尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は10日午前0時、ソウル龍山(ヨンサン)大統領室に新たに設けた国家危機管理センター(地下バンカー)で合同参謀本部の報告を受けることで、大統領として公式執務を始める。突然の執務室移転で「安全保障上の不安」が議論になっただけに、新大統領として軍統帥権を支障なく移譲されたという点を示すための象徴的な行動だ。尹大統領はソウル漢南洞(ハンナムドン)の外交部長官公館のリモデリングが終わる30~40日間、自宅のある瑞草洞(ソチョドン)から龍山まで通勤することになる。
青瓦台の地下バンカー機能を龍山の大統領執務室に急いで移転するのは難しいという懸念の声もあがったが、尹大統領側は移転業務を滞りなく終えたと説明している。老朽した青瓦台より龍山庁舎の地下バンカーの方がはるかに安全だという点も強調する。尹大統領側の関係者は9日、本紙との電話インタビューで、「国防部の建物は築20年で(青瓦台より)丈夫であり、地下2階だけでなく地下3階までさらに深く国家危機管理センターを設けて、安全を考慮した」と話した。
また、龍山執務室の上空防護のために防空体系を大きく調整する必要がないというのが尹大統領側の説明だ。防空体系であるパトリオット砲台の射程距離は30~40キロメートル程度になるが、龍山執務室も十分防空の範囲に含まれるためだ。飛行禁止空域は従来の半径8.4キロメートルから3.7キロメートルに減らして試験適用中だ。尹次期大統領側は「ドローンは運用できる地域を指定し、飛ぶ方向などだけ統制すれば脅威にならない」と付け加えた。
しかし、大統領がソウル瑞草洞の「私邸」で生活しながら龍山執務室まで通勤する未曾有の状況は、非常に大きな不安要因だ。漢南洞の外交部長官公館のリモデリングが来月初めか中旬頃に終わるまで、大統領が毎日6.5キロメートルの距離(瑞草洞~龍山)を車で行き来する「不安な二拠点生活」は避けられない。通勤ルートは龍山米軍基地を通過する3種類と龍山大統領室が位置した正門を通過する場合まで4種類があるという。尹次期大統領側は瑞草洞の家の近くに「国家指導通信車両」を配置し、非常時に備えると言っているが、「予期されない事件」の際、安全保障上の空白なく素早く対処できるかがカギだ。軍事専門家のキム・ジョンデ元議員は「北朝鮮の弾道ミサイル発射のような予測された事件より、天安艦や延坪島(ヨンピョンド)など予測不可能だった事件に対し、どのように対応するかが重要だ」と述べた。
新大統領執務室は龍山庁舎の2階と5階に設けられた。主執務室の2階から龍山公園がよく見えず、5階に補助執務室も入る。「大統領が働いている姿と空間を国民が公園に散歩に出ていつでも眺められるようにする精神的交感が非常に重要だ」という尹次期大統領の意思によるもの。21日に開かれる米国のジョー・バイデン大統領との韓米首脳会談も5階の執務室で行われる。大統領主執務室がある2階には秘書室長室があり、3階には首席秘書官室、4階には安保室が位置する。