮮商船がNLLを越えるケースは珍しい。北朝鮮商船の越境は、2017年1月に東海(トンヘ)上で発生して以来、5年9カ月ぶりだと軍は伝えた。

 この日NLLを越えてきた北朝鮮商船のムポ号は、1991年9月、スカッドミサイルを積んでシリアに向かっていたところ、米国の情報当局などの監視にかかりミサイルを渡すことができないまま帰港した兵器輸送船と同じ名前だ。今回のムポ号が約31年前のムポ号と同じ船なのか、それとも単に名前だけが同じ船なのかは不明だという。軍当局は、商船のムポ号が1991年のように異なる目的を持つ偽装船の役割を果たしたのか、それともNLLをわざと越えて韓国軍の対応を誘発することで、北朝鮮が局地的な挑発などに乗り出す大義名分を蓄積しようとの意図なのかなどを多角的に調べている。

 世宗研究所のチョン・ソンジャン北朝鮮研究センター長は、「北朝鮮軍の事前承認なしに北朝鮮商船が午前3時42分にNLLを侵犯することは想像できないこと」だとし、「今回の事態は、西海のNLLを無力化するために北朝鮮が意図的に企画した可能性が高い」と述べた。また「今回の北朝鮮商船のNLL侵犯と北朝鮮軍の放射砲射撃は、『西海海上不可侵境界線』に対する韓国と北朝鮮の合意の不在を改めて示したものであり、北朝鮮は『戦術核兵器』運用に対する自信を背景に、今後彼らに不利に引かれたNLLを無力化しようとするだろう」と予想した。

 南北が互いに海上境界線を一方的に設定し、相手が越えてくれば領海を侵犯したとの主張を繰り返してきたことで、西海のNLL一帯は「紛争、対立、衝突の海」になった。西海のNLL近くでは、1999年、2002年、2009年に南北の海軍間で3度の交戦が発生したことがある。この一帯の偶発的な軍事衝突を防止する安全弁の役割を果たしてきた9・19軍事合意(2018年)が破棄された場合、南北の武力衝突が再現される危険な状態に戻ることになる。

 西海の緊張が高まる中、海軍は24~27日、西海上で特殊部隊の侵入、局地挑発などに備えた大規模な海上訓練を行う。これは護国訓練の一環として毎年行われる定例訓練であり、今年は米軍も参加する合同訓練方式で行われる。

クォン・ヒョクチョル、シン・ヒョンチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1064073.html韓国語原文入力:2022-10-25 02:42
訳C.M

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