米国のジョー・バイデン大統領は21日(現地時間)、ワシントンでの文在寅(ムン・ジェイン)大統領との首脳会談を機に、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と北朝鮮を「尊重」するとの意思を明らかにした。首脳会談の共同声明に「北朝鮮(North Korea)」という略称ではなく「朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)」という正式な国号を明記したのがその一例だ。米国が常に自分たちを無視・蔑視していると考えてきた北朝鮮としては、肯定的に受け入れ得る部分だ。しかしバイデン大統領は、北朝鮮側が朝米対話・交渉の再開の「条件」として粘り強く提起してきた制裁の緩和と「北朝鮮敵視政策の撤回」問題については、進展した方策を示さなかった。核と制裁が複雑に絡み合った朝米の敵対関係を「どのように」解消しようとしているのかは明らかにしなかったということだ。発足初期であり、国内外の各種の難題に集中するため「準備」が足りなかったという事情のためということもあり得るし、朝米対話の過程で自ら明らかにしようと考えて今回は公開しなかったということもあり得る。
文大統領とバイデン大統領がワシントンでの首脳会談後の共同記者会見と共同声明で明らかにした対北朝鮮政策の基調は、2019年2月のハノイ朝米首脳会談決裂の「逆風」を遮断し、「対北朝鮮関与」へと確実に方向を定めたという点で肯定的に評価される。
第一に、「交渉の連続性」を確保した。「2018年の板門店宣言やシンガポール共同声明などの既存の南北間、朝米間の約束にもとづいた外交と対話が、朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和定着の実現に欠かせないという共通の考えを再確認した」という共同声明が代表的な例だ。朝鮮半島の冷戦構造解体の強力な力が働いた2018年の南北および朝米首脳会談の成果を継承するという公式宣言だ。「朝鮮半島の完全な非核化」を目標とし、「精巧で実用的なアプローチ方法」で「北朝鮮との外交」を探るという共同声明の文言も、こうした脈絡から理解できる。
第二に、朝米対話の専用窓口を指定・開設した。バイデン大統領は記者会見で「ソン・キム大使が対北朝鮮特別代表として働くことを発表できて嬉しく思う」と公式発表した。文大統領はこれを「北朝鮮との対話の準備ができているという米国の強い意志の表明」と解釈した。実際に、バイデン大統領が一般の予想に反して北朝鮮人権大使ではなく対北朝鮮特別代表を先に任命して公開したことは、バイデン大統領が「北朝鮮の人権」より「北朝鮮の核問題」を優先課題とし、「対立」より「対話・交渉」を好むという証拠であるため、北朝鮮側には肯定的なシグナルとして受け取られる可能性がある。韓国系移民1.5世のソン・キム大使は、20年以上にわたり「北朝鮮の核」と朝鮮半島問題に関与してきた米国の正統外交官(6カ国協議代表、北朝鮮政策特別代表、韓国大使など)で、「穏健で合理的」であるため、北朝鮮の拒否感も小さい。
第三に、北朝鮮「尊重」の意思を強調し、北朝鮮を刺激しないよう、それなりに努めている。共同声明で北朝鮮のことを公式の国号である「朝鮮民主主義人民共和国」と呼んだのが「尊重」の兆候だとすれば、北朝鮮側が「反共和国謀略扇動」と非難してきた「人権問題」について、「北朝鮮の人権状況の改善に向けた協力」という課題を「北朝鮮住民に対する人道的支援提供の継続促進」の意志と一文で語り、「北朝鮮に対する刺激」を減らそうとした。
第四に、バイデン大統領が金正恩委員長と会う可能性を基本的に排除していないことも、北朝鮮側には「悪くない信号」と受け止められ得る。バイデン大統領は記者会見で「私の外交安保チームが北朝鮮の外交安保チームに会って(『核問題』に関する北朝鮮の)正確な(交渉)条件知ることができない状況では、金委員長には会わないだろう」としつつも「金委員長が北朝鮮核問題についての意志を示し、何かを約束するなら会うことができる」と述べた。
しかし、韓米首脳はこうした明確な「対北朝鮮関与」基調を表明したものの、金委員長が直ちに呼応する可能性は低い。何よりも金委員長が「北朝鮮敵視政策の撤回」の試金石として挙げた韓米合同軍事演習の中止に関する糸口が提示されなかったからだ。むしろ韓米首脳は共同声明に「合同軍事準備態勢維持の重要性を共有した」と明示している。
また、北朝鮮側が「核危機」で表象された「朝米の敵対関係」解消の方法論として粘り強く提起してきた「段階的アプローチ-同時行動」についても、バイデン大統領は何も言及していない。ただし文大統領は記者会見で「段階的アプローチについて、韓米で認識を共にしている」とし「北朝鮮の肯定的な呼応を期待する」と述べている。