尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足(10日)と韓米首脳会談(21日)を控え、朝鮮半島情勢が「2017年の戦争危機」を連想させる崖っぷちの対峙へと急速に進んでいる。北朝鮮を長年にわたり相手にしてきた韓国政府内外の高官や元老たちは8日、「北朝鮮の7回目の核実験が差し迫っているようだ」とし、「今は希望の光が見えない」と懸念を示した。少なくともしばらくは情勢悪化を防ぐ「制御力」が見当たらず、「強対強」の対峙が避けられないという分析と見通しが示されている。
北朝鮮が7日、「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と推定される短距離弾道ミサイル1発」を発射したと、国家安保会議(NSC)常任委員会と合同参謀本部が明らかにした。「新浦(シンポ)南方海域から東海上に」発射し、「飛行距離600キロメートル、高度60キロメートル」だ。2021年10月19日、新浦沖の「8・24英雄艦」から発射した「鳥型潜水艦発射弾道弾」(飛行距離590キロメートル、頂点高度59キロメートル)と似ている。北朝鮮の戦略兵器の発射実験は、4日の「火星15型」と推定される「弾道ミサイル」発射(飛行距離470キロメートル、高度780キロメートル)以来3日ぶり。「労働新聞」と「朝鮮中央通信」は4日と7日の2回にわたる発射事実をまだ報道していない。必要に応じてまとめて発表するものとみられる。
北朝鮮の弾道ミサイル発射実験は、今年に入って韓国政府が公に発表した事例だけで13回目だ。1月25日の巡航ミサイル、3月20日の放射砲発射を加えれば15回目の発射だ。これまであまり見られなかった短期集中型の武力示威だ。
北朝鮮のこのような行動には、内外で様々な要因が複合的に働いたというのが政府内外の分析だ。第一に、米国のジョー・バイデン政権の北朝鮮に対する「無関心」、第二に、文在寅(ムン・ジェイン)政権の交渉路線と「朝鮮半島平和プロセス」に否定的な立場を示してきた尹錫悦次期大統領の北朝鮮強硬路線、第三に、ロシアのウクライナ侵攻の「反面教師」、第四に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐため2年3カ月間にわたり続いた国境閉鎖により低下した人民の士気を高める必要性などが複雑に絡んでいる。軍事技術、対外戦略、国内政治の3つの側面から、北朝鮮の「需要」を探ることができる。
軍事技術的需要「今が核試験の適期?」
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記兼国務委員長は、4月25日の「朝鮮人民革命軍創建90周年慶祝軍事パレード」での演説で、「核武力を質量的に強化し、任意の戦争状況で、それぞれの作戦の目的と任務に沿って異なる手段で核戦闘能力を発揮できるようにしなければならない」と述べた。金総書記の指針どおり「核」とその「運版手段」の「多種化」を実現するためには、実験と発射が必要だ。ところが、ウクライナ事態で米ロの真っ向対立が続き、国連安全保障理事会が北朝鮮の核実験や大陸間弾道ミサイル発射に対抗して「追加制裁」に合意するのが困難な状況だ。常任理事国であるロシアが拒否権を行使しているからだ。「核武力をできる限り急速に強化・発展させるための措置を取り続けていく」と強調した金総書記にとっては見逃せない「絶好のチャンス」であるわけだ。
実際、金総書記は地対地中長距離弾道ミサイル「火星12型」の検収射撃試験(発射実験)(1月30日)→軍事偵察衛星開発の重要試験(発射実験)(2月27日、3月5日)→新型大陸間弾道ミサイル「火星砲17型(従来の名称は火星17型)」の発射実験(3月24日)→潜水艦発射弾道ミサイルと推定される短距離弾道ミサイルの発射(5月7日)など、多様な核兵器運搬手段の発射実験を、「制裁」を受けることなく立て続けに行い、朝鮮半島の危機レベルを高めてきた。国内外の専門家たちが、北朝鮮の7回目の核実験の可能性が高いとみるのもそのためだ。パク・チウォン国家情報院長も最近、メディアとのインタビューで、「北朝鮮が(7回目の)核実験を行うかもしれない」と懸念を表明したほどだ。複数の消息筋は「北朝鮮が早ければ今月中に豊渓里(プンゲリ)3番坑道で爆発力10キロトン以下の戦術核実験を行う可能性を排除できない」と述べた。
韓米に対する「強対強」武力示威
金総書記は1月19日、労働党中央委第8期第6次政治局会議で、「米国の敵視政策と軍事的脅威が黙過できない危険水域に達した」とし、「暫定的に中止したすべての活動の再開の検討」を指示した。2018年6月12日、朝米首脳会談で約束した「核実験と大陸間弾道ミサイル発射実験の中止」を破る可能性があるという脅しだった。しかし、バイデン米大統領は3月2日の就任後初の一般教書演説で、「北朝鮮」について一度も言及しないなど、「無関心」を貫いている。
さらに、大統領選挙期間中に「対北朝鮮先制打撃」を数回言及した尹錫悦次期大統領に対しては、「南朝鮮が我々と軍事的対決を選択する状況になれば、やむを得ず我々の核戦闘武力は自分の任務を遂行しなければならないだろう」(4月5日、キム・ヨジョン労働党中央委副部長談話)とし、韓国に対し「核兵器の使用」をちらつかせた。外交安保分野の元老は「北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射は尹次期大統領の『先制打撃』発言を口実にした側面もある」と指摘した。
複数の元政府高官たちは「北朝鮮の最近の相次ぐ弾道ミサイル発射は、尹錫悦政権の発足とバイデン米大統領の訪韓を控え、韓米に対する圧力を強めることで関心を求める意図もあるようだ」と述べた。
人民の不安をなだめる
金総書記は4月25日夜、金日成広場を埋め尽くした数万人の平壌(ピョンヤン)市民を前に、「いかなる勢力であれ、朝鮮民主主義人民共和国との軍事的対決を企てるなら、彼らは消滅するだろう」と述べた。「核」で武装した北朝鮮はロシアの侵攻に踏みにじられたウクライナのようにはならないから「安心しろ」という意味だ。「労働新聞」が「国家の存立と発展、人民の幸せを頼もしく担保した革命的武装力」を強調し、「強大な我が祖国に栄光あれ」という題名の「正論」を4月27日分の1面トップで掲載したのもそのためだ。元韓国政府高官は「コロナ禍と長期にわたる国境閉鎖で沈滞した経済を考えれば、低下した人民の士気を高め、金正恩体制の正統性と国力を誇示する手段が『核』を前面に掲げた軍事力だけだという内部政治的事情も働いたと思われる」と指摘した。
金正恩総書記の戦略的判断と意図が何であれ、「崖っぷちの対峙」へと急速に進みながら悪化する朝鮮半島情勢の流れを対話と交渉の方に戻す「制御力」が見当たらないことに状況の深刻さがある。外交安保分野の元老は「北朝鮮の7回目の核実験などを防ぐためには、米国が制裁緩和など非核化に相応する具体的な措置を提示し、朝米対話を早期に再開しなければならないが、バイデン政権の態度からして、その可能性は非常に低い」とし、「10日に発足する尹錫悦政権がバイデン政権を説得して交渉局面の糸口を模索するとも思えず、憂慮すべき状況だ」と話した。